なんでも装備できるスキル

 全種族の魂の神だと言うわりにはへりくだった態度の神。

 俺も年齢を考えると、そろそろ見習うべきだろうか。


「あなたには、なんでも装備して武器となるスキルを授けましょう」

「ちょっと意味がわからないのだが」


 意味のわからない続きで意味がわからないが、意味がわからなかった。



「では、そこの枕を鑑定してみて下さい」

「枕を?」


 俺は言われるがままに自分の枕に視点を合わせ、目を凝らして見てみる。



『個体名』ウレタン枕

『種族』家具

『好感度』C

『脅威度』E

『攻撃力』5



「見えましたか?」

「まて、突っ込みどころがあり過ぎてわからん」


 俺は冷静に神に言葉を返す。


 個体名とやらがウレタン枕なのはいいとしよう。低反発のお値段以上な品だからな。

 種族……家具? 種族なのか? 種族で合ってるのか?


 確かこの神は、全ての種族の魂の神だとか言っていたが、枕にも魂があるということなのだろうか。


 それだからなのか、好感度が微妙に低い。


 あれか? 俺が枕カバーを滅多に洗濯しないからか?

 おじさん臭がし始めてるからか?


桜色サクラシキ。気持ちはわからないでもないですが、私の言った意図が伝わる部分があるのではないですか?」


 俺の頭の中を読んだのか、神から催促される。

 うるさいな、わかってるよ。それよりも気になる部分があんだろーが。



「攻撃力たったの5か、ゴミだな」

「……とりあえず、枕を持って頂いてよろしいですか?」


 神の言う通りに枕を持ってみると、そこはかとない違和感を感じる。


「む?」

「お気づきになりましたか?」


 神が含みのある言い方をする。


 枕にも魂があるうんぬんは置いておいて、攻撃力があるということに注目する。


 攻撃力がある枕を持った俺はどうなるかというと、枕を鈍器代わりに振り回せるだろう。


 振り回せるだろうが……


 そう。


 それでは『なんでも装備できるスキル』とやらが意味を成していないのだ。


「神よ、これはどういうことだ?」

「ふふふ、桜色サクラシキよ。装備品は持っているだけでは意味がないぞ!」


 急にテンションを上げてくる神。


 その台詞が言いたかっただけなのか、ニゲが毛繕いを始めてお腹の辺りを舐めながらでは威厳もクソもない。



「つまりですね……」


 どういうことかと言うと、枕を持って武器とすることは誰にでもできるだろうが、それは単に持っただけだという。そのまま過ぎていまいちわかりづらいが、装備するということは別な意味を持つというのだ。


 それは即ち、装備した武器の攻撃力が俺の力になるということ。


 まだわかりづらさが否めないが、仮に俺の自身の攻撃力が10だとすると枕の攻撃力が5なので、合わせ15になるのが持った場合だ。


 俺の攻撃力10+5となるだろう。


 それが、装備した場合は枕の攻撃力が俺の攻撃力自体を引き上げる形となる。


 俺の攻撃力15。


 更に枕で攻撃する場合、攻撃力5が俺の攻撃力に加算されるので、実際の攻撃力は20となる。


 俺の攻撃力15+5だ。


 ここでミソになるのが、装備した武器を使わなくても俺自身の攻撃力は上がるということだ。


 変な話、枕を左手に持って右手で殴っても枕の分だけ攻撃力が上がるというわけだ。うん、どういうわけだ。



「どうです? 素晴らしい能力でしょう?」


 毛繕いの終わったニゲは香箱座りをしてリラックスしている。そんな状態のまま言われてもピンとこない。


「言わんとしてることはわかったが、それよりも俺はこの世界がどんな世界なのか気になるんだが……」

「さて、全ての魂の神たる私が一つの魂であるあなたと接していられる時間も残り僅かとなりました。次に接触できるのは1000年後くらいでしょう」

「いきなり!?」


 この世界の話題を振ったところで、あからさまに避けるような発言をする神。


 次に会えるのが1000年後って、まさに神時間だな!


「何回転生したら会えるんだよ……」

「有限であるあなた方とは感覚が異なるのです。それに今回は特例中の特例です」


 さいですか。

 納得といえば納得な話である。


「それでは今度こそ、桜色サクラシキの魂に祝福のあらんことを」


 そんな捨て台詞を残して神の気配は消えた。


 我が愛猫はそのまま昼寝モードに移行するつもりのようだ。神に体を乗っ取られていたというのに、のんきなものである。いや、普通に自由行動してたな。




「さて、どうするかー」


 一度ベッドに横になった俺は頭を悩ませる。


 なにせ、なにも問題は解決していないのだから。


 胡散臭い神の言っていた言葉を思い出す。

 ここは俺が元いた世界とはそんなに違わないようだ。現時点では全く違和感はないと言っていいだろう。


 神から授かった鑑定を発動すれば異世界感も出てくるのだが、それはそれであるので、それ以外に異世界の証拠を見つけてみたくなった。


「よし、外を見てみるか」


 カバッとベッドから起き上がる。


 異世界に来たという証拠は、窓の外にあるはずだ。

 それを見れば何かがわかるだろう。


 俺の部屋は窓枠に本棚を置いてしまっているので、外が見えない。

 リビングに移動してカーテンを開け広げると、そこには……


「び、微妙に空が暗い?」


 建ち並ぶ高さのある街並みは、中世ヨーロッパを彷彿とさせる街並みなど欠片もなく、いつもの見慣れた風景だった。

 遠くに某ツリーも見えている。


 変わったところといえば、7階にある我が家から空を見上げると、太陽の代わりに月のような衛星が3つ浮かんでいることだろうか。



「あー、まぁ、これは異世界っぽい」


 俺の口からは、そんな感想しか出てこなかった。

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