第14話 男は度胸、女も度胸
ガララ!
勢いよく扉を開ける。
「せいっ!」
二人いた占拠犯のうち扉から遠かった方に向けて僕は全力で駆け出し、まず銃を破壊する。
「なっ、てめえ!」
もう一人の男が僕に銃口を向ける。その瞬間、扉から大量の異能大放出。
「え」
炎、水、雷、風の超ラッシュを受けて僕に銃口を向けていた男は一瞬で意識を飛ばす。
もう一人の男がその様を唖然として見ている隙にその男も僕が瞬殺。
はい、一クラス助けましたー。……あ、瞬殺ってのは比喩だからね? まだ生きてるよ。
「な、なんか簡単に出来ちゃったんだけど……」
銃を持った男をいともたやすく倒せたことが信じられないといった様子の紗倉さん。彼女だけでなく他の人たちも同じ心境のようで、口をポカンと開けたまま異能を出した自分の手と気絶したままの占拠犯を交互に見ている。
「じゃあ次のクラス行くよー」
「分かったわ」
「いいよー」
「オッケー」
クラスメイトから様々な返事が返ってくる。皆まだ不思議そうに自分の手を見つめたり握ったり開いたりしていたが、僕が扉を開けて教室から出て行くのを見て考えるのをやめたらしい。
ということで、未だに状況がまったく掴めずにあわあわしている助けられた生徒たちに、何一つ説明しないまま次のクラス救出作戦へと旅立った。
今助けたのが二組。次は三組だ。中に居る犯人は音から判断すると三人。まさかクラスの数字と同じだけの人数が入ってるとかじゃないよね。
一クラスに四人が入っているところまでは一組の教室内で開いた簡易作戦会議で決めたが、この学校は五組まである。つまり、もしも本当に僕の説が正しくて、五組に五人がいた場合は正直かなり辛い。
僕たちが反逆していることを占拠をしている犯人たちに知られた瞬間に負けが決定する。だからこいつらに連絡をする時間を与えないように瞬殺をしているわけだが、連絡が取れないこともばれるとアウトだ。出来る限り最速で犯人を無力化する必要があるため、もう新しい作戦を練る時間など僕たちに残されていない。
まあなんとかするしかないよな……。
心の中でそんなことを考えながら左手を上に挙げる。突入開始の合図だ。
さっきと同じ要領で犯人たちを気絶させていく。違うことと言えば、僕が銃を破壊したすぐ後に窓から遠い二人目の男の銃を破壊しに行ったことくらいだ。
残るは四組と五組だ。
黒龍を使えたらとても楽なのだが、重厚な見た目から想像できるようにがっしゃんがっしゃんと結構音が鳴る。慣れればそういう隠密行動もできるらしいが今の僕じゃまだ無理だ。
「よし、次のとこ行くよ」
後ろの扉を静かに開けて急いで教室から出る。三組に来た時にも生徒が襲われかけていた。二組の男たちはただ立っていただけだから全員が全員女の子目当てというわけでもないいらしいが、それでも最悪のケースを想像してしまうとつい足が速くなる。
少し気になるのは三組の窓から見えた校庭に立っている人間だ。一組から出るときにも一度確認しているが、そいつを男か女か判断することは出来なかった。
そいつが人鎧を装着していたからだ。
外を見ながら全く動きを見せないあたり、用心棒なのだろう推測している。だからあいつが動きを見せない間はこちらの状況は伝わっていないと見ていいだろう。
そこまで考えていたところで誰かに肩を叩かれた。叩いたのは心配げな顔をした優美だ。
僕がなかなか次の合図を出さなかったのを疑問に思ったのだろう。なにかあったのかと心配しているのが、顔に書いてあるように読み取れる。
考え事をしすぎてしまって集中できていなかった。これじゃ本末転倒だ。
みんなはすでに最初の作戦通り、教室の前と後ろの扉に半々で別れて待機している。
思考をリセットして左手を挙げる。中にいるのはおそらく四人。まだこの数なら作戦会議で何とかなると考えて扉に手を伸ばしたその時。
五組の扉をぶち破って男が吹き飛んで出てきた。
不幸にも頭から壁に激突したその男は、床に落ちてからピクリとも動かない。さらに驚いたことに、その男に続いて四人が吹き飛び壁に激突していた。
何が起きたのか分からない。だが、そこで動きを止める余裕は僕にはなかった。
今の音は明らかにこのクラスの中の犯人たちにも届いているだろう。ということは。
「な、なんだ!?」
中にいた男の一人が僕がいるのとは逆の教室後ろ側の扉を開けた。
やばい!
壁側に張り付いていたみんなはまだ見つかっていないようだが、そんなのあいつが扉から少しでも顔を出せば簡単にバレる。そこがバレれば……こっちの作戦が崩れてしまう!
敵の右足が見える。もう数瞬でみんなも見つかる。とりあえずあいつだけでも先に……!
「た、助けて!」
僕が飛び出すより早く、後ろの扉にスタンバイしていた紗倉さんが恐怖に満ちた声を出しながら今の男にもたれ掛かる。
とっさのことに対応できない男はバランスを崩して再度四組の中へと戻っていった。
「な、なんだお前!」
「五組に入ってきた男が急に銃を乱射しはじめて……ア、アタシ怖くて……!」
紗倉さんの言葉に教室の中の男たちが動揺する声が聞こえる。それに対して僕たちは状況が理解できずぽかーんとしていた。
い、いや、動きを止めてる場合じゃない! 今のは紗倉さんが機転を効かして僕たちを助けてくれたんだ! 今のおかげであの男が僕たちに気付かなかった上に、やつらがどこにいるかも声から大体把握できた!
みんなへの合図を出さずに前側の扉も勢いよく開ける。予想通りの位置にいたやつらのうち、一番近いとこにいた男へ向けて床が焦げるほどの勢いで飛びかかる。
銃口がこちらへ向けられる。そのころには男の顔面へ拳が届いている!
後ろ側の扉からは電撃特有のバチバチッ! という音が聞こえる。きっと紗倉さんが僕が突入したのを見て対処してくれたのだろう。なら残りは二人!
今の位置から近い方へ向けて再度跳ぶ。すでに銃口は向けられているが、引き金が引かれる直前で僕の拳が届いた。
最後の一人へ視線を向けると……そいつは銃口をこちらへ向けるだけでなく、すでに人差し指を引き金にかけていた。
集中力を極限まで高め、銃口から予測される弾道を見極める。引き金が引かれるよりも早く横へ跳ぶ。連射された銃弾を避けきることはできず、右腕と右足を掠めたが……完全に弾道からは外れた!
相手がこちらへ銃口を向け直すよりも早く上へと飛び天井に着地する。予想外の動きに立ち尽くす男の脳天へ容赦なく拳を叩き込んだ。
こ、これでこのクラスも助けた……。
教室を見渡すと扉近くでへたり込んでいた紗倉さんを見つけた。腕と足の怪我を隠すようにしてそちらへ駆け寄る。
「大丈夫!?」
「だ、大丈夫に決まってるでしょ! アタシを誰だと思ってるのよ!」
強がりながらも紗倉さんの手は震えている。銃を持った男に……それもさきほど自分のことを襲おうとしたやつの仲間に自分から近づき、僕たちですら一瞬本当のことかと思うほどの名演技で相手の目を欺いてくれたのだ。
演技がバレたらアウト、僕たちに気付かれてもアウト。
怖いなんてもんじゃないだろう。それでも紗倉さんは、僕より早く判断し躊躇なく足を踏み出した。
「……めちゃくちゃかっこよかったよ、紗倉さん」
「ふんっ……手、貸してちょうだい」
こちらへ向けられた手を取って立ち上がらせる。勢い余って僕にもたれかかる形になってしまった。
「アンタの方がかっこよかったわよ……バカ」
「……ありがと」
僕の腕を見ながら呟いた紗倉さんに、僕も呟くような小さな声音で返す。返事を聞いた紗倉さんは自分で立って僕に顔を見せないようにしながら廊下へ歩き始めた。
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