ファラオに食用ほおずきをささげよ!

この回のお題

【赤酸漿】【自宅でできるお手軽セラピー】【ゲゼルシャフト】【大嫌いだった】

旧タイトル

『ほおずきとおまじない』




 今日も今日とて日差しが強い。

 ツタンカーメンの生まれ変わりを自称する津田は、小学生のいとこに借りたおまじないの本を手に、エアコンの効いた軽部の部屋にやってきた。


「たまには古代エジプトのじゃないやつもおもしろいかって思ってな。“じたくでできる、おてがるせらぴー”だってさ」

「せらぴー、って……」

 勉強中の手を止めて、軽部が露骨に顔をしかめる。

「子供ってのはこの手の言葉に憧れるもんさ。せっかくだしちょっと実践してみようぜ」

「まあ、ちょっとだけならいいけど……」

「よし軽部! おれの膝に頭を乗せろ!」

「それ、やらなくちゃダメか!?」

「イラストではやってるぞ」

 言うやいなや津田はベッドに腰をかけ、軽部の肩をグッと掴んで引きずり倒した。


「こいつは嫌いなものが好きになるおまじないだ。うまくいったら人生一気に楽勝になるぜ」

「オレ別にそんなに嫌いなものなんて……」

「ピーマン。大嫌いだったろ?」

「いつの話だよっ?」

「何だよ、克服しちまったのかよ」

「何で不服げ!?」


「じゃあニンジン!」

「それももう普通に食えるって!」

「チッ……」

「褒めるとこ! そこは褒めるとこ!」


「じゃあ、おまえの嫌いなものって何なんだよ?」

「う~ん……ゲゼルシャフト」

「何だそれ?」

「知らない。勉強しようとしていてわかんなかったから嫌いになった」

「響きからすると欧州系の焼き菓子かな? ザッハトルテみたいな」

「そんな甘いものじゃないぞ」

「てか、それ、家にあるのか? なかったら、おまじないの効果をすぐに試せないぞ?」

「一般家庭には普通はない」

「コンビニのスイーツコーナーに売ってるかな?」

「だから甘くないんだってば」


「そうだ! 確か玄関にほおずきがあったよな? あれって食えるんだぜ」

「マジで?」

「おう。でも食いたくはないだろ?」

「そりゃあ、ねーちゃんに怒られるからな。買ってきたの、ねーちゃんだから」

「一個ぐらいなら大丈夫だろ。よーし、決まり! おまえはほおずきが好きになーる、好きになーる……」

 唱えながら津田が軽部の頭をなでる。

「ちょ! くすぐったい! それにこんなの効くわけないだろ!?」

「トート神よ、わが願いを聞き届けたまえ。この者がほおずきを欲するようにさせたまえ」

「いきなりいつものエジプトの神様!? 実験の趣旨は!? 困ったらとりあえずトート神に頼るのやめてよ!!」



  ☆ ☆ ☆



 知恵と魔法の神であるトートの魔力は効果覿面で、軽部は植木鉢に実ったほおずきをばくばくむしゃむしゃ一つ残らず平らげた。

 問題だったのは、姉が祭りで買ってきたほおずきは観賞用で、食用ではなかった点である。

 それにちゃんと熟していなかった。


 おなかを壊してベッドに横たわる軽部の横で、津田は半泣きになって一晩中つきっきりでトート神への治癒の祈願を唱え続け、軽部は、もーいーから寝かしてくれと思ったのでした。

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