最後の鍵

 おじさんは手の平で鼻と口を押さえた。

 焦げついた匂いは宮殿の中にまで侵入していた。

 もう時間がない。

 図書館につながる長いエスカレーターを駆け上がる。

 現れた大きな窓、壁いっぱいの窓の外は煙で覆われていた。もはや居住区まで見通すこともできない。そして、図書館前の空間はひときわ煙が濃い。

 目まで痛くなってきた。喉がひりひりとする。

 図書館の扉を開けた。新鮮な空気を感じる。図書館の空気は清浄機能が効いているようだ。後ろで扉が閉まると生き返った気がした。

 棚と棚の谷間を急いで走り抜ける。行くべき場所は分かっていた。ただ、あまりにも久しぶりで自信はなかった。

 白い壁に行き当たる。壁をじっと見つめながら穴を探した。

 見つけた。

 穴を覗く。直ちに虹彩認証が完了し壁が開いた。

 アカ=ミカンス。

 無事だ。

 赤い光の中に浮かぶ裸体の少女。

 私が守らなければ。

 激しい警報が鳴り響いた。

 既にここも危険だと言うのか。

 考えてもいない事態だった。

 もはや為すべきことは見出せなかった。

 おじさんは途方にくれた。

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