第28話 伝説と神の武器を作りしモノ
セインベルグ北部では、天魔と自警団の戦いが繰り広げられていた。
相手はつい数時間前と同じ下級天魔だ。
ただし、その数は明らかに異なり、三十体に増えていた。
だが、異なっているのは天魔の数だけではない。
戦況もまた異なっていた。
「よっしゃあ、天魔一体撃波!」
「こっちもだ。……この剣、すげえぞ! これなら天魔の防護を切り裂ける!」
百余人ほどで構成された自警団側が押していたのだ。
彼らは光を放つ鉄の剣を手に、下級天魔を切り伏せていた。
「さっきは数十人で囲んでようやく一体を足止めするのがやっとだったのに、やっぱりスゲエ武器を使うとちげえな!」
「ああ、しかもこの剣、さっき出てきた戦乙女の作品らしいぜ。なんでも百人分、あっという間に用意してくれたらしくてよ」
「マジか! そりゃとびきりの加護が掛かってそうだな。道理で剣を持つだけで力が湧いてくるわけ――だ! よっしゃあ、もう一体撃波ァ!」
自警団の面々は、襲いくる天魔を相手に、一歩も引かずに戦い続けていた。
けが人はいるが、未だに死人はゼロだ。
自分たちが持っている武器の強さに余裕の会話すら出てくるほどだった。
このままいけば、被害少なく下級天魔達を押し返せるかもしれない。
そんな事は熟練冒険者や勇者クラスにしかできないような偉業だ。
そう思った彼らの士気はどんどん上がっていく。
「ああ、このまま行けるぜ。俺達は……!」
そして、天魔を倒そうと誰もが意気揚々と武器を振るおうとしていた。その時だった。
「――何をしている、下級天魔ども」
空から一振りの刀を持った、大きな体躯の天魔が降ってきたのは。
「人間どもを裁いて餌にせよと言ったのに、チマチマと倒されおって。恥を知れ。そして――調子が良いようだが、ここまでだな人間ども」
大きな天魔はニヤニヤと笑みを浮かべながら、自警団の姿を見降ろしてくる。
その光景に、思わず自警団の面々は後ずさった。
「なんだ……この威圧感……」
「やべえ。この感覚、中級天魔でもありえねえ。……もしかして上級天魔か……!」
震えるような自警団の声に、大きな天魔は顔をしかめた。
「上級天魔? そこまでしか感じ取れないのか? これだから人間の弱さは嫌になるが、まあ教えてやろう。私は、上級天魔長ベイラだ。しっかり覚えたな? だから、私たちの餌になれよ、人間――」
「――誰が餌になるかよ!」
ベイラの話が終わるよりも早く、自警団の面々は彼に斬りかかった。
素早い動きで、三方向から一気に斬りかかる。だが――
「はは、……調子に乗るな。私は、我が主から武器を賜りし者だぞ」
ベイラが刀を引き抜いた。
瞬間、その姿が、ぶれた。そして、
「ぐおお……!?」
ベイラに攻撃をくわえていた者は、体を切り裂かれ、吹き飛ばされていた。
更には、ベイラの近くにいた自警団すらも巻き込んで、きりもみしながら地面に倒れ伏す。
「な、んだ、今の。見えなかった……ぞ……」
「刀が光ったと思ったら、いきなり後ろに居やがった……。あいつ、どんな早さをしてるんだ……!」
倒れ込んだ自警団の面々は血をこぼしながら、ベイラを見上げた。
彼は、愉快なものを見る目で倒れた人間たちを見ていた。
「はは、我が主から賜った武器の味はどうだ。死んだか? ……いや、まだ生きているな。ああ、有り難い。我が主から頂いたこの武器を試すにはいい機会なのだから」
ベイラは心底楽しそうに笑い声をあげる。
「はは、私は、この力を持って、私は神に近づく! そして、神の僕でありながら、自我をもち、反旗を翻した伝説の武器を回収し、すりつぶし、さらなる力の糧とする! というわけで人間ども。その目的の前に貴様らは邪魔だ。さっさと裁いて、神の元に送ってやろう」
そうして再び刀を構えた。
あの見えない攻撃が来る。
だが、自警団には避ける動作をする力どころか、起き上がる体力すら残っていなかった。
「やべえ、死ぬ……」
ここまでか、と誰もが諦めを浮かべた、時だった。
「聞き捨てならない事をぺらぺらとしゃべるな、アンタ」
光の剣と、赤の剣と、黄色い杖を従えた少女たちがやってきたのは。
その姿を見たのを最後に、自警団は気を失った。
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「ウチの娘たちをどうするって? すりつぶす? はは――面白くもねえ事を言ってくれるじゃないか」
俺は幻影武器を展開しながら、レーヴァテインを引き抜いていた。
そして一歩一歩、上級天魔へと近づいていく。
左右にはレインとケイがいるが、
「レイン、ケイ。君たちは後ろで下級天魔を潰しておいてくれ。アイツの狙いは君たちも含まれるみたいだから、俺がやっておくよ」
「了解です、ラグナさん」
「いえす。でも、ますたーが傷ついたら、我慢できずに行くから。気を付けてね」
「はは、責任重大だな。了解だ。怪我を負わないように無事に済ませるよ」
そうして俺だけが、上級天魔へ向かっていく。
「うむ? なんだ貴様。新人か。貴様もこのベイラが振るう、我が主から賜った武器を味わいに来たのか? いやはや、人気で困るな。まあ、これを持つ限り、私はかの天魔王様を超えるのだから人気で当然か! ははは」
ベイラと名乗った上級天魔は高らかに笑ってから、刀を引き抜いた。そして、
「では、死ぬといいぞ、人間」
その姿がぶれた。
突風のような勢いで、俺の前まで迫ってくる。
ああ、これが先ほど自警団を吹き飛ばした技の正体なのか。
……なるほど。これは、よく、知っている奴だな。
そんな事を思いながら、俺は右手のレーヴァテインを適当に、力任せに振った。
何かに当てようとか、そんなことは考えていなかった。けれど、それだけで、
「ぐお……?!」
ベイラは地面にたたきつけられた。そしてバウンドして、俺の右方に吹き飛んで、建物に激突した。
ただ、流石は上級天魔と言うべきか。すぐに起き上がってこちらを見て来た。
「き、貴様……な、何故、私の攻撃が見える!」
「うん? いや、攻撃は見えちゃいないさ。それはコンマ五秒でこちらに突っ込んできて高速斬撃を与える《シンソク》って奥義でな。反応できるプレイヤーはそんなにいないんだが……一直線にしか動けないから武器をぶんぶん振って構えておけば当たってくれるんだよな」
「な、何を言ってる。何故、貴様は、この武器の技名を知っている……!」
先ほどまで余裕だったベイラの態度が崩れた。奥義の名前を見抜いたことがよっぽどショックだったようだ。
ただ、ショック度合いでは俺の方が強かったりする。何せ、遠目から、その刀を見た時は、とんでもなく、驚いたのだから。
「ああ、俺はよく知っているさ。何せ、その武器を鍛えたのは……俺だからな……!」
「な……あ……?」
ベイラは俺の言葉に目を白黒させていた。
気持ちは分からないでもない。俺もさっき、その刀を見たときには信じられなった。
「こ、これは我が主から賜った神の武器、だぞ……。それを人間ごときが鍛えた、だと……!!」
「ああ、その武器はさ、『神速の居合刀』っていう俺がマーシャルに渡したものなんだよ。アイツに合わせて調整して、奥義も設定した武器なんだよ。――だからよ、ベイラ。その武器はお前が使っていいものじゃないのに、なんでその武器をお前が持っているんだ? その辺、話を聞かせてもらって、いいか?」
俺の記憶の中にある、誰かに使ってほしくて鍛え上げた武器が。活躍してほしいと願っていた装備が。
神の武器だとかなんと、言われながら、こんな下卑た野郎に使われている。
活躍してほしいと願ってはいたが、こんなことに使われてしまっている。
その事実が、とても気に食わなかった。
俺はベイラに近づいていく。
一歩一歩近づいていくたびに、ベイラの表情が、変わっていく。
余裕だったものから恐怖を感じさせる顔に。
「な、何なんだ貴様! この武器は、私が主より賜った、神の武器だぞ! それを貴様のようなゴミ人間が作ったなどと、妄言を吐くな!!」
ベイラは俺の言葉を否定しながら立ちあがり、刀を一旦鞘に納めて構えた。
「妄言か。別にそれで構わないけどよ。……その我が主ってのが俺の武器を好き勝手に渡しているのか。なるほどな。情報、ありがとうよ」
天魔が主と定めたものが誰なのか。それを知る必要が出来たようだ。
狙うべき相手は決まった。そう思っていると、
「な、なめるなよ! 殺してやるぞ、人間! も、もう一度 《シンソク》で吹き飛ばしてくれる!」
ベイラは奥義スキルを使おうとしてきた。
「おい待て! もう使うんじゃない!」
俺は咄嗟に言葉を放ったが、
「ふはは、今さら命乞いをした所で遅い! ここからは全力で《シンソク》を使ってやる。そして、神の力の名の元に死ぬがいい!」
俺の制止を振り切って、ベイラは奥義スキルを使ってしまった。その瞬間、
――ベキリ
という音を立てて、彼が持っていた刀は砕け散った。
「ぇ……ぁ……?!」
ベイラは自分が起こした現象の意味がわかっていないようで目を白黒させていた。
「はあ……知らないで使いやがったのか。その《シンソク》、早くて使い勝手は良いんだが……一直線にしか進めないデメリットの他にもう一つ、欠点があってな。一日の使用回数は二度まで。その使用期限を超えると、武器がぶっ壊れるんだよ」
はあ、と俺はもう一度吐息する。
俺が鍛え上げてきた武器をみすみす目の前で壊されてしまった。
武器が壊れるのは仕方が無い。使っていけばいずれは消耗し、なくなるものだ。
そこは理解している。
……ただ、無様な使い方をされて壊されたのだと思うと、腹が立つ。
その事に残念と後悔と、そして怒りが一斉に湧いてくる。
「人が冷静に話をしようとしているのに、これか。ああ、怒りが止まらん」
俺は再び、ベイラに近づいていく。
すると今度こそ、ベイラは怯えの表情を露わにした。
「ま、待て。私に武器を向けるのか! 神の武器を携わりし私に――! それは我が主に牙をむけるのと同罪だ。我が主が――神が敵に回るぞ!!」
「ああ? そんなこと、知るかよ」
元より、目の前の天魔は、俺が大切に育ててきた武器を破壊しようとした。
レインとケイの存在を知ってか知らずか分からないが、自我を壊すとまで言い切った。
その上、鍛えて来た武器を実際に破壊した。それだけで、倒す理由は十分だ。
「俺の大切な娘たちを守るために、お前を消すぞ、ベイラ」
「こ、この、き、貴様ごとき人間にィィィィィィィィィ!!」
武器を持たず殴りかかってきたベイラに対し、俺はレーヴァテインを振りかぶった。
そして使うのは、一日一回しか使えないというデメリットを持った、この剣の奥義。
「お前が壊した武器のように、塵も残さず消滅しろ。レーヴァテイン奥義。――《イグニシア・バーストエンド》」
俺の剣の振りと同時に、レーヴァテインの赤い刀身が青い焔を噴出する。
そして青い焔に包まれた伝説の武器は、
「――!!」
叫び、襲い掛かる天魔の体を一瞬のうちに焼き焦がした。
その一撃は悲鳴すら焼き尽くす。
後に残るのは、天魔であった塵だけだった。
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