第4話 冒険者の仕事
俺は草むらの中から天を仰いだ。
頭上に広がる空模様が俺の今の心境を表しているようで、ますます憂鬱な気分になってしまった。この世界へ来たときから感じていたが、何故こんなに昼でも薄暗いのだろう。単純に曇っているからというわけではないように感じる。
冒険者の仕事をする、と言ってノンは先程から俺から少し離れた草むらに潜っている。まったく気配を感じさせないあたりはさすがである。その直前には俺の前に罠を仕掛けていたので、つまり俺は囮にされているらしい。
ノンは狩りをするつもりなのだ。
手伝いというのはそういう意味である。もっとこう、無意識に迷宮探索とか冒険者らしいことを期待していた俺は正直落胆した。自覚していなかったが俺は意外とロマンチストだったのかもしれない。
などと意味のない思索に耽っている間に、視界の端にネズミのような小動物がうつる。いや、あれはカワウソか。警戒しつつも、俺の体が発する光が気になるのか少しずつ近寄ってきている。もう少しで罠にかかる、そう思ったのだが。
「おい!」
何者かが発した怒号によってカワウソは逃げていった。そして、先程までカワウソがいた場所には緑のフード付きマントを目深にかぶった少年が立っていた。胸にはキラリと光る緑のエンブレム。あれは、サヤエンドウかなにかだろうか。少年は明らかに俺の方を睨んでいた。
「この地域は保護区域だ。知らないとは言わせないぞ」
知らないんだが。そもそもこの世界にそんな概念があったことにびっくりだ。わけがわからないが、少年がすごく怒っていることはわかる。
「隠れてないで出てこい密漁者。さもないと」
少年は持っていた弓矢を構え、まっすぐ俺に向かって射た。が、その矢はそのまま俺を通りすぎていった。霊体だから当然といえば当然だ。
「……当たらない、だと? なんだこの光源は」
焦る少年の後ろに見覚えのある黒い塊が見えた。
ノンだ。
そう気づいた時には既にノンは少年の頭を蹴飛ばし、見事な三回転宙返りを決めて俺の横に着地していた。
「逃げる」
俺に向かってそう告げるとノンは一目散にかけだした。訳がわからないまま俺もそれを追った。
「おい、待て、ってネコ? いや獣人か……よりにもよって……うわあっ」
追いかけようとして罠にかかったらしい少年の悲鳴は、聞こえなかったことにした。
一体どういうことなのだろう。俺は、何か大きな過ちを犯してしまったのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます