第3話 お前が男だろうと僕に関係はない


「なあ、めい、お前って結局ちん、ついてんの?」

「な…な…何言ってるの君は…!?」

あの腐女子の脅迫があってから一日が経った。

朝一で教室に席をついていた僕と次に入ってきた明石めい、教室は二人きりの状態だった。

目前にいる彼女、いや彼は自他共に認める男なのである。

しかし僕がこんなにも疑問に感じてならないのは、艶やかな黄金色の髪、同じ人種かと考えさせられる程に整えられた可愛らしい容姿、白色に透き通った綺麗な肌などどれをとってもうちの女子に勝る程の女子力の持ち主である。

まあ例えちん、が付いていたとしても新人類として迎え入れてもいい、そもそも男ってなんだ?とこの世の創造主にぜひ問いたい程である。

顔を真っ赤にさせ、表情をどう作ろうか戸惑っているのがなんとも可愛らしい。

フフフ、ここまでの疑惑があるならいつも男を率いている隊長の僕自ら確認せざるを得ない、彼が本当に男なのかどうかを。


「まあ胸ならギリ痴漢にならないよな…」

「えぇ…」

本気で怯えてるめいたんの顔がまじで可愛い。

ぐへ…ぐへへへへ…一度でいいから言ってみたいけど活舌の悪い僕がこれを言えば嚙みそうである。

どれどれ、胸元まで手を伸ばし、ガチで触ろうとする。

そして僕の指先が二十五センチものさし一つ分離れた時だった。

手首が何者かに掴まれた。

ホラー映画に出せるくらいの唐突さである。


「こんの変態っ!!!」

「あでえええええええええッ!!!」


右頬に放たれた平手打ちの衝撃でステンッ、と地面にしりもちがついてしまう。

椅子から頭部ギリギリ三センチのところで、頭をピシっと止めることができた。

こんな危ないことをするなんて…誰じゃいこら…!


「ったく、ごめんねこの馬鹿が」

「い、いえ、それより胸が顔に…」

「ははは、女の子同士なんだし別に気にしないでいいよ」


「いや男だよ!」と水を差すような勢いでつっこむ。

どうやら僕に平手打ちをしたのは、雀茶色という地味な髪色のショートカットの持ち主で、いつも男子を軽蔑するかのような雰囲気を醸しだしている女子代表、村星さんである。

村星さんは小柄なめいたんをその暴力的にでかい豊満な胸を当てながら、抱えるようにしてこちらを睨んでいた。

またしてもうらやまが半分、レズレズが半分の頭がこんがらがるような訳のわからない状態になってる。



「またあんたか…」

「西条!あんた調子に乗りすぎよ!」

「男同士なんだから別にいいだろ、ていうかめいが嫌がってるだろ、離れろよ」

「呼び捨てなんて偉く馴れ馴れしいじゃない、第一めいちゃんはあんたみたいな馬鹿とは関わりたくないたくないのよ」

「あのお…」

めいたんは凄い困った顔で僕達の顔を見ていた。

このままじゃ。入学してそうそう変なクラスと思われかねないぞ。


「あーそうですかい、だったら好きにしろよ、このゴリラ女!」

「ええ、好きにさせてもらうわよ」


いがみ合っている僕達を見てめいたんは更に事態が飲み込めないでいる。

納得はできないが、めいたんがこれ以上パニくらないようここは引くしかない。

フランケンにでも変身したら僕じゃ操れかねんぞ。

まあ、ひとまずはめいたんをそちらサイドに譲ってやろう。

感謝するんだな、このメスゴリラ!


「おっほぉ…これはもうビンビンですよぉ!」


扉前で争う僕達の後ろで教室に入ってきたのは阿形だった。

そしてしばらくすると村星の顔は真っ赤になり始める。

当然めいたんのあそこはビンビンになどなっていなかったが、例え容姿が天使でも高校生の男におっぱいを押し付けているのだ、自分が何をやっているかようやく自覚が芽生えたらしい。

赤面になっている村星を見ると快感が体内からわき上がってくる。

何てファインプレイなんだ、最高だぜ阿形!


「げほっ…」


次の瞬間阿形も僕と同じく破壊力のある平手打ちをくらい倒れ込む。

あちゃあ、痛そう。


「あんた達、ほんっとさいてえ!」


そういい残し、村星は顔を真っ赤にさせながら席にへと着く。

いや~なんてピュアなんだ村星よ、お前のそのおっぱいを見ている僕たちの方が見てて恥ずかしくなってくるんだぞ。

それから次々に教室に生徒が入り込み、一限目が始まった。


「はぁ~くそめんどくさいな」

大雨の降る5限目、僕達は理科室にへと集まらされている。

実験という嫌な単語を聞き、思わず溜め息をもらしてしまったが、僕以外の三人は楽しそうに実験に熱心になっている。メンバーは村星、めいたん、高田の三人だ。

高田はこちら側の人間と思っていたが、何お前まで実験に夢中になってんだよ。


「あ~あんた腹立つわね!まじめにやりなさいよ、まじめに!」

「そうだぞ隊長、俺達あんまり成績良くないんだから構えだけでも真面目にみせなきゃ」

「僕もやったほうがいいと思いますよ…西条君ずっと紙飛行機作ってるじゃないですか…」


村星、高田、めいたんの順に次々説教が飛び交う。

まさかめいたんにまで説教をくらうとは、何でこう対して頭の良くない学校なのにこいつらは真面目なのやら。

おっと、これは他の生徒に聞かれたら反感を買うのでタブーである。


「あのね~あなた達、どうしてそんな実験実験したがるのかな。そんな顕微鏡で小さい生命体なんか見たって何一つ面白くないでしょ、良い大学でも行こうとしてるんですか面倒くさい」

「はぁ、ここまで捻くれてたらもはや重症ね…」


巨大紙飛行機を作る僕を見て村星は呆れて頭を抑えていた。

形はどうあれこれも実験なのだ、内申よこせ。


「実験真面目にしたほうが良いんじゃないかしら…」


背後からの聞き覚えのある声にギクリっと体が急に震え始める。

おそるおそる後ろを振り向くと顕微鏡に眼をあてる腐女子の姿が眼に見えた。

どんな微生物よりも、僕にとってこいつが一番人間じゃない生物に近い…。

それ眼を当ててにやにやしている。

これはもうレベル5といってよいだろう。

もうあなた程になると微生物でBLを思い浮かべてるんだろうねきっと。


「あの、真面目に実験…します」

「よろしい!」


顔を引きつらせながら僕は実験にへと励んだ。

僕がその動機にへと走ったのは気のせいか、腐女子の班にげっそりとした顔で立っているイケメン山田が立っていたような気がしたからだ。

彼の顔にはイケメンの面影がなくなりつつあり、僕は久々に恐怖というものを思い出すことができた。

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