アウストリ決戦

 跳躍魔導砲と同じような兵器なら、対応はただひとつ。

「全軍、全速前進!」

フォモールを撃てば自軍にも被害が及ぶ距離まで詰めればいい。

そうすればあの途方も無い一撃を撃つことはできない。

アルフレートはそう考えた。


 だが相手もそれは読んでいる。

「やはり接近してきましたね」

エイブラムは笑みを浮かべ、余裕を見せた。

「ティル・ナ・ノーグの火力を見せてもらいましょうか」


 ティル・ナ・ノーグの力を知らないアルフレートが、アルバートの艦隊と交戦状態に入った。

「両翼を広げ、敵艦隊を翼包囲しろ」

アルフレートの命令を受け、クライバー、ベーレントは敵艦隊を包み込もうとする。

しかし、ティル・ナ・ノーグを構成する小球体群が対空砲、主砲を撃ちまくり、進軍を阻止する。


アルフレートは小球体をどうにかしないことには、敵艦隊への攻撃もままならない。

彼はモニターをアウストリ航空基地に繋げた。

真っ暗だったモニターに、バルツァーが映る。

「陛下、何でございましょうか」

「要塞の映像は確認したか?」

「もちろんです」

「要塞の小球体と本体の接続部を破壊は可能だろうか」

バルツァーはニヤリと笑った。

「もちろんです。攻撃機を総動員し、要塞を沈黙させてみせましょう」


 有言実行。

バルツァーは攻撃機、戦闘機を合計三百機出撃させ、最前線へ駆けつけさせた。

そこに空母艦載機も加わり、大編隊となった。


 要塞の対空砲がそれらを迎え撃つ。

濃密な弾幕が形成され、敵をはねつけようとする。

さらにイルダーナ軍航空隊も出撃し、大航空戦が繰り広げられる。


小球体の機銃砲台に、ニブルヘイム軍航空隊が立ち向かい、攻撃機は爆弾を投下し、それを妨害しようとするイルダーナ軍機を戦闘機が追い払う。

一つの小球体の砲台を確実に潰していく。


 その小球体の火力が低下すると、攻撃機の目標は本体との接続部へと変わった。

抵抗力を低減させた小球体に有効な反撃はできず、攻撃機の苛烈な攻撃によって、接続部の基礎部分は致命的なダメージを負った。


 メキメキと不穏な音を響かせ始める。

異変に気づいた小球体の人員は逃げ出そうとするが、既に手遅れ。

接続部が完全に折れ、多くの人員を載せた小球体は落下していった。


 小球体が一つ失われたことを知ったエイブラムは、顔の前で手を組んで考え込んだ。

八つある小球体のうち、稼働しているのは半分しかない。

人員が足りず、半分を動かすだけで精一杯だった。

こうなったら、ニブルヘイム軍、特に航空隊への被害が大きいことを祈るしか無い。


 小球体を一つ破壊し、基地航空隊は一時帰投していた。

戦果を挙げたものの、バルツァーとアルフレートの表情は厳しい。

「損害が大きいな」

三百機中、約五十機が帰還しなかった。


 雰囲気を打開すべく、バルツァーは明るい材料を提供した。

「しかし、航空隊からの報告で気づいたのですが、要塞の小球体のうち、半分は動いていません」

「ということはあと3つ破壊すれば、完全に沈黙ということか。しかし犠牲が大きいぞ」

「艦隊の支援はいただけますか?」

「空母艦載機以外ということだな」

バルツァーは頷いた。

「戦艦の主砲の直射をお願いします」


 アルフレートは彼が何を言いたいのかわからなかった。

「どういうことだ」

「今回の作戦を受けて、小球体へのダメージが相当大きくなれば、彼らは持ち場を捨てて他の小球体へ移るでしょう」

「つまりせっかく接続部を破壊しても、人が逃げれば意味がないということだな。だから接続部を一気に破壊するために、戦艦の主砲を使うということか」

「ご明察の通りです」

バルツァーは勝利を確信した、自信のある表情を見せた。

「いいだろう。作戦を許可する」


 作戦が決まると、あるふれはすぐに動いた。

麾下の二個艦隊とクライバーの一個艦隊でアルバートの艦隊を牽制し、残りの一個艦隊は小球体一つずつを狙うように指示を出した。

アウストリの航空基地から、再び大編隊が飛び立った。


 先程と同じように、航空隊が小球体に食らいつく。

やはり展開も同じで、数で勝るニブルヘイム航空隊がイルダーナを圧倒する。


小球体の戦力が大幅に低下した。

そろそろ人員が脱出するであろうそのタイミングを狙い、側面から急行してきたベーレント艦隊が戦艦の砲門を一気に開いた。

強烈な火力の一閃が接続部をズタズタに引き裂く。

崩落を始める接続部。

小球体も後を追うように崩れ落ちた。


 要塞で指揮を執るエイブラムは報告を聞くと、大きく一息ついた。

「そろそろ限界ですね……。最後の一手を打たせてもらいます」

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