第10話 医者の仕事は肉体労働 - 絞首刑
ぶっそうなタイトルですが、れっきとした医者の話しですよ。
昔から、病気の予後をいいあてるのは、むずかしいこととみえて、2000年以上も前のギリシャのお医者、ヒポクラテスさんも、これを名医の条件に上げています。
あえていわせてもらえば、今の病気がこれからどうなるかなど、緊急時には分かるはずがないのです。
「うまくゆけば助かりますが、最悪の場合はダメかも知れません」
神妙な顔付きで説明すると、分かったような気がするものですが、よく考えてみると、実に当たり前のことしか、いってないのです。(←(^ω^)本当だ)
ところがこれで案外、
「そうですか、よく分かりました。ありがとうございます」
そういって納得される方が、意外に多いのです。(←(^ω^)助かります)
ある夜救急車で、脳卒中の患者さんが入院してきました。意識もなく、呼吸も弱いので、気管内に挿管して人工呼吸としました。
家族が心配そうに、
「どれくらい、もちますか」
そういわれても分かるわけないのですが、「はて、分かりません」ともいえず、
「いまは落ち着いていますが、今夜あたりが山でしょう」
と答えたのです。
その人、さっそく親戚に電話をかけにとんで行きました。
すると、舌の根もかわかぬうちに、患者さんの心臓が止まってしまったのです。
「おいおいまずいな」
数人で胸をとんとんたたいたり、心臓マッサージをしても、心臓の応答は全くなし。入れかわり立ちかわり心臓マッサージを続けます。
そこへ電話を終えた彼が帰ってきたのです。
なにやらベッドを囲んで、わいわいやっているのを妙に思ってのぞきこむと、患者の、死に顔にびっくりぎょうてん。
「なにやったんだ!」
怒鳴るが早いか、みるみるうちに形相が変わって、おそいかかってきたのです。
「そんなこといわれても、 止まっちゃったんだもん……」
本音はそうなのですがそうともいえず、ただうつむくまま。
その人がまた柔道の有段者とやらで、どでかい図体をしているのです。そんな人におそいかかられてはたまりません。
私は身をかわしたのですが、うしろにいた医者がもろに首をしめられ、絞首刑とあいなったのです。
「うわあ、苦し~い!」
あとで本人に聞いたら、一時は死ぬかと思ったそうな。
とにもかくにも、予後をあてるのはしんどいことなのです。
これとは反対に、
「ご臨終です」
おごそかに死亡を宣告して、家族がワーッと泣き出したとたん、心電図がまたピコタンピコタンと動きだすこともあるのです。
患者にすがって泣いてた家族も、アレー?てな顔をして心電図をのぞきこんだりして。あわてるやら、ばつが悪いやらということだって、時にはあるのです。(←(^ω^)本当にばつが悪いよ)
〈つづく〉
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