第7話 -桶狭間の章 7- 祝勝会
西暦1560年 6月。今川家との大戦もようやく終わり、本日は戦勝を祝う会が、ここ、
会場の壇上では、いま、武将たちの一芸大会が執り行われている。
「一芸大会、出場番号、18ばーーーん!
なんでも、
そこから付いた異名が「
「あーー、やってんなー」
「南無三!!」
気合一閃。床に置かれた
調子に乗った
「ふんぬ、おらあ!!」
豪快一閃。横一文字に引きちぎられるようにふたつに割れた
「
ん…。信長さま、怒ってる。
「おう。飲んでいるか?次は、うちの
「お、今回も何かやるの?前回はたしか、鬼が勝っちゃう桃太郎だったよね」
桃太郎のときは、鬼役が腹痛を起こし、急きょ代役を
「今回は特別客を招待しておる。楽しみにまっておけ」
ふーん。と、言いながら、
壇上の掃除も終わり、司会進行役の木下秀吉が舞台の前でこう告げる
「一芸大会、つづきましては、出場番号19番
秀吉は続ける
「あらすじは、とある国の王様の後妻が、姫を城から追い出し、さらに毒を盛り、亡きものにしようとするものらしい、です」
戦国の世ではあまりめづらしい話でもなく、ふーんと
「今回。白雪姫を務めるのは、信長さまの妹、お、お市様でっす!」
うおおおおおっ。会場は一気にわいた。信長さまの妹君と言えば、三国一の美少女と名高い。
「それでは、劇がはじまり、ます」
「ん…。異国のとある城で、王様の奥方がいました。奥方は、人語を話す摩訶不思議な鏡をもっておりました」
ナレーション役の
「鏡よ、かがみ。この世で一番うつくしいのはだあれ?」
「奥方さま。それは白雪姫でございます」
鏡役の
「きぃぃぃ!白雪姫、許すまじ!かくなる上は、島流しとし、毒殺のうえ、
「奥方様。それはさすがにやりすぎかと存じます」
寸劇とは思えないほどの奥方様役の名演技だなぁと感心しつつ、
「ん…。時はうつり、奥方様の謀略により、島流しに処された、白雪姫は7人の島民に助けられ、再起するため募兵を開始していた」
「母上さまの罠にかかり、へき地に流されましたが、わたし、負けませんのです!」
お市さまが可憐な声を精一杯、張り上げ、島民の前で演説していた
「もし、母上さまから城を奪い返せた暁には、この島の年貢を向こう10年、無しとします!」
お市さまは続ける
「母上さまを討ち取ったものには、
おおおおと島民たちは雄たけびをあげる。見上げた姫さまだなーと、
「ん…。場面は城に戻り、奥方さまは鏡に尋ねていた」
「鏡よ、鏡。白雪姫はどうしておる?」
「はい。奥方さまを討つための兵を集めております」
「きぃぃぃ!白雪姫め!恩情を与え、島流しのみで許したものを!この摩訶不思議な薬で息の根、止めてやるわ!」
「ん…。奥方さまは行商人に変装し、島に入り込んだのであった」
「
「わかったッス、姫さま。買い付けに行ってくるッス!あと、姫さま、働きづめッス、すこしは休むッス!」
「ありがとう、
「島に来ていた行商人が、なんでも疲れが一瞬で飛ぶ南蛮渡来の薬があるといって、何包みか分けてくれたッス!姫さま、飲んでみるッスよ!」
「ほう、それは珍妙な薬があるのですね。では、ひと包み、いただきましょうか」
お市さまが、その薬を口に含み、水を飲んだところ、ごふっと赤い液体を吹きだし
「くっ、またしても
姫は、うろたえる島民その1の
「その行商人とは、きっと母上です。捕まえて
「ひ、姫さまーーーー!おのれ、奥方さま、許すまじッス。であえであえ!行商人をひっとらえるッス!」
「ん…。奥方さまは
「ひっ!ら、乱暴はやめてたもれ、金目のものならなんでもくれてやるから…」
島民たちの怒りは収まらない。舞台を見ていたお市応援団の会員からも、殺せ!とのシュプレヒコールが続く
「白雪姫は、まだ完全には死んで、お、おらぬ!真に姫を愛するものが、口吸いすれば、息を吹き返す!」
口吸いとは、キスのことである。
「それは本当ッスか?では、真に姫を愛するものとやらを連れてまいれッス!」
「ん…。三日後、隣国の
お、おい。あの野郎、劇にかこつけて、お市さまと口吸いするつもりかよと、会場中、大ブーイングが鳴り響く。
新助はフリだけだからと自分に言い聞かせつつ、内心どきどきしていた。おそるおそると、白雪姫が入っている棺の蓋を開けると
そこには、信長が入っていた
会場は一瞬にして鎮まりかえり、次の瞬間、大爆笑の渦に巻き込まれた。そして、続き
「くーちすい!くーちすい!新助くんのちょっといいとこ見てみたい。それ、くーちすい!」
酒の入った
新助はその日、少しだけ大人の階段を上ったのであった。
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