第21話 ギルドにて
ゲームの場合、冒険者ギルドは街の中央にあったが、それは現実でも同じらしい。
酒場や宿屋を併設しているらしい、複数の看板を掲げた、二階建ての大きな建物がそこにはあった。
「外見は、ゲームの中で見たままだな」
中に入ってもそれは同じだった。
いくつものテーブルの向こうに受付のカウンターがあり、ギルドの職員らしき人と客が喋っている。
「さて、とりあえずギルドに来てみたは良いけど、こいつらは、どうすればいいんだ?」
俺は、未だ気絶しっぱなしの下手人たちを見る。
幻影武器に乗せて運搬しているので移動は楽だが、いつまでもこのままにしておくわけにはいかない。
「レイン、犯罪者って受付に引き渡して良いのかね?」
「はい。これだけ縛っていれば、普通に受付の方に渡してしまって大丈夫だと思います」
だったら早い所片づけよう、と俺はカウンターを見る。長い行列が出来ている個所が一か所ある。
その隣、虎っぽい獣人の男性の前があいていたので、そこに向かうと、
「セインベルグの冒険者ギルドにようこそ。本日は私、商業ギルド担当のボーマンがご案内にあずかります。何の御用でしょうか?」
獣人の男はかしこまった口調で丁寧にあいさつをしてきた。
対応は割としっかりしているようだ。
「犯罪者をとっ捕まえたんだけど、どうすればいいか聞こうと思ってさ」
そういうと、受付の獣人は眉をひそめた。
「ええと……犯罪者ですか?」
「ああ、詐欺商品を売ろうとしてきたんだ」
「なるほど。では、こちらの書類にお名前や所属ギルドの方をご記入願えますか? それとギルド証の方もご提示願えれば、と」
獣人が一枚の書類を取り出しながら言ってきた。
「ギルド証……って、俺はどこかのギルドに入っているわけじゃないんだが」
「え……となると、未登録の冒険者の方、ということでしょうか?」
冒険者ではなくて鍛冶師なのだが、訂正してもあまり意味がなさそうなので頷いておくと、エルフの受け付けは明らかに嫌そうな顔をした。
「あれ、ギルドの会員じゃないと不味いのか?」
「はい。信用面の方で少し問題になりまして。もしもどこかのギルドに所属されているのであれば、そこの信用を担保に出来ますが。そうでないのならば、捕まえた方が、本当に犯罪者かどうか確かめなければなりませんので……」
ああ、そうか。ゲームの方だと、受付に行くだけでよかったが、ここは現実だ。いきなり見知らぬ人が犯罪者を捕まえてきましたー、と言っても難しいか。
「となると、その場合はどうすればいい?」
「ええと、未登録の方が犯罪者を捕まえた場合はこちらの書類に、個人データを記入してもらうことになります」
そう言って、受付の獣人が取り出したのは、分厚い紙の束だ。
数十枚はあるだろうか。
「これは……面倒だな」
「規則ですので。書き終わり次第、隣の新規・仮登録カウンターに並んで頂くことになります」
」
獣人は横の行列を見ながら、とても事務的に、無愛想に告げてくる。
彼の態度はよくないが、でも対応的には間違っているわけじゃないし。
時間はかかるけど、書類に書き込んで行列に並ぶしかないのか、などと思っていると、
「あれ、ラグナ様とレインさん?」
俺達の背後から声が聞こえた。振り返るとそこにはブリジッドがいた。
「おお、ブリジッドか。久しぶり」
「はい、お久しぶりです。私の馬車が街に入ったとの報告は聞きましたが、ここにいらっしゃったのですね。――しかし、私の統括する冒険者ギルドになにかご用件でも? というか、その縛られている方々は一体……」
「ああ、詐欺師っぽい奴らが襲って来たんで、捕まえたんだよ。ただ、冒険者ギルドの受付の人に対応をお願いしてたんだけど、ギルド員じゃないと信用が足りなくて、対応が難しいらしい」
そう言うとブリジッドの目の色が変わった。
落ち着いていたものから、焦りの色に。
「す、すみません! 少し、そこで話をさせてください」
そう言って、俺達の前に出て獣人と向かい合った。
ただ、先ほどまで俺に無愛想に対応していた獣人は、ブリジッドの顔を見て明らかに動揺を浮かべていた。
「え……ぶぶ、ブリジット会長!? ど、どうしてここに!? 商業ギルドにいらっしゃったはずでは……!」
「少し所用があったので訪れたのですよ。……それよりも、そこにいる彼らに対して、貴方はどういう対応をしたのですか……!?」
「え、ええと、規則通り、仮ギルド証の発行書類をお渡し、しました」
その言葉にブリジッドは頷きを返した。
「なるほど。規則通り、ですか。ふむ……それはいい事です。私のギルド職員の教育方針は間違ってはいなかった。貴方は何も間違っていない。ですが……この場合は少々問題がありましたね」
「は……?」
「ちょっと、耳を貸しなさい」
そう言ってブリジッドは獣人に詰め寄りながら、何度か言葉を交わした。
そして、数秒後、獣人の顔が明らかに青ざめた。
汗をだらだらとこぼしつつ、俺の方を見ていた。
「ま、まさか、ブリジッド様の恩人だとは……!」
何を言ったんだろうか、と思っていると、ブリジッドがこちらに振り向いてきた。
彼女も額に汗をかいている。
「失礼いたしました、ラグナ様。そしてお二方。どうぞ、こちらへ。別室の方で対応をさせて頂きます」
「え? でも、書類に色々と書いて並ばなくていいのか? 規則なんだろ」
「良いんです良いんです。それは信用度を上げるためのものなので全く問題ありません。貴方達は、私の大切な恩人ですから、身元も正体も、善性も私が保証できますから。……そうですね?」
ブリジッドはにこにことしたまま、獣人に言葉を飛ばした。
すると、獣人は即座に背筋を伸ばして敬礼した。
そして俺の事をキラキラした目で見つめていて
「勿論!、ブリジッド様が言うのであれば、全く問題ありません! こちらの方でも、すぐに対応させていただきます! ――貴方に会えて光栄です、ラグナ殿」
思い切り対応が変わっていた。
「ああ、うん。それは、どうも」
「まずはそちらの犯罪者の運搬から!」
そう言って、男性職員は縛り上げた犯罪者を担ぎあげて、カウンターの奥へと走っていった。
随分な変わりようだが、そういえば、ブリジッドはギルドの統括だとか何とか言われていたっけ。なんらかを、口添えをしてくれたんだろう。
「……なんか急かしちゃったみたいで、悪いな」
「いいんです! ラグナ様達には特別な対応をして当然なのですから!」
「ああ、まあ、うん。早く済ませたかった身としては有り難いよ」
「いえいえ、ラグナ様はレイン様を、この街を助けてくれたお方ですから。これくらいはさせてください」
そこまで言って、しかしブリジッドは申し訳なさそうに会釈した。
「ただ、詐欺師の捕獲をしたということで。その状況を調書に記したいので、二階のほうでお茶を飲んで行ってもらうことは出来ますか?」
「ああ、それが別室対応ってやつか。……俺は別にいいんだけど。レインとケイもついてくるか?」
「はい。私はもう、お買い物は十分楽しんだので大丈夫です」
「ケイも、必要なものはますたーから受け取ったから。あとはついていく」
「おう、了解。ブリジッド、全員分の茶を頼むわ」
そう言うと、ブリジッドは嬉しそうに、そして安堵したようなほほ笑みを返してきた。
「かしこまりました。ありがとうございます。――では皆様、こちらへどうぞ」
そうして、行列ができているカウンターの奥を抜けて、俺たちは二階へと上がっていった。
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