家庭内武器庫

 視界の中にサイバーなインターフェースで無数に浮かび上がる鑑定結果。


 どこにでもある一般的な家庭のリビングにある物といえば、普通は武器になるような物などありはしないのだが、この鑑定結果を見るにそうではないようだ。


 ちなみに一般的な家庭という定義は生活空間のインテリア的な話であり、家庭内事情の話ではない。

 あんなのが一般的な家庭などであってたまるかー。


「そうじゃなくて……っと、なんじゃこりゃ」


 視界に写された文字を読み込んでいく。



 『個体名』皿

 『種族』食器

 『好感度』C

 『脅威度』E

 『攻撃力』8


 『個体名』パン

 『種族』食料

 『好感度』E

 『脅威度』E

 『攻撃力』2


 『個体名』ダイニングテーブル

 『種族』家具

 『好感度』C

 『脅威度』E

 『攻撃力』20


 ……



「まて、まてまて。突っ込みどころが多すぎてわらん!」


 視界に流れていく情報の多さに、思わず声をあげてしまう。


 よーし、上から順にいくぞー!


 まず、皿ぁ!

 お前は皿って、そりゃー皿だけど。皿だな!

 好感度が割りと低いのは、洗わず放置してたからだろうか?


 枕よりは硬い分攻撃力が8なのは納得だが、一撃入れたら割れて終わりじゃなかろうか。


 次ぃ! パン!


 パン、お前の種族は食料か? 食われるために生まれてきた種族か!?

 そもそも原料である小麦とかそーいうのはどこいった?

 パンの種族が植物でないことはわかるが、そっちの方がまだしっくりくるぞ。


 好感度低っ!

 一日放置してカピカピなってるから好感度低っ!


 パンさんサーセン!


 最後に、ダイニングテーブル!


 ダイニングテーブルはダイニングテーブルなのに、なんで皿だけ皿なの?


 意外と攻撃力高けーな。でも、どうやって装備すんだよ。

 好感度がちょい高いのが救い。



「どーなってんだよ、この世界は……」


 あの猫神を問い詰めたい。小一時間問い詰めたい。


 この世界特有の鑑定結果なのか、気づけないでいたが元の世界線でもこんなもんだったのか悩むところだ。


 日本には古来より物にも魂が宿るという概念。

 所謂、九十九神が存在すると言われていたが、確かありゃあ長い年月をかけて物に魂が宿るという話だったな。具体的には百年くらい。


 それならば、賞味期限が設けられているパンに魂など宿るはずがない。


「疑問は尽きないが、有用そうな物を探していくか」


 どうせあの猫神はあと1000年間(自称)は現れない。考えるだけ無駄だろう。



 俺は目を凝らしながらリビングを見回していく。

 何故にこの鑑定のスキルとやらは、目を凝らしていないと発動しないのか。目付きがあまりよろしくないことになってるぞ。


 椅子、クッション、花瓶などを確認していく。



 『個体名』花瓶

 『種族』鈍器

 『好感度』C

 『脅威度』D

 『攻撃力』15



 花瓶の種族が鈍器だった。


 好感度が低いのはあまり使用しないからかもしれないが、花瓶の種族が鈍器だった。


 脅威度が高いのは、鈍器だった……


「見なかったことにしよう」


 俺はダイニングテーブルから鈍器が置かれた棚を過ぎて、キッチンの方へと視線を移す。



「まぁ、やっぱそうなるよな」


 キッチンを鑑定した俺の視界には、納得の鑑定結果が表示されていた。



 『個体名』包丁

 『種族』短剣

 『好感度』B

 『脅威度』C

 『攻撃力』100



 やっぱ、刃物強いわー。


 なにせ種族短剣だもんね。キッチン用品じゃないのね、武器カテゴリーなのね。

 好感度が高いのは小まめに研いでいるからか?


 まぁまぁ、納得の強さです。


 そんなことを思いながら包丁を手にすると、そこはかとない違和感を感じる。首筋の辺りがぞわりとするような妙な感覚だ。


「あれ? これはさっき枕を装備した時に感じた違和感」


 正確に言えばそれよりも強い違和感を感じた。


 少し気分が落ち着かないような、そわそわした感覚に見舞われる。この感覚は……武者震いのような、狂喜?


「なんだ、この湧き出るような力は……」


 なんてなー。


 これは、包丁を装備したことによって俺の攻撃力が極端に上がったせいだろう。バトルもののマンガを読んでるからわかる。


 俺は鑑定を自分にかけるように意識する。


 しかし、なにも起こらなかった!


「なんで?」


 俺は首を傾げる。


 鑑定能力って、自分も鑑定できるのが定番でしょ?

 自分が鑑定できないとかあんの?


「あっ、まさか」


 俺はとある可能性に気づき、洗面所に駆け込む。



 洗面所には目付きの悪い包丁を持った男が立っていた。

 誰だこの犯罪者は!? まさか、既に外にいたガラの悪い男達が家の中に侵入していたのか……? うん、鏡に写った俺だよ!


 俺の視界に浮かび上がるデジタル文字群。



 『個体名』桜色サクラシキ

 『種族』人間

 『好感度』A

 『脅威度』D

 『攻撃力』10+120



 鏡に写った、あなたと……いや、止めておこう。

 ガラの悪い犯罪者と思われた、目付きの悪い成人男性にターゲッティングされた文字は、もちろん自分である桜色サクラシキの鑑定結果を表示してた。

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リアルワールド転生~俺がなんでも装備します~ @nekokotarou3

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