第7話 小さくて小さな呟き

 あれからさらに三日が経った。つまり今日が対戦当日。天気予報は当たり、イヤというほど太陽がよく見える快晴である。

 結局あれから僕はごちゃごちゃと考えるのをやめ、ただひたすらに特訓を繰り返した。

「……ふっ」

 なんとなくニヒルな笑みを浮かべてみる。もちろん意味などない。

「龍ちゃん……大丈夫?」

 選手控え室の中で急に笑いだした僕に、この部屋まで着いてきた優美が心配そうに声を掛けてきた。

「大丈夫だ。だからそんな、イタいやつを見る目で僕を見るのはやめてくれ」

「いや、本当にすごくイタい人だったから、つい……」

「お前、ホントは心配とかしてないだろ」

「バレた?」

 優美は頭を自分の手でこつんっと叩く。このらしくない動作は、僕の緊張をほぐすためのものかな。だとすると言葉と裏腹に、意外と心配をしてくれているのかもしれない。

「別にケガとかはしないから。人鎧ってかなり硬いんだぞ?」

「ホントに?」

「ホントだホント。僕が今まで嘘ついたことあったか?」

「結構ある」

「ですよね」

 そんな与太話を数分していると、トントンというノックの音がして扉が開く。

「高原君。時間です」

 聞きなれた担任の声。しかし、その声は僕よりも優美よりも緊張しているようだ。

「分かりましたー」

 僕はあえて、間延びした声で応じながら扉へ向かった。

「高原君……あの大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ。むしろ先生の方が大丈夫じゃなさそうですよ?」

「だって……」

 僕の事を心配しすぎて顔が青くなっている先生は、それでも自分のことよりも僕を気に掛けていてくれた。

「あの、ルールは……覚えてますか?」

「はい。攻撃したり、相手の攻撃を上手く防御すれば得点が入って、得点の高いほうが勝利、あるいは戦闘続行出来なくなったら負け……ですよね?」

 実に簡単で分かりやすい。ごちゃごちゃしたものよりもこんなシンプルの方が僕は好きだ。その分点数を付けていく先生方の負担は大きいように思える。

「ええ……人鎧を纏ってるので攻撃方法に特に規制はないですけど、降参とか気絶した相手をさらに攻撃するのは禁止ですよ?」

「そんな鬼畜じゃありませんよ」

「えっと、他には……」

「大丈夫ですって、そんなに確認しなくても」

「……ケガしないでくださいね」

「僕は同じ事を二人に心配されるほど、頼りないですか……」

「へ?」

 僕の発言に首をかしげる先生に構うことなく部屋を出て、グラウンドへの案内を催促する。先生は渋々といった風に案内を了承してくれた。

「よし。んじゃ、ちょっと行ってくる」

「いってらっしゃい。気を付けて」

 そういって部屋の扉を閉める。僕の足はついに、戦いの場へと向かって歩いていく。

 徐々に近づいている戦いの空気に飲み込まれないよう僕は小さく呟いた。


 さあ、主人公を始めよう。

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