狂信
それぞれが掲げる小さな火が男たちの汗ばんだ顔を照らしていた。
期待に満ちた静かな熱狂が場を支配していた。
裏切り者の粛清を経て、男たちの結束はかつてないほど固いものになっていた。もはや、炎の言葉に疑義を唱えるものはいないはずだった。
片手が大きな火を振り回す。
男たちが真似して小さな火を振り回す。
男たちを煽るように片手の動きが激しくなる。
男たちは夢中でついていく。
いつの間にか楽器の音が重なってくる。
今までにない、複雑な音がホールに響き渡る。
飛び跳ねるのではなく、掲げた火の動きに合わせるように、男たちは傾けた身体を回し続ける。
静かだった。不気味なほどの静けさの中で、男たちは身体と火を回す。
炎の登場で男たちは次々と動きを止めた。身体を固めるように真っ直ぐ立ち、炎の一挙手一投足を見逃すまいと目を見開いた。
炎は聞こえないほどの小さな声で喋り始めた。
男たちは耳を凝らす。何を行っているのか、聞き分けようと必死に頭を傾ける。
炎は口をつぐんだ。
沈黙がますます男たちを引き寄せる。
「我々は充分に待った」
炎が言った。
男たちには分かっていた。炎が誰を待ち続けていたか。
「もう待つことはない」
炎は静かに宣言した。
「堀は埋まった。我々が我々の手で世界を取り返す時が来た。
「地上をめざす時が来た」
炎の言葉を聞いた男たちの誰かが唾を飲み込んだ。
「名前以上のものを得る」
炎は静かに続けた。
「この世界を滅ぼし、地上へと帰るのだ」
歓声は上がらなかった。
男たちは打ちひしがれているようにも見えた。そうではなかった。男たちはそれまで存在すら知らなかったもの、生きる目的と希望を手に入れ、心を震わせていた。自分が生きていることに意味があったという驚き。それを教えてくれた少年への感謝。今はいない少年の代わりに導いてくれる炎への揺るぎない信頼。その場に居合わせた全ての男たちが身体の芯から込み上げてくる感動に打ち震えていた。
「焼き払え」
炎が言った。
「地上に帰る我々に、この世界は不要だ」
男たちは吸い込まれるように炎を見つめていた。
「全てに火を放て。そして」
炎は男たちを見渡した。全ての目が自分を見つめていることはよく分かっていた。
片手を見た。
片手も熱を帯びた目で炎を見返した。
「宮殿をめざす」
しばらくの静寂の後、片手がまた大きな火を回し始めた。楽器が続く。男たちも続く。
ホールの入口が開け放たれた。
先導する元剣士たちに続いて男たちがホールから、始めはゆっくり、次第に早足で、熱に浮かされた目をして、続々と出ていく。足音だけが轟いた。
片手が続く。
炎も続いた。
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