第8話 ー桶狭間の章 8- 決意あらたに
一芸大会も終わり、次は1対1の武術大会である。とは言っても、実際の刀や槍を使うのではなく、木の棒の先になめした皮をくくりつけた言わば模擬刀、模擬槍を使い、さらには顔面なし、先に2本、有効打を入れた者が勝利者となるルールだ。
この武術大会は、一般兵士からの参加も募っており、成績優秀者には、菊池槍や星兜などそこそこ値の張る武具や具足が贈呈される。
もちろん、こういう大会には付きものの賭けも行われており、胴元は信長、賭けの帳簿管理は、
「うっほん!次の試合、
「おい、
声をかけてきたのは、豚肉の腸詰を小皿に盛った、
「んー、甲乙つけがたいなあ。やっぱ森かなぁ」
「では、先生、
と、信長が熱燗を両手に持ち、話の輪に入ってきた。
「さっきのあれ、なんだったの、
「ちょっとした、おちゃめですよ」
「ガハハ!
お市倶楽部・名誉会員が内幕をばらす。
「ちょっと過保護が過ぎませんかねぇ。嫁ぐにはいい年頃じゃないの」
「きみも、誰かに嫁いでもらうには、いい年頃もすぎてませんかねぇ」
「うっせえ。俺は理想が高いんですぅ。胸がぼーんで、こしがキュッ、おしりがぷりっじゃないとやなんですぅ」
「ガハハ。わしの嫁は、ぼーん、ぼん、ぼーんじゃ。超安産型」
「奥方さまいるのに、なんでお市倶楽部にはいってるのよ、ちみは」
それはそれ、これはこれとと、身振りで表現する
「あーあ、どこかにいい女いねーかなー。ぼん、きゅっ、ぷりっ」
会場では、
「ははっ。
「森殿ほどの槍使いを刀で討ち倒したら、かっこいいでしょ?」
森の突きに合わせ、身を低くし、下から槍を刀で跳ね飛ばす。くっと森はうなり、体勢を立て直そうとしたが、
「おや、
「賭けてんだから、応援してやれよ」
「と言われましても。槍に対して刀を選ぶ時点で、先生、その場で説教タイムですよ」
合戦において、主な武器は槍と弓、そして石である。刀はあくまで護身用であり、ここ戦国時代においては剣技を修練しているものは珍しい部類に入る。
そもそも戦場は1対1で戦うこと自体がまれである。こういった武術の試合でしか、修練した剣術を生かせる場所がなかった。
3本目がはじまった。
「
「のぶもりもりが相手なら、いいですよ?あなたなら日頃の恨みで手加減しないでしょうし」
ははっと
「
「そのころから、きみ、手加減なしでしたから、困ったものでした」
「ほう。
「そんな、たいそれたものじゃないよ。すぐに腕前は追い抜かれちゃったしね」
「
「むーり。ほんと無理むり。比喩表現なしで、骨が折れちゃう」
「おや、残念ですね。先生も是非、見たいのですが。ちなみにハンデで勝家くんが刀で、のぶもりもりが槍でもいいんですよ」
うむむと少し悩む
「やっぱり負けてしまいましたかー、刀じゃ槍にはそうそう勝てませんねぇ」
「
「お、やる気になりました?のぶもりもり。いいでしょう、年頃の娘を紹介しましょう」
「おっし、俄然やる気でてきた!
「ガハハ!そうこなくては!」
オッズは、
「りーちの差で負けてるなら、叩き折ればよかろう」
勝者、
「のぶもりもり、お疲れ様です。お、おしい試合でしたね。ぶふっ」
信長は笑いをこらえながら、ねぎらいの言葉を
「ムリだわ。常識が通じない、あのひと」
はははと信長はひとしきり笑い
「平和っていいですね。また、こうやって皆で祝勝会を開きたいですね」
「祝勝会って、戦争あるから、できるんじゃなかったっけ?」
困りましたねぇと信長が言う。
「じゃあ、日本全国の大名に勝ちまくって、365日、祝勝記念日ってことにしてしまえばいいんじゃねえの?ついでに平和もやってくるぜ?」
「のぶもりもりにしては冴えてますね!」
うっせえと
「でも、
「そうですかね?」
ああ、と
「そういや、
「覚えてるどころか、先生、いまだに天下とる気まんまんですよ?」
「やっと
ははっと笑う。釣られて信長も、ははっと笑う。
「でも、先生、まじですよ。天下。平和、好きですもん」
「平和にするために、戦争して天下とるって矛盾してるよなー」
「血塗られた手でしか天下はつかめませんからねー」
「日本全国から恨まれちゃうよ?それでもやるの?」
「いっそ、魔王降臨とか宣伝しちゃいましょうか」
この
「まあ、
「頼りにさせてもらいますよ、のぶもりもり」
ふたりは、織田家の勝利に乾杯と、湯呑を軽くカチンとぶつけあった。
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