第27話 信用は積もるもの

 休憩を挟みながらの作業だったので、意外と時間が掛かってしまったが、どうにか鉄の剣百本の鍛錬を終えることが出来た。

 鍛冶ポイントは2500/3000と普通の数値になるくらい減ってしまったが、作業が無事に終わったのでいいだろう。


「んじゃ、あとは運搬よろしく」

「は、はい! かしこまりました」


 そして山ほど積まれていた剣は、ギルド職員の手で、慎重に次々に自警団の元へ運ばれていく。これで仕事は一つ終わりだ。

 

 だが、まだやるべき事がある。むしろそっちが本命だから気合を入れよう、と思いながら、俺は先ほど部屋に入ってきた男の顔を見た。すると、そこには、


「あれ、鍛冶屋のおっさんじゃないか?」


 見覚えのあるドワーフの男がいた。


「アンタは……アースゴブリンの素材打ってくれた姉ちゃんじゃねえか!」


 向こうもこちらを覚えていたらしい。ただ、待ってくれ。


「鍛冶屋のおっさん、さっき鍛冶統括ギルドの長って言ってたよな? え、おっさんがギルドの統括会長なのか?」

「おうよ、その通りだ。ワシの趣味で鍛冶屋の店長も兼任しているがな。がはは」


 ドワーフのおっさん――もとい鍛冶ギルドと街運営ギルドの統括会長は豪快に笑ったあとで、真剣な目で俺を見た。


「……そこのブリジッドから話を聞いた時はどんなボウズが、ゲート使って伝説の武器を見る代わりに、武器百本打ち直すとか、どんなバカかって思ったんだが、そうか。……やけに武器に好かれていると思ったら、姉ちゃん、とんでもない鍛冶師だったんだな。見ろよ、俺が連れて来た連中が、凹んでるくらいだぜ」


 ドワーフのおっさんはそう言って苦笑した。


「あー、なんか悪い事したか?」

「いやあ、いいんだ。ここまで見事な仕事を見られたのなら、こいつらにとっても幸福だったはずだからな。むしろ姉ちゃんに会えて良い事ばかりだ」

「そう言ってもらえると有り難いよ。……ああ、そうだ。折角人が集まっているから今言うけど、俺は男だから。姉ちゃんは止めてくれ」


 そう言った瞬間、ドワーフの動きが固まった。彼だけではなく、彼の後ろに付いてきた鍛冶師連中、そして部屋に留まっていたギルドの職員も同じく固まった。


「「え?」」

「なんでみんな揃って、そう言う反応をするかね。声や口調で分かるだろ」

「「ええ?」」


 二度も首を傾げられたよ。

 なんだ、性別認識阻害の魔法でもかかっているのか。


「いやあ、男勝りだって思われる時もありますよ、ラグナさん。ラグナさんの顔、凄くかわいらしいですし。ね、ケイさん」

「いえす。全面的にレーヴァテインに同意する」


 娘二人にもそんな反応をされた。

 俺の味方がとても少なくなったぞ。


 まあ、もうこの体になってから勘違いされることに付いては諦めたけどさ。ともあれ、俺の性別の話など今はどうでもいい。


 今はこの武器作りで、信用を得られたかのほうが大事だ。それを直接彼に尋ねようとした。その瞬間だ。


「皆様! 報告します 天魔の本隊――三十体の集団が街の北部より接近中!!」


 部屋に飛び込んできた職員により、そんな報告がもたらされた。


「なっ、本隊が、もう来たのですか? まだ半日も経っていないというのに……!」


 どうやら今までで一番早く来てしまったようだ。


「ちっ、こうしちゃいられねえ。話はまたあとだ! ワシたちも出る!」


 そうして折角集まった鍛冶師ギルド統括はその仲間たちと共に、部屋から出て行った。 

 街の危機とあらばすぐに戦う姿勢に出るとは、おっさんたちは人が良いだけじゃなくて、勇気もばっちり備わっているらしい。

 そして、こうも思う。


 ――これも信用を稼ぐ、良いタイミングだと。


 窓の外、既に煙が上がっている。

 どうやら戦闘になっているようだ。


「っ、既に侵入されましたか。仕方ありません。私も向かいます。ラグナ様たちは――行く気マンマンのようですね」


 腰に付けた武器に触れつつ、歩き出した俺を見て、ブリジッドは声を震わせていた。


「当然だろう、ブリジッド。俺は鍛冶師なんだから、俺の武器がしっかり活躍出来ているか見届けたいさ」


 鉄剣百本の配備は、既に済んでいる。だから、後は見届けるだけだ。

 そう思いながら、俺は腰に付けたケリュケイオンとレーヴァテインに触れつつ、歩きだす。


「それに、天魔たちがいたら、ゲートを使う使わない以前の問題だからな。話を早く進めるためにも、行く以外の選択肢はない」


 今が一番、効率的に動ける時だしな。そう思っていると、レインとケイが俺の横に並んだ。


「行きましょう、ラグナさん。私の体と命はラグナさんと共にありますので、存分にお使いください!」

「いえす。ケイもますたーと一緒……」


 二人ともやる気十分だ。

 ああ、そうだ。俺は彼女たちが活躍する場面が見たかったんだ。そういう意味でも、この戦いには意義がある。


「それじゃあ、行くか。俺が育てた武器の力、襲ってきた天魔どもに見せつけてやるぞ!」

 

 俺達は、街の戦場に出る。街を防衛するために。

 そして力を思う存分振るうために。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る