襲撃
集まって食事をとるようになったのは、いつからのことだっただろうか。学校に来る前、茶色がガキどもを率いていた頃は、集まって食べることは滅多になかった。学校で暮らすようになってからは集まって食べる。特に文字を教わっていた連中はいつも一緒に過ごしていた。
茶色と鋭い目の不幸な出来事があってから、太めはなるべくガキどもひとりひとりの面倒を見るように心がけていた。少年がより大きな目的のために学校を出て行っても、残されたガキどもと太めは毎日集まって食事をとった。
炭を焼く瓦礫の上にパンを乗せたのは誰だったのか。誰もがこんがりと焼けたパンの味を楽しむようになり、パンを焼く係が決められた。それから誰かがキッチンから大きな鍋を持ち出した。炭を焼く熱い瓦礫の上に乗せられた鍋の中にいつもの味気ないスープと肉と千切ったパンが放り込まれた。スープはご馳走になった。誰もが食事の時間を楽しみにしていた。
ガキどもの食事はいつもにぎやかだ。
無言でお行儀よく食べるような奴はひとりもいなかった。わいわいと騒ぎながら、大きく開けた口からパンのかけらを飛ばし、口の端からスープをこぼし、机の上にたれたスープを袖で広げ、時に器ごとひっくり返して着ているものまで汚す。
盛り上がっているのは他愛もない話ばかりだ。どっと盛り上がりながら次の話が始まる。パンもスープも部屋の真ん中に充分に用意してある。暖かい食べ物を囲みながら仲間と過ごす時間はなかなか終わりそうにも無い。
学校の外に集まった人影に気がついているガキはひとりもいなかった。
部屋の扉が開けられた。誰も気にしなかった。誰かが出入りするのはよくあることだ。
扉から入ってきたのが剣をかまえた元剣士たちであることに気づいたガキどもが黙り始めた。整然と侵入してくる元剣士たちの顔は目のところを繰り抜いた布の仮面で覆われていた。その下でどんな表情をしているのか、異様な雰囲気がガキどもの間に次々と伝わっていく。忙しく食べ物を口に運んでいた手は止まり言葉を紡ぎだしていた口は閉ざされた。ついさっきまでの喧騒は消え去り、重苦しい沈黙が室内を支配していく。
部屋の中心で並べた机の上に横たわりダラダラと食べ続けていた太めの周囲に元剣士たちが並ぶ。その輪を割るように仮面で顔を隠した片手と炎が現れた。
太めはつまらなさそうに彼らに目を向けた。
片手が太めの喉元に剣を突きつけた。
太めをかばうように二人のガキが太めの身体に覆いかぶさる。
元剣士たちが二人のガキを捕まえ、簡単に、軽々と太めから引き剥がした。
捕らえられたガキのひとりが絶叫した。
それが合図だったかのように声を潜めていたガキどもが揃って悲鳴にも似た叫び声を上げる。室内に響き渡る金切り声に怯んだ元剣士がガキを抱える手を離した。床に落ちたガキが素早く立ち上がる。
驚くほどの早さでしゃがみこんだ片手が肘でガキの脇腹を鋭く突いた。
ガキは声も出さずに吹っ飛び、そのまま倒れた。
再び、室内が静寂に包まれた。
元剣士たちが太めを小突きながら立ち上がらせ紐で縛りあげる。
炎は太めの目の前で仮面を脱ぎ捨てた。
太めは炎の顔をめがけて唾を吐いた。
片手の持つ剣が炎を守るように突き出され、飛び散る唾を受け止める。剣はそのまま止まらずに円を描くように動き、太めの足を打った。以前、同じように剣で打たれた、まさにその場所を、今度も片手は正確に打った。
太めは苦悶の声を上げ、崩れ落ちようとした。元剣士たちがそれを許さなかった。太めの身体は力なく元剣士たちに委ねられた。
ガキどもは泣いていた。
泣きじゃくっていた。
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