第2話不気味な女
「六限終わったわ~かえろかえろ」
高田がそう言い、その後ろから阿形がひょろっと出てくる。
こいつらとは弁当を共にしたり、一緒に行動を共にする事が多い。
「ちょと待て待て」
振り向くと後ろに立っているのはイケメン山田だ、勘違いしてもらいたくないのだが体育が終わった後も山田とは会話があった。
決してさっきまでのは喧嘩をした訳ではない。
「西条、これ読んでみろ」
「あ?どれどれ…」
山田くん、西条くんへ、屋上に来てください(ハート)
「は?何で僕達二人なんだ?」
「それは俺にもわからん…」
山田は一々考える人のポーズを取り始め、僕の席の上へと座り始める。
「きゃー」と周りから女子の声が聞こえ始め、山田はにっこりとスマイルを返し、女子達は更に喜びの姿を見せていた。うざい…全てにおいてこいつは…。
「まあ、そういうことなら俺達帰ってますわ」
「ダブルデートのお誘いですか~?がんばってくだせえよ隊長どの!」
高田と阿形はそう言い残し、教室を出て行った。
「ったく女子に来いって言われてんだ、行かないわけにはいかないだろ」
そう言うと山田は僕の腕を掴み、教室の外へと引っ張りだす。
何故か女子から嫉妬の眼差しが飛んでくる。
どうやら彼女達は僕を男子としてはみていないようだ。
そして僕は引っ張る山田の腕から逃れられることが出来なかった。
教室から出た僕はゴミ同然、なんせ兵隊がいないのである…。
まあ大人しくこいつについていってやろう。
階段を上るときは自分のペースで上り、結局この山田と屋上までついて行ってやる事にした。
「って誰もいないな…」
屋上に着いたはいいが周りを見渡す限り誰もいない状態にある。
二人呼んだ時点でおかしいと思ってはいたがやっぱり僕達からかわれているんじゃないか。
「まあそう焦るな、五分は待つぞ」
そう言いながら山田が屋上へと入ってくる、五分って案外こいつもせっかちなんだな…。正直手紙に書いてある名前の後のハートマークが不気味でしょうがない。
不吉というかなんというか、嫌な予感がしてならないぞ。
「フ…来たわね」
後ろから声が聞こえた。振り向くと塔屋の上に立つ一人の美女が立っている。
誰だ、こいつは?よく見るといつもかけていた眼鏡が外れた、あの皆から煙たがられている腐女子の姿である事が確認できた。
眼鏡を外すとこんな顔だったのか…。
「げげっ…」
咄嗟によくのわからない声が出てしまう、何故ならこいつとは関わる事が今後二度とないと思っていたからだ。
山田の方も彼女が塔屋の上から僕達をみているのを見て驚いている様子だ。
腐女子はただニヤニヤしながらこちらを見ている、そもそも僕はこいつの声をこの数ヶ月で初めて聞いたイメージだったが、割と普通に話してる姿を見て関心した。
「あなたたち、見てたわよ…」
「み、見てたって?」
山田が腐女子の問いかけに反応するように答える、この女は登場してから何まで意味不明だな。
「とぼけたって無駄よ、あなた達できてるでしょ?」
「はっ!?」
山田は驚いたような顔で声を出す。
何を言ってるんだこいつはというような戸惑った表情でこの腐女子の顔を睨むように見ていた。
なんだ、一体僕達に何ができているというのだろう。
「冗談じゃない、俺はホモじゃないぞ」
「ほ、ほも?」
ホモ…できている…なるほど、そういうことか。
自分の理解速度が遅い事は凄く悔しい。
それにしても僕と山田がまさかそういう風に見られているとはな…最初から最後まで恐るべき女である。
「僕もホモじゃないぞ…第一こんな奴、僕が女としても無理だね」
「そういう訳だ、これで分かっただろ腐女子君、用が済んだなら俺達は帰るから」
山田がそう言い、僕と山田が屋上出口に向かうと、その出口を塞ぐかのように彼女は通せんぼをし始める。
「この絵、中々うまいと思わない?」
「「な…なにぃいいいい!?」」
彼女が右手を差し出し、僕達に見せたのは、見せられないよ!という文字で隠されそうな過激なシーンである。
僕も山田も顔から汗がダラダラと流れていた。
もしこんな絵学校に晒されでもしてみろ、僕の学園生活だけじゃない。
将来的にwikipediaの情報でホモ疑惑について色々書かれるじゃないか、ありえんでしょ…。
「ま、あなた達がそういう関係という事は今だけは見逃してあげることにするわ」
今はという言葉が凄く気になった、一体この女は僕達の関係に何を求めているというんだ。「しかし、私の条件に飲んだらね」
「条件だと…」
山田はかなりうろたえていた、何せイケメンなのだ、彼の場合は俺と違い何を求められるかがわからない。僕には関係がありませんように…。
「そう、条件よ!西条君…」
「えぇっ!?」
「まだ何も言ってないわよ…」
名前を呼ばれた事にもはや嫌な予感しかなかった、彼女の眼差しはもうこの時点で脅迫罪で通報できるレベルである。
「あなた女児向けアニメが好きよね…」
「だ、だったらなんだよ!でもロリコンじゃないからな、二次の女の子に限るからな!」
僕は引かない、この女がどれだけ脅してきても絶対に屈しないぞ。
「山田君、あなたはリアルの女の子が凄く好きよね」
「ああ、胸を張っていえるね、好きだ!ただしこのオタクのように二次じゃなくリアルの女の子をね、何せ僕はモテるから二次に走る必要もない」
こいつ、なんかムカムカしてきたぞ。
ぶっ飛ばそうにもぶっ飛ばせないし、いっそのことこの腐女子の見方について一緒にやつけてやろうか…。
「あら、関心しないわね。人の趣味にどうこう言うのは良くないと思うけど」
「「お前がいうな!」」
またハモった、そもそもこの女があんな絵で僕達を脅しになんてこないはずだ。
「別にあなた達の趣味を馬鹿にしている訳じゃないわ、もう少し堂々とするべきと思うのよ、この世に恥ずかしい趣味なんてないのよ!」
だからって僕達の趣味をばらまこうとするなよ、あんたの手で。
たく、何て恐ろしい発想を持ってるんだこの女は…天然か?
まあ一番心配なのは僕が勘違いされてクラスの女子達に数されかねないってことだぞ。
「それで一体何が目的なんだ!もうはっきり言ってくれ」
長々と話す腐女子にぷちんときたのか、山田が切り出してくれた。
いいぞ、山田!確かに奇妙な女ではあるが僕達二人が組めばこんな女なんて怖くない!
「アニメオタクに、女オタク、あなた達とは良い仲間になれそうだわ。あなた達私が作るおたく部に入ってくれないかしら、というのが提案なんだけど」
はい…?おたく部だと、なんだそのふざけた部活は。そんなの先生が認める訳ないだろ!いい加減にしろ!
「待ってくれ、アニメオタクに関しては確かに彼にしか当てはまらない称号だろう、だけど俺の場合の女オタクっていうのはあまりにも強引なのでは?確かに俺のイケメンさとネームバリューがあれば部活の宣伝にはなるだろうが、おたくでも無い俺を入れるなんて…」
おいおい、軽く僕をでぃすってるのかこいつは…だがここまで自信満々に言えるのはある意味でこいつは凄いな…。
「山田君、あなたの小学生で付き合った人数は九十二人、中学で付き合った人数は百六十人、高校では現在二百三十人、現在でも何股もかけてるそうじゃない…」
「な…お前どこまで俺について調べてるんだ…」
正直こいつには嫉妬していた僕だったがありえない数字を聞いて、もはやドン引きであった。
こいつは二日に一回のペースで女を振っているのか…。
文○砲並みの情報源を耳にした山田は体が震えている。
まあもしこの学校に広まればこいつの立場は僕達男子より一つランクが上なだけのノミ以下の存在として扱われるだけだが。
「おけ…おーけ…」
山田の声は震えていた。
さっきまで元気で溢れていたお前はどうしたんだ。
ここまでくると心配になってきたぞ。
「俺と西条はおたく部、そして腐女子のあなたに忠誠を誓います」
勝手に決めやがって、だが止むを得なかった。彼女のあの自信に満ちた顔、逆らえば本当にやる気だ。
僕も隊長の身分である故、こいつとホモ疑惑が浮上しようものなら兵隊は僕の立場というものが無くなる、くそ…。
「フフフ、じゃあ決定ね、よろしくね。西条くんに山田くん…」
こうして僕と山田と腐女子でおたく部は結成される事になった、もう一人がおたく部に入っているのに気付けたのは後々の事である。
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