第3話 運営スキルと鍛冶師スキル
レインに連れられて俺は川沿いを歩いていた。
目の前には雑木林が広がっており、辺りに人気は全くない。
「凄く静かな場所にレインさんは住んでいるんだな……」
「ふふ、レインと呼び捨てで良いですよ。それにここは本当に田舎ですからね。ここに来る人はいないので――っと、ストップです、ラグナさん!」
ストップの掛け声と共に俺は足を止めた。瞬間、
「――ッ!」
俺の目の前の地面が盛り上がって、刃物を持った小人が飛び出してきた。
一体だけじゃない。五体が一気に飛び出て、俺達の前に立ち塞がる。
「こいつは……」
「アースゴブリンですね。人を餌にするモンスターですが――《ファイアナイフ》」
俺に説明をしながら、レインは腕を突き出した。そして、
「――《ファイアナイフ》」
唱えた瞬間、彼女の手から飛び出た炎の短剣がゴブリンの頭に突き刺さった。レベル三十で魔術師が覚える炎系の魔法だ。
その魔法が突き刺さった個所から、炎が一気にゴブリンの全身に回り、体を焼き尽くそうとする。だが、
「ギイイイイ……!」
焼かれながらもゴブリンは立っていた。苦しみの声はあげているし、動きは鈍くなっているが、だが生きている。
「この火炎魔法では倒れないとは。……ラグナさん、気を付けてください。この辺りのモンスターはレベル三十越えの強者が多いので」
「あ、ああ」
それは知っている。アースゴブリンというモンスターに関する知識はあるのだ。
もっと言えば、見えていた(・・・・・)。
【アースゴブリン レベル三十五 所持武器:劣悪なナイフlv20】
凶悪そうな目つきでこちらをにらんでくるゴブリンの頭上に、そんなウインドウが表れているのだから。
運営側としての機能――『ステータス看破』のスキルは、モンスターに対してきっちり働いているようだ。そして、
「キエエエエエ!」
俺が見ている中、奇声と共に、アースゴブリンたちが一斉に刃物を振り上げて向かってきた。
だが、俺が発動しているスキルは、ステータス看破の一つだけじゃなかったようで、
《――鍛冶師スキル『幻影武器展開』:発動》
突如として俺の周りに現れた、幅広の光の剣が、ゴブリンの胴体を一気に切り裂いた。
それも一体だけじゃない、五体をまとめて斬りつけて、両断した。
「ギ――!?」
切り裂かれたゴブリンの体はそのまま崩れおちた。
……鍛冶師スキルと来たか。こっちは鍛冶師キャラとしての技だな。
どうやらこの世界では、運営側のスキルも、鍛冶師キャラとしてのスキルも両方使えてしまえるようだ。
ただ、ゲームとは見た目が違う。アームドエッダの中では、幻影武器のグラフィックはこのような光の剣じゃなかった。
さらにいえば、ゲームとは違いモンスターの死体は残るようだ。その血の匂いが、この世界が現実である事を告げてくるな、と鼻をこすっていると、
「や、病み上がりなのに、す、凄いですねラグナさん……!」
レインが俺の事を驚きの視線で俺を見つめて来た。
「こ、この辺りの敵はレベル三〇を超えていて、熟練の冒険者でもパーティーを組まないと対応できないくらいなんですよ!?」
「そう……なのか?」
ゲーム時代のセインベルグは、初心者でも来れる田舎町だったのだが、どうにも周辺の敵のレベルが変わっているようだ。
どうやら、全てが全て、俺の知っている世界じゃないようだ。
「……それに、こんな光の剣、見た事がありません。魔法剣にしては強すぎますし……もしかして、ラグナさんは凄腕の魔術師なんでしょうか?」
「え、いや、俺は鍛冶師なんだけどな……」
ただ、スキルをセッティングしていたから自動攻撃が発動しただけだろう。
……しかし、自動攻撃の範囲は明らかに広くなっているよな……。
こういう所も、俺の頭の中にあるゲーム知識と乖離していて少しに不安になるな、と自動的に表れた光の剣を見ていると、
「あ、消えた」
剣はその身を霧散させた。まるで煙のような消え方だった。
「す、凄い魔法でしたね」
レインは驚きながら、しかし申し訳なさそうに頭を下げて来た。
「……でも、すみません。病み上がりなのに、お手を煩わせて。本来ならば、出現と同時にファイアナイフを連発して倒すべきでしたのに」
「ああ、いや。別にいいんだよ。そんなに消耗した感じもないし」
「そう言って頂けると有り難いですが……でも、これ以上に無理をして貰うわけにはいきません」
レインは俺の手をぎゅっと握る。とても温かな感触が手にきた。
「ウチへ急ぎましょう。この周辺には強力なモンスターがいるので、明るい内に行かないと危ないですし。なによりラグナさんの体が心配です」
「お、おう、心配してくれてありがとう、レイン」
「いえいえ、ラグナさんを心配するのは当然ですので、お気になさらないでください。さ、行きましょう」
そうして、レインは俺の手を引きながら微笑みと共に進んでいく。
記憶が不安定で、この世界の事も分からない。使っているスキルだって、全て理解し切れているわけではない。
ただ、それでも、俺の手を引く彼女の手はとても暖くて、安心感すら抱かせてくれるものだった。
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