第4話
「ううっ…痛い…ここは、地下室?」
メリッサは仰向けのまま目覚めた。頭上に地下室の物置が見えた。メリッサはその下の部屋に落ちた。落ちる途中で何度か引っ掛かったので骨は折れなかった。しかしメリッサの顔や手足はすり傷で血が滲んでいた。
「こんな部屋があったなんて」
メリッサは立ち上がって辺りを見渡すと埃をかぶったドアがあった。
ドアを開けて部屋に入ると中は異臭が立ち込めていた。
床には魔法陣の様に大きな円の中に記号が黒く描かれていた。更に部屋を見渡すと壁には解読不能な文字で埋め尽くされていた。まるで何かの儀式の跡だった。
「何なの…」気味の悪い文字の羅列で覆い尽くされた壁と床には怪しげな魔法陣…。メリッサは何気に天井を見ると小さなミイラ化した死体が張りついていた。
「きゃあああああ!」
メリッサは悲鳴を上げて部屋を出ようとした。ドアが勝手に閉まった。辺りはドアの隙間から漏れる光でうす暗くなった。
「開けて!誰か!」
メリッサはドアをこじ開けようとしたが全く開かなかった。
突然金属音が響き、メリッサはうずくまった。床の魔法陣がぼんやりと輝き、陣の上にカイルが仰向けに宙に浮いた状態で現れた。
「カイル!」
メリッサはカイルに駆け寄ったが、魔法陣の周りに壁ができている様でカイルに触れる事ができなかった。
ドアが開く音がした。メリッサは振り向いた。
「ブラット、カイルが!」
ブラットは無表情で立っていた。
「ブラット、どうしたの?」
ブラットはにやけた表情に変わった。
「これでソフィが生き返る。やっと生き返るんだ」
「ブラット、何を言っているの?」
「長い間の願いが叶う時が来たんだ。遂に来たんだ!」
ブラットは太い声で高笑いした。
「誰なの?あなたは」
メリッサは顔をこわばらせてブラットに訊ねた。ブラットの目が黒くなった。
「やっと叶うんだ。この日が来たんだ」
メリッサの問いを無視してブラットは魔法陣に近づいた。ブラットは陣の中に無造作に入り、宙に浮いているカイルを抱き寄せた。
陣の縁にあたる天井の部分が軋んで短剣状の石器が数本落ちてきた。石の短剣はその場に浮かび上がるとブラットとカイルに尖った先端を向けた。
「やめて!」
メリッサは叫んだ。目の前で何が起きているか理解できなかったが、本能的に二人の命が危ない事を感じた。
「俺と俺の子の血でソフィを蘇らせるんだ。ソフィ、もうすぐだ。もうすぐ会えるぞ」
ブラットの声が響く中、メリッサは魔法陣に入ろうとしたが見えない壁に遮られた。
「やめて!ブラット、カイルを放して!」
メリッサの声にブラットはぴくっと反応してメリッサを睨みつけた。
「俺の命よりカイルが大事なのか」
「違うわ!」
「やはりな。この汚い女が!ジェフとまた寝るんだろう。お前の体は他の男の臭いがする。汚らわしい!」
耐え難い罵声にメリッサは言葉を失った。
「俺にはカイルがいる。ソフィもいる。だからお前は好きなだけジェフに抱かれたらいい。さっさと出ていけ」
「どうしてそんな酷い事を…ブラットしっかりして!」
メリッサの声を無視して。ブラットが手を上げた。メリッサの体はドアの前に吹き飛ばされた。
「さあ、始めるぞ」
ブラットのどす黒い目が真っ赤になった。壁の文字から血が滲んできた。血はべとついた流れとなり魔法陣の線と記号に流れ込んだ。
メリッサは足元のおびただしい血に悲鳴を上げたが、魔法陣の壁が消えている事に気が付いた。
「カイル!」
メリッサは魔法陣に飛び込みブラットを突き飛ばしてカイルを奪って抱きかかえた。
「どけっ、ふしだらな女が!」
ブラットが太い声で叫ぶと浮いていた石の短剣が数本メリッサの肩や足に刺さった。
「ああああっ!」鋭く体に切り込む痛みにメリッサは悲鳴を上げた。メリッサはカイルを抱きしめたまま魔法陣の外に出た。ブラットが鬼の様な形相でメリッサを睨みつけた。
「カイルを渡せ!」
ブラットがゆっくり追いかけて来た。メリッサは足元の血に何度もすくわれながらも必死に部屋を出てドアを閉めた。
「渡せ!うわあああああああああ!」
ドアの向こうで太い叫び声が響いた。メリッサは何が起きているかわからなかった。
ドアに黒い染みが滲みだした。染みは人の形になり黒いフードとローブ姿の男が浮き上がった。顔は見えなかったが袖から伸びた手は紫斑で覆われていた。
メリッサは恐怖のあまり硬直した。カイルが小さなうめき声を上げた。
「お願い。助けて…」
その声はカイルとは違う少女の声だった。
「ソフィ…ソフィなの?」
メリッサは抱きかかえているカイルに訊いた。
「でもどうしたら…どうしたらいいの?」
黒装束の男がゆっくり滑るように近づいてきた。
「体…私の体を壊して…」
少女の声はかすれて消えた。
「ソフィ、うっ!」
黒装束の男が手を上げるとメリッサの体が宙に浮いた。首を絞められた様な痛みがメリッサの体を襲った。メリッサの手を離れてカイルが床に横たわった。
「放して!苦しい!」
メリッサの体が浮いている横で黒装束の男がカイルを抱えた。ドアが勝手に開いた。
「カイルを返して!」
枯れた声でメリッサが叫ぶと指輪がボロボロに崩れた。それと同時にメリッサの体が自由になり足が床に着いた。
黒装束の男がメリッサに顔を向けた。男の顔は紫斑に覆われ黒ずんだ目をしていた。
メリッサは男からカイルを奪って魔法陣の部屋に入った。
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