第22話 武器を欲するワケ
俺たちはギルドの二階の部屋で、茶を飲みながら、ブリジッドに対して一通りの状況説明を終えていた。
「調書の作成と、確認作業をしてきますので少々お待ち下さい」
そんな言葉を残して、ブリジットは部屋を後にした。そして待つこと、数分。彼女は、幾つかの書類を手にして戻ってきた。
「お、調書の作成は終わったのか?」
「はい。ラグナ様の証言に合わせて、彼らの記憶を覗きこみまして。その犯行現場はしっかり記録させて貰いました」
「記憶を除く魔法なんてあるのか」
「ええ。頭に負荷をかけてしまうので、多用は出来ませんが」
なるほど、覚えておこう。
俺がその魔法を使えるようになるかは分からないが、自分の記憶を確かめる手段の一つにはなりそうだし。そんな風に俺が自分の記憶について考えている間にも、彼女の話は進んでいて、
「ともあれ、ありがとうございましたラグナ様」
そう言って、ブリジッドは頭を下げて来た。
「おいおい、たかが一犯罪者を捕まえただけなのに、そんなに深々と礼をしなくてもいいんじゃないのか?」
「いえ、一般市民の方に協力してもらったのですから、この礼は当然のことです。それに……。今回、捕まえたのは我々ギルドが長らく調査していた、辺りでは有名な強盗・詐欺グループの頭目でしたから」
「え、そうだったのか?」
確かにこの周辺の一般人よりも、少しは高いステータスをしていたが、そんなに有名な一団だったんだろうか。
「はい。彼らは手の込んだコピー品を売り捌きつつ、都市間を渡り歩くやり手の犯罪者でした。その場で商品が偽物であると分かる人は少なく、また分かった人を口封じで殺害もしくは口をきけないほどの重症にまで追い込むという凶悪な手口でして。ウチだけではなく他の都市でも複数の重傷者が出ていたんです」
「せこい犯罪者かと思っていたら意外と悪辣で被害がでかいな」
「ええ、本当にありがとうございます! ラグナ様、レイン様、そしてケイ様」
ブリジッドは再び深々と俺達に礼をしてくる。
「大手柄だね、ますたー」
「いやまあ、向こうから突っかかってきただけ、なんだけどな」
今回の件は、割と偶然の部分が大きい気がする。そう思っていたのだが、ブリジッドにとっては違うらしい。
「コピー品をその場で偽物と見抜ける眼力があり、更には戦闘能力が高いラグナ様だからこそ、捕らえられたのですよ。彼らのレベルは三十越えという強者だったのですから」
「ああ、三十超えでベテラン級冒険者なんだったな」
その辺りの基準はこの前学んだばっかりだ。
だとすると、確かに一般的な観点から言えば、強かったんだろうな。そんな事を思っていると、
「そして冒険者を捕えられたラグナ様に報奨を受け取って欲しいのですが、よろしいでしょうか?」
「ああ、そういえば、報奨とかあるんだったな? 何をくれるんだ?」
聞き返すと、ブリジッドは手にしていた書類から三枚引き抜いた。そして俺達に対して一枚ずつ、カードを渡してきた。
紙の上に張り付けられているのは、四角いカードだ。
表面には『アスガルド大陸。セインベルグ統括ギルド・特別客員』との記載がなされている。
「これは……なんだ?」
「身分証明です。それがあれば、少なくともこの街、また冒険者ギルドや商会ギルドのある街では、私の方でラグナ様の身分を保障することが出来ます。今回のようにギルドにご用事がある場合は、是非使って頂ければ、と」
「へえ、それはありがたい話だな」
このカード一枚で信用がもらえるというのなら、願ってもない。ただ、
「でも、なんで客員なんだ?」
「私たちとしてはこのまま、当ギルドのメンバーになって頂ければ嬉しいのですが……ラグナ様は他のギルドを見学してはいないのですよね?」
「ああ、今日街にきたばっかりだからな」
「それならば、勝手にメンバーに勧誘するのは不義理かと思いまして。客員の立場の方が色々なギルドを見て回れると思い、こういう形を取らせて頂きました」
どうやら気遣いをされたらしい。
「それは有り難いんだが、このギルドに登録したわけじゃないのに、身分保障だなんてしてもらっていいのか?」
登録していない人間の身分保障だなんて、リスクが大きいだろうに。
そう思って問うと、ブリジッドは小さく微笑んで首を振った。
「はい。この街に対して、これだけの実績を作ってくれた皆さんに、何もなしというわけにはいきませんから。――得た分は還元する。それが私のモットーでもあります。ですから、どうぞお受け取り下さい」
「そういうなら、まあ、貰っておくよ」
「はい、もしも正式なギルド所属になりたい場合はひと声かけて頂ければすぐに手続きを取りますので。その他、何か入用なものがございましたら、ギルドの誰かに連絡して頂ければ、用意させてますので。いつでもおっしゃってください」
「至れり尽くせりというか、随分とサービスがいいな」
「それだけ今回の詐欺商人には手こずらされていたのですよ。……そして、今さらですが、謝罪を。あのような犯罪者を街に入れてしまうとは、商業ギルド統括として失態です。合ってはならない事なのに、貴方達を危険な目に遭わせてしまった。それを謝らせてください」
ブリジッドは再び、申し訳なさそうに頭を下げて来た。
これで三度目だ。
「そこまで何度も頭を下げなくても良いぞ。みんな無事だったからさ」
そう言ったのだが、ブリジッドは首を横に振る。
「いえ、それでも謝らせてください。ああいった粗悪な商人は、こちらの不手際で入ってきているのですから。私は統括している責任というものを果たせなかったようなものです」
「不手際って、あいつらが関所を抜ける向こうの手口がうまかったんじゃないのか?」
「いえ、普段だったらもう少しチェックが厳しいのです。ただ、今は装備品が入用でして、とにかく武器・装備商人を集めていたので。ああいった粗悪品が紛れ込んでしまったのです」
「装備品が入用って。この街はそんなに装備不足なのか?」
街には鍛冶屋があったし、ドワーフの店長は忙しそうだったが、売っている武器はまだまだ数があった。
それなのに足りない、とはどういう事だろう。そう思っていたら、
「武器が足りない、というのは正確ではありませんでした。訂正します」
ブリジッドは息を吸って言葉を言いなおした。
「強い武器が、足りないのです。これから天魔王に組する、天魔達との戦争をしなければならないので」
ブリジッドの眼には強い決意が宿っていた。
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