警報

 地下貯水池では止まらない警報が鳴り響いていた。

 おじさんは足を止めた。

 通路から水面に手元の鋭い光を放つ。

 あちこちで小さな渦が巻き起こっていた。水が勢いよく流れている。足元が微かに振動していた。

 追いつけないほどの勢いで記憶が戻ってくる。

 貯水池は中心地区への侵入を防ぐための「水の壁」としての機能を回復しつつあった。やがて水は高温で沸き立ち、一切の侵入者を寄せ付けなくなる。地下世界に取り返しのつかないような火災が発生した場合は、尖塔のある宮殿、研究施設を守るために中心地区を水没させ鎮火を図る。

 非常時のために用意された仕組みが息を吹き返し完璧に作動している。

 居住区では暴動を鎮圧するための部隊、臆病者と呼ばれていた連中が、男たちを殺戮しているのだろうか。

 既に水は温まり、地下通路の湿度はかつてないほど上がり始めている。

 おじさんは熱気を吸い込まぬよう、フードで口を覆った。

 急がねばならない。

 立ち止まっている暇はなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る