第5話
床にはブラットが横たわっていた。息があるかわからなかったが、メリッサは血染めの魔法陣に入った。
メリッサの心に黒い何かが入ってきた。両親、友人、ジェフ、ブラットにカイル…メリッサが出会ってきた人々の姿が見えた。皆の姿が黒く染まっていった。
「こんな子に育てたつもりじゃなかった」「何なの、あいつ鬱陶しい」「あいつセックスの時はすごい声を出すんだぜ」「結婚した事、後悔している」…
人々の負の声がメリッサの心を押し潰そうとしていた。
(私、生きていていいの?)
メリッサは心で呟いた。そこは誰もいない闇の空間だった。誰の声も届かない無の空気が漂う場所だ。
(どうしてだろう。誰もいないのに寂しくない。静かで気持ちいい…)
静寂に満ちた場所にメリッサは安らぎをおぼえた。何もかも解放された冷たい闇の空間にゆっくり映画の様に風景が広がった。
(ここだわ、でも周りの景色が違う)
数人の男女が家に入って行った。映像が地下室に変わった。黒装束姿の男女が部屋に入って行った。床には魔法陣が書かれていた。陣には白い服を着た少女が仰向けになっていた。皆が服を脱ぎ、陣を囲んで床にひれ伏した。
(何の儀式かしら?)
メリッサは静かに事の行方を見守った。
一人の裸の男が魔法陣の中心に立って何か呟いた。周りの男女が起き上がり石の短剣を手に取ると中心の男を次々と刺した。メッタ刺しにされた男の血が少女に降り注ぎ男はその場に倒れた。
暫くすると男は立ち上がった。血だらけの体から更に血が流れ出し、肉が削げて骨が粉々に砕けた。そしてその血だまりに飲み込まれるように周りの男女達の体が溶けて大きな血の池になった。血染めの少女の体は宙に浮き天井にゆっくりめり込んだ。おびただしい量の血の池は床に染み込んで消えた。
メリッサは我に返った。
「とにかく逃げないと」
振り返ると黒装束の男がすぐそばに立っていた。
「いやあああ!」
メリッサは逃げ出そうとしたが、血だまりが盛り上がって行く手を阻んだ。
血だまりが崩れるとブラットが立っていた。
「逃げるのか!俺を置いてジェフの所へ行くのか!」
「もうやめて!」
メリッサはブラットを突き飛ばし、カイルを抱きかかえて部屋を出た。
メリッサは辺りを見回し、木製の短いはしごのかかった出口を見つけた。メリッサはカイルを背負ってはしごを上り地下の物置部屋から台所の横に出た。
(体を壊して…)
頭に入ってくる少女の声にメリッサは答えた。
「わかったわ」
メリッサは台所に入ってカイルをそっと置き、ガスの元栓を開けた。振り向くと目の前に黒装束の男が立っていた。
「うっ!」
メリッサは男に首を絞められた。
「放して!苦しい!」
メリッサは必死にもがいた。
「あなたは…あなた達はソフィを生き返らせようとしたんでしょう?ソフィはあなた達の中の誰かの子供でしょう?親なら誰でも自分の子供を失ったら辛いわ。とても辛い…」
メリッサは声を詰まらせながら話した。黒装束の男は無言のままだった。
「でもソフィが生き返ってもソフィを知っている人は誰もいない。あなた達もこの世にいない。そうでしょ…」
メリッサは横たわっているカイルを見た。
「カイルごめんね。ブラット本当に愛していたわ。でもこれで終わりね」
メリッサは物悲しい表情で目を閉じて持っていたガスライターを点火した。
台所が激しい炎に包まれて爆発が起きた。数回の爆発と共に家は全壊して燃え尽きた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます