第8話 医者の仕事は肉体労働-病気も予約にしてくれ
医者も人間、ピンからキリまで十人十色。
私の見るところ、ピンとキリは10人に1人、あとは自分の仕事に誇りを持って、こつこつ日常診療に励むお医者さんです。
マスコミは、意外性を取り上げないとニュースになりませんから、そこにご登場なられる方々は、このピンとキリの方々なんです。マスコミが騒ぐと、医者すべてがそうであるかのように錯覚しがちですが、ほんとうは、そうでないお医者さんのほうが、圧倒的に多いのです。(←(^ω^)アメリカ大統領選も似ているね)
医者というと、「白い巨塔」にご登場の財前五郎ばりの、いかにも格好いい職業のようにお思いでしょうが、実際はどうしてどうして。苦労ばかりが多い仕事なのです。
だいたい夜中に、当たり前のように起こされる人種が、ほかにありましょうや!( ←(^ω^)愚痴っぽいね)
世間様は寝ているのに、病気は夜にもちゃんと起きて下さいます。銀行なんぞ夜中に行っても、冷たくシャッターがおりているだげで、泣けど叫べどだれも相手にしてくれません。ガードマンか警察に追い払われるのがおちなのです。太古より夜は、神様が作って下さった、いこいのひとときなんです。
ところが、疲れていようが、やりたいことがあろうが、医者にはそんなことはおかまいなし。トイレにいようと、お風呂で鼻歌まじりの気分にひたっていようと、病気は待っていて下さいません。病気も予約してから起きてくれたらと思うのは、私一人のことではありますまい。
私は大学卒業後、精神科の大学院に入りました。2年ばかり精神科をやりましたが、ひょんなきっかけで外科へとまさに180度転換したのです。( ←(^ω^)この人、かなりの変人だわ)
外科に移ってみると精神科とは大違い。
外科医なんていうと、 スカイブルー の手術着を身にまとい、さっそうと手術室に登場。
「メス!」
なんて言っちゃって、さぞかし気持ちのいいものとお思いでしょうが、当の本人などは、冷た-い汗をたびたび流しながら、手術にいどんでいるのです。
いったん手術に入ろうものなら、雨が降ろうが槍が降ろうが(←(^ω^)幸い、手術室には雨も槍も降りません)、はたまた人類共通の生理的欲求が起ころうが、手を休めることなど断じて許されません。
長い時には、こんな状態が10時間近くも続くのです。
こんなことがありました。手術を始めたとたんお腹がゴロゴロ鳴り出しました。食べたものが悪かったせいか下痢気味になったのです。身をよじろうが肛門を締めつけようが、いっこうに治まる気配はありません。
幸いその時は手術の助手だったので、まだ助かりました。執刀していたら手術に集中できず、違った臓器を切ってしまっていたかも知れません。
ついに、ちびりそうになってギブアップ。赤面しながら小声で打ち明け、トイレに駆け込み、すんでのところでセーフ。スッキリして戻って来ると、しらけた様なスタッフたちの目。
そりゃそうでしょう。気合を入れていざ執刀という時に、下痢で中断だなんて迷惑千万。
下痢止めの注射を打って、
「どうもどうも……」
ペコペコ謝りながら、手術を再開したのです。
またこんなこともありました。胃の手術をしている時に、突然地震がきたのです。相当の揺れでした。手洗い用の洗面器の水がこぼれて、ジャボンジャボンと床に落ちるのです。
ナースが避難しましょうかと言います。
手術中に患者を置いて逃げたとあっては、外科医のこけんにかかわります。
「だ、大丈夫」
必死にこらえながら胃の縫合をしていました。まもなく、なにごともなく地震はおさまリました。
やれやれと思って胃の縫合を続けようとしたのですが、まだこきざみに揺れているのです。
気が付いてみると、自分がガタガタと武者震いしてたんです。
「ああ、恐かった」
〈つづく〉
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