第14話 ー千客万来の章 6- 庭には丹羽(にわ)
そこには、小池があり、岩があり、灯篭があり、それらがちょうどよく配置されている。この向こうに見える小さな屋敷のようなものは、茶室であろうか。小さな戸がついてある。
その小さな戸が開き、そこから伸長160センチメートルくらいの、
「おっす。茶の湯ってやつ?それ」
「はい。にわちゃんは、茶の湯の勉強をしてましたのです」
にわちゃん…。
「えっと、にわちゃんってのは、あんたの名前?」
「はい、そうなのです。
そうかそうかと、
「んで
「いえ、にわちゃんは、まだまだなので、練習中なのです」
ふわふわとして掴みどころがないなあと
「
「ちがいますのです。にわちゃんは、信長さま付きのでぃれくたーなのです」
でぃれくたーとはなんだろう。南蛮語であることはなんとなくわかる。
「でぃれくたーとは、平たく言えば、演出家のことなのです。そう、にわちゃんは、信長さま付きの演出家なのです」
ふむと2度うなずき、
「そのでぃれくたーの丹羽っちが、なんで、信長さまといっしょにいないの?」
「そうです。問題はそこです。にわちゃんは、信長さまと
「そうしたら、これ以上、現場をひっかきまわすなのじゃと、
「それはひどいな。村井ってやつは」
「そうなのです。にわちゃんは
「ほう、それは、おもしろうそうな話っすね。例えばどんなの?」
「えっとですね、罪人を樽にいれるのですね。そして、参加者が、順番に外から刀や槍を突き刺して、罪人が飛び出したら、そのひとの負けなのです」
「あ、あの。
「えー、にわちゃん、せっかく考えたのにです。あとはですねえ」
さすがに今のは、この男の話の掴み方なのであろうと思い、次の言葉をまった
「砂地にですね。罪人を埋めて、首からうえだけ出してですね。手ぬぐいで目を隠した男女二人組が、ふたりで金砕棒をもってですね」
「うおおおおい、ちょっとまてやああああ!」
もしかして、この男。織田家の危険人物なのか?と若干、冷や汗が出てくる
「ん?おお、ここに居たか。あれ、
「え!こいつも来るの?」
さすがに
「ん?それがどうした?
「なんか罪人を槍や刀で刺す企画とかいってるんですけど」
「ん?なんか問題あるのか?おーい、
「いいえ。にわちゃんはいつもどおりなのです」
そうかと
「ああ、そういえば、こいつ。
わあいと
「にわちゃん、
いつのまにか、なんか変な約束させられてる。やっぱ危険人物だ、こいつと
「さて、津島に行こうか、
「はーい、にわちゃんも、準備して向かうのです」
道中、
「
「ん?
「俺っち、織田家でやっていけるかなあ」
「ああ、大丈夫だろ。一癖もふた癖もあるやつらだが、根は良い。たぶん」
たぶんかよおと思いつつ、
「
「ああ?俺?ぼん、きゅっ、ぷりっが好きなだけの普通の34歳」
「ぼん、きゅっ、ぷりっ?」
「胸がぼん。腰がきゅっ。お尻がぷりっ」
なんか、頭、痛くなってきたなあと、
「でも、だれもかれも、一芸に秀でるやつらだ。うちは
織田家は出世ができる。他大名では、ほぼありえない待遇の良さだ。他大名では、家柄や親の身分できまる。家老の息子は家老に。足軽の息子は足軽だ。これが
「えっ、
失礼なやつだなあと思いつつも、
「そう、し、ろ、だ、い。年収1000貫(=1億円)。まあでも、直属の部下の給与で半分飛ぶけどな」
「ほえええ。織田家は、すごいだああああ」
年収がすごいだけではない。織田家の家臣は直属の部下を養っていいのだ。他大名では、その領地の兵士は全員、その大名直下の兵士である。しかし、織田家は、家臣に家臣を養わせている。いわば、武将ごとに独立した軍隊を持たせているのである。
しかし、武将が独立した軍隊を持っているということは、謀反が起きれば、そのままその軍隊が敵に回るのである。危険きまわりない。だが、信長は家臣を信頼している。いや、信頼しすぎていると言って過言ではない。
「信長さまって、馬鹿なのか天才なのか、わけがわからないっすね…」
「ああ、馬鹿なんだろ、たぶん。じゃなきゃ、家臣が直接、軍隊をもっていいわけがない。俺なら持たせないね」
でもと、
「そこが
ふーん、そんなもんかねえと
「織田家は、おれっちの居場所になってくれるかなあ」
「その前に、20キログラムの米俵かついで5キロマラソンのほうの心配してたほうがいいとおもうぞ?」
「それもそうか」
はははとひとしきり、
「
「まあ、確かに惚れてるかどうかと言えば、惚れてるんだろうな」
「戦国の世を終わらせたいからと、全国、すべての大名と戦争する気だぜ。
天下統一。すなわち、すべての大名を屈服させなければならない。
「民に笑顔になってほしいからって、その手を血で染めるんだ」
この世は民にとって生き地獄である。民を救うために、その手で血を
「もしかしたら、誰も感謝しないかもしれねえ。そりゃ、いつ終わるかわからねえからな、この
応仁の乱より始まった、戦国乱世はすでに100年を経過しようとしていた。
「
事実、
「それでも、
そう、幼い日、目の前で救えなかった少女の
「あいつは馬鹿だ。ほんと馬鹿だ。だから、お利口さんの俺が支えてやんなきゃなんねえ」
秋に入り、風は、
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