第5話 ー桶狭間の章 5- 城に帰るまでがいくさです
前方の丘からえいえいと、おおと
「えいえい、おおっ!えいえい、おおっ!」
本当にやりやっがた、あの馬鹿。震える心と身体を抑えきれず、
「さあ、出迎えてやれ、あの馬鹿どもを!」
毛利新助は槍に、布で包んだ今川義元の
「おっと。きみ、
義元の
「こんなところで礼は不要です。さあ撤退しますよ。急ぎなさい」
信長さまが手を差し出してくれた。その手を取り、新助は立ち上がり、撤退の準備に取り掛かった。もう一度、槍にくくりつけた布をしっかり結び、槍を肩にかけ、駆け出した。その後ろ姿を見届けた信長は
「さて、ワシたちも帰路につきますか。
ひとり忘れている気もするが時間がない。今川方は総崩れを起こしはじめたといえども、さきほどの
「まずは
「おい、馬鹿!おまえ、ほんと馬鹿!やりやがったな、こんちくしょう!」
ばんばんと
「ははは、痛いですよ、のぶもりもり。でも、手柄をあげれませんでしたね、きみ」
「そんなことはどうでもいいんだよ!今までただの馬鹿だとおもってたけど、大馬鹿だな、
さらに右腕を信長の首に回し、左手で兜を叩く。こんなにうれしいことは今までなかった。
「重いですよー。はなしてくださいー。はしゃぎ過ぎですー」
「おっと、すまねえ。で、秀吉の姿が見えないけど、どうしたんだ?やられちまったのか?」
喜びから一転、残念な顔つきに
「ああ!なにか忘れてるかと思ったら、彼です。彼。置いてきました」
うおおおいと
「あいつ、猿だと思われて、見逃してもらえると思うッス!だから大丈夫ッスよ!」
「ねえ、きみたち、本当にまぶだち?ねえ、本当に?」
がははと、
「猿か、猿とはひどい言いぐさ。なら大丈夫だろう」
まだ笑いがおさまらぬのか目じりに涙をためている。
「そうは言っても、置いてけぼりはまずいでしょ。俺ならともかく」
あっと信長は言い
「のぶもりもり、自覚あったんですね。
うおおおいと再び、
「まあ、猿なら大丈夫でしょう。きっとすぐに追いついてきます」
信長もつい猿と言ってしまっている。
「ん…。
戦勝ムードに包まれ、つい長話をしてしまった。
「猿のことは信じています。たぶん、まだ何かしているのでしょう。置いて先に帰りますよ」
信長は
「全軍、出発!
戦勝ムードから抜け出せぬまま、2千の兵は帰路についた。道中、信長は兵たちに、こう叫ばせる。
「今川義元。
「我ら、義元を討ち取りし、最強の軍なり!」
「今川軍よ、道をあけよ!さもなくば根切りとする!」
根切りとは、全員もれなく息の根を止めてやるぞという意味である。
今川本陣が奇襲を受けた際、義元が発した伝令により、今川の先陣に奇襲の報せは届いていた。しかしまさか、これほどの早さで本陣が陥落し、さらに義元さままで討ち取られようとは。各地の今川兵は蜘蛛の子を散らすように瓦解していった。
ここ、中島砦を囲んでいた今川兵も例にもれず、戦線を崩壊していった。今川の将、関口は必死に兵たちをまとめようとしたが無駄であった。そして、もたもたしていれば、自分の命も危うい。武器を手放し、鎧を脱ぎ捨て身軽になり、雑兵とともに山に隠れたのである。
信長本隊は中島砦を無事通過し、
寄った那古野城では、この城に詰めていた
「やっぱ、ぷろてぃんッスよ。原因」
「はい、間違いありません」
信長と
ようやく
明けて5月20日 朝。城の広場にて今川義元の首実験が行われた。30分ほどの確認により本人の
「今後も期待してますよ。近いうちに黒母衣衆入りの報せも届けます。今は十分に休むこと」
信長は新助にそう言い、はっ、ありがたき幸せと新助は返す。
「さて他のものたちの論功行賞を進めます。名を呼ばれた者から順に前へ」
あるものは、
「やったッス!一気にすたんぷ4個もらったッス!」
「ん…。精進が足りなかった」
そうこうしているうちに昼過ぎになり、
「おお、猿。生きてたッスか」
「は、はい。足は、ついてます!と、というより置いて行かれて、大変、でした」
ちょっと怒っているのか、顔が少し赤い。いや、猿だから元々、赤いッスか。などと失礼なことを
「それで何やってたッスか?」
「これ、です。今川本陣で、物色してたら、良さげなものが、あったので」
見た感じ、銘刀である。ははぁと
「いくら槍働きが苦手で、褒美の
ははっと
「い、いえ。そうではなくて。義元の身元確認になるような、証拠物品がほしくて。それで」
論功行賞を終えかけていた信長が、こちらに気付いたようで、秀吉に手招きしていた。秀吉はすぐさま、信長の元へ参上し、片膝をつき、腰を落として、両手でさきほどの銘刀を進呈した。
「猿、生きていたのですね、よかった。それで、この刀は?見たところ、かなりの逸品みたいですが」
「はい。義元の所有物、だと、思います。首を取られた義元のそばに落ちて、ました」
信長はふむと言い、もしやと
「これは、義元が武田信虎より贈られし、
よくやりましたと、ねぎらいの言葉を秀吉に送った
「ですが、命あっての物種と言います。あまり無茶はしないように」
秀吉は、ばつが悪そうに、にひひと、ほくそ笑むばかりであった。しばらくして、その場に、
「
信長は嘆息し
「これ以上、戦っても、ただの消耗戦。できれば
皆で、うーんと悩んでいたところ、役人風の男がやってきて
「うっほん、わたくしめの出番ですかな?」
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