ニ番目の鍵
所狭しとものが並べられていた。四角く大きいものやヒトの背丈ほどの丸みを帯びたもの。赤や黒、茶色や緑色など、様々な色の布で覆われていても、それと分かるほど複雑な形をしている。布の下から黒光りのする部分や黄色く輝く部分が見えているものもある。顔を近づけてよくよく見ると表面にうっすらと埃が積もっている。長い間、誰にも触られていないようだった。
「これは何?」
好奇心を止められなくなった少年がおじさんに尋ねた。
「楽器だ」
「楽器?」
その言葉は本で目にしたことがある。本を読んでもまったくわからなかった。
これが楽器というものなのか。
「滅亡した地上の世界では音楽というものを奏でるために楽器が使われていた。しかし、この世界では誰も音楽を知らない。もちろん私を含めて」
おじさんは楽器には興味は無さそうだった。
少年は興味津々だった。壁の楽器に近づこうとする少年をおじさんが制した。
「ここで時間を潰している暇はない。いつか、そんな機会があればの話だが、最初からここに来るつもりの時に好きなだけ触ればいい」
少年は楽器に触るのを諦めた。
ただ、音楽というものが、おじさんにもよくわからないものだということ、そして、そんなものが地上の世界にはかつてあったということ。
本で読んだかもしれない。なぜだか強く心惹かれた。
ここにまた来たい。
そんなことを願っている自分が不思議だった。
おじさんと少年は楽器の並ぶ部屋から出る扉にたどり着いた。
「ここまでは普通の鍵、つまり、この鍵束の鍵でたどりつける場所だ」
おじさんの言っていることがやはりよくわからなかった。
「ここから先は、世界を解くための別の鍵が必要になる」
世界を解くための鍵、扉を開けるのではなく、世界を解くということ、どうしておじさんがそんな言い方をするのか、少年には見当がつかなかった。
壁の一角に黒い四角がある。その中心に、おじさんが磨いている望遠鏡のレンズのような丸いガラスがあった。
おじさんはそこに向けて大きく開いた手をゆっくりと近づけた。
出し抜けに黒い四角を中心に壁が縦に割れた。たちまちその割れ目が広がっていく。割れ目が広がっているのではなく、壁が動いている。壁だと思っていたのは大きな扉だった。その扉が音もなく開いていく。
開きつつある壁を呆然と見つめる少年に、おじさんが言った。
「世界を解くための二番目の鍵は手だ」
「手?」
「そうだ。手だ。世界を解く鍵は、何も鍵束のこの鍵だけではない」
開いた壁の向こうで天井の照明がゆっくりと明かりを増していく。その先には、また下りの階段が見えた。
「他の鍵は?」
「それはまた後だ。先はまだまだ長い。少し急ごう」
扉の向こうは再び階段だった。降りていくおじさんの後ろを少年は慌てて追った。
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