第3話 ノンについて
なにやら勝手に俺は目の前の黒猫少女の手下にされてしまったわけだが、それはひとまず置いておこう。
「なあ、大事なことを聞きそびれていたんだが」
俺は前を歩く小さな背中に話しかけた。
「うん?」
「今更だが、君は一体何者なんだ」
本当に今更だが自分のことに必死で、そこまで気が回らなかった。だが、契約を交わした以上は最低限相手の立場と目的を把握しておくべきだと思うのだ。
振り返ったノンは案の定というかなんというか憮然としていた。呆れているのかもしれない。
「あたしはノン。ネコ獣人の冒険者。これでオーケー?」
「すまないが名前以外さっぱりわからん。具体的にいうと獣人と冒険者がわからん。おそらく種族と職業だとは思うんだが」
ノンはキョトンと首を傾げる。
「もしかしてレイは獣人を見たことがにゃい?」
「俺の元いた世界には少なくとも人間と同じ言葉を話す他種族はいなかった、と思う」
記憶がかけてるから絶対にないと言い切れないのが歯がゆいところだ。ナニカに関しては例外だろう。あの空間は俺の世界ともノンの世界とも別物の気がする。
「獣人……は、人間族より少し小柄な喋って歩く動物くらいに思っておけばいいにゃ。たまに例外もいるけど、いちいち気にするほどじゃあにゃいから」
「ネコ以外にもいるのか」
「いる。あたしの知ってるのは、イヌとかウサギとか、珍しいとこだとアライグマとか?」
「なるほど」
「珍しさじゃオマエのほうが上だけど」
「だろうな」
異世界人の生き霊なんてそうホイホイいてたまるか。いたら話してみたいけど。
「まあ大抵の獣人は人里から離れたところにそれぞれ集落作って暮らしてるから、このあたりにいるのはだいたい商人か傭兵か冒険者だけどにゃ」
「傭兵と冒険者の違いって?」
「傭兵は戦いメイン、冒険者は探索メインで活動してるみたいだにゃ」
「ノンは冒険者なんだな」
「ん。一般人が立ち入れない危険区域に入り込んで貴重な資料や材料なんかをとってくるのが主な仕事だにゃ。賞金稼ぎみたいなことしてる連中もいるけど、まあ、言ってみれば決まった拠点をもたなにゃい何でも屋だにゃあ」
「なるほど、話をきく限り安定とは程遠い職業のようだな」
特に他意のない感想のつもりだったが、ノンのアーモンド型の綺麗な目がすっと細くなる。気分を害してしまっただろうか。
「……あたしは生まれついての根無し草だし、冒険はロマンだから」
「すまない、悪気はなかったんだ」
「わかってる。ただ、冒険者を名乗る中にはゴロツキみたいにゃ連中もいるし、そんにゃやつらを含めた冒険者全体を悪く思う連中もいっぱいいる。それは覚えておいて」
そう言って笑ったノンの目は、少しだけ寂しそうに見えた。
しかし次の瞬間ノンの口から出たのは意外な言葉だった。
「ちょうど路銀も減ってきたところだし、あたしの仕事、手伝ってみるか?」
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