ファラオに卵形のチョコレートをささげよ!
この回のお題
【アンラ・マンユ】【全開だとR18に抵触してしまうほどの壮絶な魅力】【デジャヴ】【深窓の令嬢】
旧タイトル
『悪神チョコレート』
「何だろう、こいつ、どこかで見たような気がする。デジャブってやつかなぁ?」
「ダブりだろ。七個目の。またアンラ・マンユかよ」
場所は津田の部屋。
床に並ぶは大量の食玩フィギュア。
卵形のチョコレートに入った『世界の悪神シリーズ』である。
津田が「セトが出るまで食う」と言ってから、いったいいくつの卵が割られたのだろう。
じゅうたんにあぐらをかいた二人の膝の周りには、ギリシャ神話のテュポーン、北欧神話のロキ、スラブ神話のチェルノボグ、マヤ神話のカマソッソ、中国代表の四凶、日本からは
軽部はわずかに残ったスペースに先ほど孵化したばかりのゾロアスター教の闇の神を立たせた。
今は夏。
二人とも扇風機の真正面の座位に着きたいが、身を寄せ合うのも暑苦しくて押しのけあって、軽部の手についたベトベトにとけたチョコレートが津田のハーフパンツから覗く膝に移り、津田のほっぺたのチョコレートが軽部のほっぺたに移る。
「良い体をしておる」
突然聞こえた野太い声に、軽部がギョッとして振り返ると……いったいいつからそこに居たのか……イノシシを思わせる厳つい顔をしたおじさんがしゃがみ込んで、アンラ・マンユのフィギュアを指でつっついていた。
軽部の知らないおじさんだった。
「久しいな、生まれ変わりしツタンカーメンよ。お前が我輩を求めていると聞きつけたので来てやったぞ」
「いや、ほしいのはフィギュア。本物はいらない」
「フッ。この我輩をそんなにも欲するか」
「だからいらないってばあッ!」
津田の叫びを暴風が掻き消した。
窓が開いているとはいえ室内で、こんな風はありえない。
風には大量の砂が混じっていた。
「!?!?」
津田と軽部がそれぞれの腕で顔を覆う。
風がやむと、津田の六畳間の壁もベッドも机も消えて、辺りは見渡す限りの砂漠の景色に変わっていた。
そしてイノシシめいた男は、人に偽った顔を捨て、獣そのものの頭部を見せつけるように仁王立ちになっていた。
「セト!?」
カルブが叫んだ。
その姿は、食玩の箱に描かれた、まだ見ぬ邪神フィギュアそのものだった。
「ツタンカーメンよ! ついでにもう一人よ! フィギュアが欲しければ我輩のもとへ来るが良い!」
「…………」
津田が軽部を庇うように前に出る。
「気をつけろ津田! こいつアレだろ!? 邪神セトっていえば、甥っ子のホルスとの王権争いのさなかに、ホルスを騙してベッドに引きずり込もうとしたド変態ヤローだろ!?」
「ガーッハハハッ! 我輩の魅力の魔力を全開にしてお前も18禁にしてやろうか!?」
「軽部に手出しはさせない!!」
「フン! 我輩に逆らう力がお前にあるのか? 前世では深窓の令嬢のごとくひ弱だったファラオめが!」
「黙れ邪神! おれには善なる神々の守護がある! 来たれ! 我が輝かしきカンバセよ!」
津田の呼び声に答え、まばゆい光とともに空中に黄金のマスクが現れた。
「何!? 馬鹿な!? それはエジプト考古学博物館に封印されているはずでは……!?」
「時空を超えられるのはあんただけじゃないんだ!」
高名なるツタンカーメンの黄金マスク。
その背面の肩の部分には、死者の書の
それを津田が読み上げる。
「マスクの右目は冥界の太陽! マスクの左目は現世の太陽! マスクの両眉は始祖神より連なる九名の神! マスクの額はアヌビス神! マスクの後頭部はホルス神! マスクの髪の毛はプタハ・ソカル神! マスクは死せる王に正しき道を示す! マスクよ我が旅路を邪悪な者より守りたまえ!! 目からビーーーーーーーム!!」
マスクの両眼から伸びた陽光のごとき輝きの槍が、セトの胴体を貫いた。
「ぐわあああっ!!」
セトの体が爆発、四散し、砂煙に紛れて消えた。
軽部が歓声を上げる。
しかし津田は油断なく辺りを見回し続けている。
「クハハハハっ。見事だ!」
風の音に混じってセトの声がとどろいた。
「今日のところはお前の勝ちだ! 褒美にこの我輩をくれてやろう!」
セトの言葉に軽部が悲鳴を上げた。
軽部が目を覚ますと、そこはもとの津田の部屋だった。
「また変な夢を見ちゃった」
いつ眠ったのかもわからないまま目をこする。
顔を上げると、津田が腕を組んで難しい顔をしていた。
津田の前にはセトの食玩フィギュアが山積みになって置かれていた。
「アンラ・マンユ全部持っていかれちゃった。コンプしたかったのに」
ぼやきながら、津田は軽部に卵型のチョコを差し出した。
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