第2話 木々のささやき〜夜〜

 ばあちゃんの手から力が抜けていくのと同時に、周りのもの全ての輪郭がぼやけ始めた。

 私が飲んでいたコーヒーカップが小さな光の粒を残してふぅっと消えた。それを合図にしたように、他の家具も消え始めた。ばあちゃんお気に入りの安楽椅子も。いつも紅茶を飲むのに使っている小さなテーブルも。色がへんてこな壁の絵も。ちょうどいい孫の手も。

 ふぅっ、ふぅっ、ふぅっ

 次々とばあちゃんの家のものが消えていく。光の粒だけを残して。家具だけじゃない。壁もゆっくりとその色が薄くなり、後ろの外の景色が透けて見え始めた。

 涙が出るかと思ったけど、泣くことができなかった。

 ばあちゃんの部屋が、淡い、優しい光に満ちて、消えていく。さみしいし、悲しいはずなのに、その光りが優しすぎて。



 夕焼けが見えた。

 私は、夕焼けに照らされた小高い丘の上の草地に一人、立っていた。

 周りは一面草原で、魔法使いのばあちゃんも居なければ、ばあちゃん自慢の小さくて素敵な可愛い家も無い。

 まるで最初から、何も無かったみたいに。

 ポケットに手を突っ込んでも何も入っていない。こういう時、たいていは何か思い出の品が残ってるもんじゃないの?

 遅れてあふれて来た涙だけが、私たちの思い出を証明する物質で、それは名前も知らない雑草たちの肥やしになるべく、ぽたりぽたりと足下に落ちては土にしみこんでいった。

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