首謀者

 茶色の頬はこけ目は落ち窪んでいた。まともに食べていなかったのだろうか、驚くほど痩せ細っている。それでも、ガキどもの前に立つと以前のように生き生きとした表情で話し出す。そうやって話していると何も変わっていないように見えた。

 ガキどもは神妙な顔をして話を聞いていた。太めは部屋の隅で足に布をきつく巻かれ横になっている。少年は遠慮するかのようにガキどもから離れ、壁に背をつけ立っていた。

 茶色は騒動を起こしたガキどもを責めなかった。鋭い目を除いて。

「おまえのせいであいつが死ぬところだった」

 茶色は鋭い目を睨みつけたまま太めを指差した。

 鋭い目は茶色の視線から逃げるように顔を背けた。

「騒ぎを起こせばオレが帰ってくるとでも思ったか?」

 茶色は容赦なかった。

 鋭い目はチラッと太めを見ただけで何も言わなかった。

「図星か?」

 返事をしない鋭い目の腹に茶色のこぶしが突然深くめりこんだ。

 まったく予期していなかったのだろう。鋭い目は身体を曲げ詰まった息をなんとか吐き出そうと口を開ける。苦しげな嗚咽が漏れた。

 折り曲げられたことで低くなった鋭い目の顔をめがけて茶色の平手が飛んだ。頬に当たり大きな音を立てる。鋭い目は力なくよろけ、床に尻餅をついた。その姿勢のまま茶色をにらみつけた。

「やるか?」

 茶色は挑発していた。

 鋭い目は乗らなかった。苦しげに立ち上がり、ふらふらと扉に向かう。

 ガキどもが出て行こうとする鋭い目と茶色とを交互に見ていた。何人かは扉に向かい、鋭い目を止めようとした。

「放っとけ」

 茶色の言葉にガキどもは怯えるように動きを止めた。

 鋭い目は振り向かずに出ていった。

 部屋の隅で太めが小さく泣いていた。

「アイツは悪くないんだ」

 太めの声ははっきりとしなかった。

「そんなこた、分かってる」

 茶色が言った。

「オレが言い出した……」

 茶色は太めにそれ以上言わせなかった。

「アイツがおまえら守んないでどうすんだよ。アイツは分かってねえんだよ、それを。アイツは止めるほうだ」

 茶色は皆に言い聞かせるように言った。

「二度と余計なこと考えんじゃねえぞ」

 そう言われて太めは声を失った。周りのガキどもから顔を隠すように伏せた。そして、また泣いた。

 少年はすすり泣きの聞こえる部屋からそっと抜け出した。

 二人きりの時とはまったく違う茶色を見ると心が苦しくなる。ずっと前からそうだった。また会えたというのに、なんと言って声をかけたらいいかも分からなかった。どこに行っていたのかを聞くのは怖かった。道を教えなかったことを責められるのはもっと怖かった。

 太めの怪我を消毒しよう。放っておけば怪我はひどくなり死んでしまうかもしれない。アルコールを用意しよう。少年はぼんやりとそんなことを考えていた。そのために部屋を出たんだと自分に言い聞かせていた。太めのためになることができたら、茶色とまた話ができるかも知れない。学校の皆にも許してもらえるかも知れない。

 少年は自分の考えに納得していた。

 それがいい。そうしよう。

 少年はおじさんの部屋に向かって走りだした。

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