第3話 マスターとの出会い

 そろそろ本気で今後の方向性を決めた方がいいかもしれない。

選択肢はいくつかある。

 1.ゾンビの集団を再び見つけて、そこに混じってだらだら無意義に過ごす。

 2.独りで洞窟を歩き回り、貴金属を見つけては甲冑に使用する、という行動を繰り返す。

   強くなったら洞窟の魔物たちをまとめ上げ、ボスとして君臨する。

 3.外に出て、町へ行く。

 4.歩かず適当にボーっとしている。


 1番は、さっき少し体験してきたようなもんだが、ちょっとつまらなすぎたな。

 あいつら人間の意識はもう失ってる抜け殻みたいだったし…。

 もしかして…実は人間の意識を持っているけど、もう長いゾンビ生活に飽き飽きして、達観した姿がああなのか?

 だとしたら俺もいつかそうなるんだろうなぁ。めっちゃ嫌。

 俺まだ若いから、1番は却下だ。

 今のところ2番が良さそうな気もするけど、外に出るのもいいなぁ。


 ゾンビ自体は太陽の光とか、熱に弱いけど、俺の場合ミスリルの甲冑を身に着けてるしな。

 ミスリルのってところが大事だぞ。これテストに出しますからね。

 でもなー。何しろ入り組んでる洞窟だし、出口はいくつかあるにしろ、ちゃんと辿り着けるかどうかは結構怪しいな。

 第一もうかれこれ1週間近く洞窟内で移動してるから、元の道とかサッパリだし。

 4番みたいな極論は自分で考えておいてなんだけど論外だわ。

 となると、やっぱり2番だな。

 ミスリルなんて良いもの身に着けてるんだから、

 少なくともあのゾンビの集団程度では束になってもかなわないレベルの魔物だろうな、俺は。ふはは。

 自分が殺された相手を見返すというのもなかなか気分が良いが、

 肝心のとどめを刺された(ワンパンだったけど)アーマードゾンビにまだ会えていないのがちょっと残念だな。

 とりあえず、また俺のセンサーが魔力の集まりを感知するまでは、適当に散策しましょうかね。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ガルルルル…!!」

「バググググ…!!」


<どうしたクック、ルング?魔物を見つけたのか?>


―はいマスター、向こうから何かの気配を感じます!

―きっと只者じゃないよ!


<そうかい。じゃあ慎重に行けよ!おまえたちに倒せない敵はこの洞窟にはまずいないだろうし、もしダメだったら中ポーションも何本か用意してあるからさ>


――了解ですマスター!!

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 おっ、また強い魔力を感じる。これはミスリルかもしれない!

 ふっふっふ、楽しみにしてなさいよミスリルちゃん!今取り込んであげまちゅからね~。


 って、ん…なんかおかしい。ミスリルが近づいてきてる。

 しかもめっちゃ速い!ミスリルって自分で動くのかな…そんなはずもないよな…ってことは魔物だな!?

 腕試しチャンス!

 だんだんはっきり見えてきた…2匹いるな。

 4足歩行の…犬みたいな魔物だな。

 しかしそういえば、俺って何も武器を持ってないな。

 甲冑だけでは倒される確率は低いけど倒すことも難しそうだね。

 まぁ硬けりゃ鈍器になるし、俺のゲンコツでも十分ナックル的な威力はあるのかな?

 試しに格闘家の構えからパンチの練習をしてみるか。


シュシュッ


 うん、これは当たると痛そうだわ。

 よっしゃ、どんと来いイヌども!

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

―クック、向こうもこちらのことを察知したみたいだよ。

―ああ。甲冑を着てて人型だからきっとアーマードゾンビ系の上位種だろう。

 あいつらは動けなくさせれば楽に倒せるから、まず同時に両足を噛みちぎる作戦でいくぞ!

―了解!


―よし行くぞッ!せーのっ!


ガキーン


――キャイーン!


<!?どうした、苦戦しているのか?僕も早く向かわなければ!>


―い、痛いっす…なんだこの甲冑!か、硬いッ!

―い、痛いよーマスター。歯が欠けちゃったかも…。

―甲冑に緑色のコケが生えてるよ!変な種のくせになんでこんなに硬いんだ!噛みあとに傷ひとつ無い!

―しかもこいつ、なんで攻撃してこねぇんだ!?ナメやがって、まるで俺たちの歯の硬さをバカにしてるみたいな態度だ!ムカつくぜ!


<わかったよ、落ちついて二人とも。今近くに向かってるから。ゾンビ系なら、動きは鈍いんだよね?手ごわい魔物なら、無理に戦わずそのまま戻ってこい!>


――無念…撤退します!

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 向かってきたな犬め!俺の鉄壁防御を破ってみろ!

 うわ、結構でかいなこいつら。

 高さで140cmくらいあるんじゃないか?

 超大型犬って感じだな。迫力がすごいし、噛まれると痛そう…

 ちょっと怪我を覚悟しとくか。

 足を噛むつもりだな、よしこい!


ガキーン


 イタッ…くない!少しもダメージがないぞ!

 ふっふっふ…さすがはミスリルの甲冑だ!

 洞窟の中でお前らは少し調子に乗っていたのだろう?か弱いゾンビどもしかいねぇもんなあ。

 ゾンビ相手に無双して、良い気になっていたんだろう…ふっふっふ。


 でもミスリルの性能には少し驚きだぜ。

 ……えっと…君たちはいつまで俺の足にかみついたままでいるのかな。

 なんも言わないし。

 でもなんかわかる…コミュニケーションを取ってるなこいつら。

 念話でも使ってるんだろうか。この仲間はずれな感じ、

 生前のパーティ行動以来。久しぶりだね。


 誰と連絡を取ってるんだ…?

 もしかしてこいつら、魔物使いのモンスターか?

 だとしたら後ろの方に人間がいるはずだけど…。

 あ、足から離れた。


ガンッ タタタッ   ドサッ


 うげっ、いきなり飛び蹴りしてそのまま向こうに戻っていきやがった!

 俺の弱点わかったわ。硬いだけで力が無いから、踏ん張れなくて、今のダッシュの延長程度の蹴りでも5mくらい吹っ飛ばされちまったぜ。

 さっきは威張ってごめんなさい。俺はどうせ力不足で死なないだけなんだな。

 洞窟の魔物たちをまとめ上げるなんて俺には無理だ。

 でも、魔物使いとその連れが経験値集めか何かに入ってきてるってことは、

 近くに洞窟の出口があるってことかもしれないな。

 あの犬たちについてってみるか。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

―クック、あの魔物、僕らのこと追ってきてるよ!

―俺の飛び蹴りでふっとぶあたり、ただの防御力バカって感じはするから、大丈夫だろうと思うが…どうしますかマスター?


<うん、聞けば聞くほど、その魔物、見てみたいよ!>


―そう言うと思ってましたよ。


<だってさ、コケが生えてるのにすごく硬くておまえたちの歯を欠けさせるくらいなんだろ?そんなバカみたいな魔物見てみたいさ誰だって!>


―じゃあマスターの言う通り、あいつの到着をここで待つことにしよっか。

―そうだな。憎たらしい魔物だが、確かにあの甲冑の性能には興味がある。一体誰が落としていったものを身に着けてるんだろうな。


<ふふっ、もしかしたら伝説の魔物かもしれないねー。早く来ないかなー…>

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ふぅー。やっと追いついたぜ。

 ここにいるのは、さっきの犬2匹と、そのマスターらしき若い銀髪の少年だな。

 マスターの両脇に姿勢よく座ってて割とカッコいい。

 うーんと、マスターの歳は15,6くらい?

 大体他の奴らが冒険者になりたての年齢でこんなに上手く魔物を扱ってるのはすげえな。


―君はこの洞窟の魔物かい?


 へ?なんだこの声…こいつ…直接脳内に…!


―僕はセペ・アドヴェント、魔物の友達だよ。さっきは僕の魔物たちが驚かせてごめんなさい。だから僕たちを攻撃しないで欲しい。君の名前を聞かせてほしいな?


 まあ攻撃しようにもきっと一撃も当たらないと思うけどね。

 俺はもう人間じゃないからな、名前ってあるのかな…。


 ちなみに、魔物使いっていうのは、生まれつきの才能で、魔物を仲間にして自分を守らせたり、一緒に生活をできる数少ない人間だけが目指せる、珍しい冒険者の職業だ。

 魔物使いの多くはマスターと連れの魔物だけで活動を行い、誰かのパーティに所属することは少ない。

 なにしろ大抵の魔物は人間なんかより断然身体能力が高いし、

 きちんとコミュニケーションを取って仲間にすることができれば何より頼もしいものだ。

 少しでも魔物使いの素養があると分かれば、魔物使いを目指す奴らは山ほどいるが、そのほとんどはランクB以上の冒険者に上がる前に、自らの魔物が手に負えなくなり、殺されたり食べられたりしてしまう。

 だから一流の魔物使いともなれば、国家戦力にも値するとして、

 とても丁重にもてなされるってわけだ。

 多分今俺に語りかけてきている声は、あの犬たちのマスターの念話だろう。

 なるほど知らなかったが、魔物使いは念話を使って魔物たちと会話ができるんだな。


 まあ、名前は無いと答えておこう。

 …って、俺はどうやって念話を使えばいいんだ?聞くことはできるけど…通じてるのかな?

 テストー、テストー。


―そうか、まだレベルが低いから念話は使えないんだね。じゃあ、本題に入るけどさ。


 嘘、俺のレベル…低すぎ!?

 …魔物にはレベルなんてものがあるのか?あんまりそこらへんには詳しくなかったからなぁ…。

 あとあと誰かに教えてもらえるといいな。

 本題って、なんぞや。

 今俺とこいつはなんの話してたんだっけ?


―単刀直入に言うよ。君に僕の仲間になって、ついてきてほしいんだ。君のその異常に硬い甲冑の防御力を、僕に貸してほしい。僕の仲間たちからもお願いするよ。

―俺たちのマスターは最高に尊敬できる人物だ。マスターからのせっかくのお誘いなんだ、受けなきゃ失礼に値するぞ!

―クックの言う通りだよ。マスターは良い人間だ。僕たちも君と一緒に戦いたいと思ってる。だからお願い!


 お、おおおお…!これ、アレだろ?スカウトってやつだろ?

 これ、仲間になるってことは、このセペっていう少年のために戦ったり、

 一緒に色んなところを訪れたり、また生きてた頃と同じように過ごせるってことだよな?


 ……しかも生きてた頃と違うのは、俺が誰かに必要とされてるってことだ。

 生前の冒険者時代は仲間の足を引っ張るばっかりで、少しも他人から良い扱いを受けてなかったけど、この人とならなんだか、上手くやっていけそうな気がするな…。

 ん、んん…なんだか目の前の1人と2匹がすごくカッコよく見えてきたんだが。

 なんだこれ、魔物から見るマスター補正か?

 とにかく、俺はこれから特にすることもなかったし、このスカウトを断る理由はひとつも無いな。


―もしこのスカウトを承知してくれるなら、首を縦に、もし嫌なら、首を横に振ってくれるかな?


 うん、うん!仲間になります!仲間にしてください!


―よかった。首を縦に振ってくれた。新しい、頼もしい仲間が増えて嬉しいよ!じゃあ、これからは、僕のことはマスターって呼んで欲しい。ほんみゅ…本名はセペ・アドヴェントだからね、それは覚えといてね。


 マスター、今思いっきり噛んだな。

 念話なのに噛むって、相当緊張してるのかな。

 俺程度の弱々しいアーマードゾンビのスカウトに緊張する必要なんてないのに。

 まだ若いから経験も少ないんだろうけど、俺も三人と共に成長していけるのが楽しみだよ。


「耳は聞こえる?」


 うん。聞こえてますよマスター。首縦。


「よかった、君も加護を受けているんだね。じゃあずっと念話を使ってるのも疲れるから、これからは普通に口で喋っていくことにするよ。せっかく新しい仲間ができたんだし、今日はこのくらいにして帰ろっか。ついてきてね…えっと、あ、名付けがまだだったね。君はどんな名前が似合うだろうか…。うーん、ジュリオ。ジュリオだな。一発で決まっちゃった!」


 名づけ軽っ!まあ、ジュリオか。

 普通すぎる気もするけど、悪くないね。


「じゃあジュリオ、一緒に外に出てみよっか。ここは洞窟って言って、外にはもっと光に溢れた、明るい世界があるんだよ。きっとびっくりするぞー。」


 はは、外のことは27年間の経験から知ってるけど、やっぱり洞窟産の魔物は皆そうなんだろうな。

 洞窟から出たことなんてないだろうし。

 そういえばまだマスターの実力がどのくらいなのか知らないし、何匹くらいの魔物を今まで仲間にしてるのかもわからないな。

 まぁこの若さだし、この犬2匹だけ、って可能性もあるか。

 いや、もう同じマスターを持つ仲間なんだから犬なんて言っちゃいけないな。

 きちんと敬意を持った名前で呼ばなきゃね。

 クックとルングだったか?言いにくいからクッちゃんとルンちゃんって呼ぶことにしよう。

 ふふ、楽しみだな、これからの生活。

 強くなることと、マスターの期待に応えること。一気にたくさん人生の目標ができてしまった。

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