第9話 医者の仕事は肉体労働 - 心臓はどこだ!

 医者の仕事は肉体労働。一に体力、二に体力なんです。特に外科医ともなると、手術はずっと立ちっぱなし。しんどいことこのうえなし。


 患者になにかあれば、朝から晩まで病棟をかけずり回るのです。大手術でもあれば、不寝の番(ねずのばん)、てなこともあるのです。


 夜は夜で自宅にいても、しょっちゅう電話がかかってきます。( ←(^ω^)まるで勤務中みたいだわ)


 体力の次には精神力。


 何が起きても動じない肝ったまが外科医には必要です。手術中に大出血を起こして失神した、患者ならず、お医者もいると聞きます。


 友人の外科医など、ときに太い血管がちぎれてどっと血があふれても、


「おっと!」


というが早いか、血管を素手でつかんでしまいます。止血が終わると、


「血管って血が流れてますね」


 冗談をとばす余裕ぶりです。この余裕が外科医にはすごく大切なのです。


 いかに医者の仕事が大変なものか、 少し書いてみますよ。


 手術はいつも緊張します。なにごともなくスムーズに運んだ時はいいのですが、時に予期せぬ事が起きます。そういう時は、よくいう、おしっこもちびりそうなくらい緊張するものです。(←(^ω^)ちびったことはないけどね)


 ある時、中学生を全身麻酔で手術していました。虫垂炎後の腸閉塞です。


 手術は順調に進んだのですが、半ばあたりで、なぜか患者の心臓が突然止まってしまったのです。


 患者はむろんのこと、医者もまっさお。あわてて心臓マッサージ。ワラにもすがる思いとは、このことをいうのでしょう。


 こういう時は今ではやりませんが、強心剤を心臓内に注射するのが昔は一般的でした。ところがあわてていますから、大きめの握りこぶし大もあるはずの心臓にうまく命中しません。


 しかも患者は全身シーツで覆われているので、正確な位置関係は分かりづらいのです。(←(^ω^)言い訳がましいね)


「心臓はどこだ、どこだ!」


「ここだ、ここだ!」


 医者入り乱れての、てんやわんやの手術室です。


「第4肋間胸骨左縁」(←(^ω^)これ、常識ね)


 成書にあったのをふと思い出し、1本、2本、3本……と肋骨を数えて、


「そこだ!」


 叫ぶが早いか針を刺すと、みごと命中。 どっと鮮血が逆流してきました。


 幸い悪戦苦闘して心臓は動き出し、脳死にいたらずにすみましたが、そのくたびれたことこのうえなし。手術を終えると、手術台脇にへたりこんでしまいました。(←(^ω^)弱っちい医者だこと)


 なんで外科医なんぞになったのやらと、つくづくとその時は思ったのでした。


〈つづく〉

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