照明
身体の向きを変え、足から慎重に降りていく。すぐに平らなしっかりとした場所にたどりついた。
狭い隙間から潜り込んだ瓦礫の下は広い空間につながっていた。少年の知っている地下、図書館へとつながるあの道筋とはかなり様子が違っている。暗がりに慣れてきた目で少年はあたりを見回す。天井のあちこちから光が漏れていた。
薄暗がりの中で手招きしている茶色が見えた。
「どうした、来いよ」
呼ぶ声が空間に響いた。その向かうはさらに暗くなっている。微塵も不安を感じていない茶色が恨めしかった。
少年は一歩を踏み出した。足元の瓦礫が崩れ、乾いた音を立てた。
「オレが見つけたんだ。ここを通ればどこにでも行ける」
茶色の声は誇らしげだった。
おじさんから足を踏み入れてはいけない場所のことを聞いていた。ここがそうなのだろうか。
輝かしい表情の茶色を見ると、何も知らないことが幸せに思える。同じ世界で生きていても交わることがなかったはずの出会い。間違っていたのかもしれない。
「心配するな。ここは誰も知らない。連中には言ってないんだ、ここのことは」
茶色の言う「連中」がガキどものことなのは間違いなかった。
建物の屋根を飛び移るだけでなく地下の通路を使って移動している。茶色の秘密が少年にだけ明かされている。信頼されつつあるのだということは少年にも分かった。それにどうこたえていいのか、分からなかった。
気まずさに耐えかねて目をそらす。
ふと目にとまった壁に見たことのある装置を見つけていた。何の気なしにそれを操作した。
天井の照明が一斉に点灯した。
あっけに取られた表情の茶色が立っていた。何度も瞬いている。目の前が急に明るくなったことが信じられないという表情をしている。
少年はもう一度操作した。
照明が消え、通路が一斉に暗くなる。一瞬の明るさが強烈だったからだろうか、その前よりひどく暗く感じられた。
「おい!」
茶色の声は困惑していた。
少年がまた照明を操作する。
「すごいな」
茶色の少年を見る目がすっかり変わっていた。
「本を読むと、こんなこともできるようになるのか?」
「んー、どうだろう」
さっきまでとは立場が変わっている。優位に立った自分に少年は気がついていた。
「まいった。もっと教えてくれ」
茶色は素直に感心していた。
少年はすぐに気がついた。茶色にとって立場なんて最初からどうでもいい。どっちが上とか、そんなことは気にしていない。
少年は少しばかり自分を恥じた。
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