1-03『放課後ディティクティヴ3』

 二階へ行くと、Dさん(仮称)が机に手をかけて立っていた。

 彼女は僕を、顎をしゃくって奥へと促す。なんだか男性的な挙動だな。と、なんとなしに思う。素直に従った。

 目的は、たぶんわかっているから。

 やがて図書室のいちばん奥まった位置、背の高い本棚の陰になる部分で彼女は立ち止まり、振り返った。

 そして宣う。


「――何かしら、それ」


 彼女の視線は僕ではなく、よく見るとさらに後ろへ向いている。

「おろ?」とヨミが間抜けな呟きを漏らすのが聞こえた。どうやら彼女も気づいたらしい。

 そう。

 つまり。

「それ、とは酷いことを言いますね。こんなナリでも、図書室の精霊様ですよ?」

「……何かしら、それ」

 彼女は言葉を繰り返した。

 僕も同じことを言う。

「だから、精霊ですって。あるいは守護霊でもいいですけど。というか何でもいいんですが。僕もよくわかりませんし」

「酷い説明じゃな」

 無視。

「――ちなみに、名前はヨミといいます」

「…………」

 彼女は僕の背後の空間――大方の人間にはただの空気としか映らぬ場所を、驚愕とともに見上げている。


 ――ヨミが、見えるらしい。


 Dさんはしばし無言でいたが、やがて何を思ったか、ヨミへ向けて腕を伸ばした。

「……初めまして」

「ぬ? うむ、くるしゅうないぞ」

 握手を交わす二人。

 そして、一秒、二秒……、十秒。

 Dさんは手を離さない。

「むぅ……。お主、いつまで私の手を握っているつもりなのだ?」

「ごめんなさい」

 謝りはするものの、謝るだけで手は握ったままだった。にぎにぎと、感触を確かめるかの如く指を動かし続けている。

 ……なんだろう。

 もしかしてこの人、少し変わっているのでは……?


「なるほど」

 と、不意にDさんがヨミから手を離す。次いで言った。

「どうやら認めるしかないようね」触るまで認められなかったらしい。「まさかこんなところで、こんな超自然的な存在に遭遇できるとは思ってなかったわ」

「……どうしてどいつもこいつも、私の城を『こんなところ』呼ばわりするんじゃろうなあ……」

 ヨミがいじけているが、それはそれとして、僕はDさんに向き直って言う。


「――えっと。すみませ、」

「あら。まだいたの?」

 さも今気づいた風に言われた。

 ……おいおい。

「何かしら?」

「あー。……名前、聞いても?」

「その情報を、貴方は一体何に使うつもりなのかしら。何が目的?」

「…………」


 どうしよう。

 この人、間違いなく変人だ。


「や……、特に目的とかないですけど」

「まあいいでしょう」

 いいのかよ。

 いや、いいのかよ。

 ……からかわれてるのかな、僕。

「名乗らないのも失礼よね。――私は四倉よつくら。四倉くぬぎ。二年三組よ」

 やはり先輩だったようだ。勘だったが、敬語を使っておいて正解である。

 我が校の制服には、外見から学年を判別できるような仕組みがない。もし指定のジャージを着ていれば色分けで判るのだが、制服では無理だ。

 ともあれ、名乗られたならば返さねばなるまい。僕は言う。


「一年の若槻わかつき佐太郎さたろうです」

「そう。かわいい名前ね」

「…………」

 なんだろう、これは誉められたのだろうか。

 名前がかわいいなどと評されても、はっきり言って嬉しくないのだが。

「劇的に似合ってないわ」

 訂正。まったく誉められていない。

 嬉しくないとは思っていたけど……いやもう何だかなあ。

 正直すごく掴みにくい。


「それで――」

 と、Dさん改め四倉くぬぎ先輩。

 肩までかかる長い黒髪を手で梳きつつ、能面のような無表情でこちらを見据えながら口を開く。

「何か、言いたいことが?」

「……」

 表情はない。ながらも決して感情が希薄なわけではなかった。細く鋭い瞳には、隠しきれない剣呑な色合いが宿っており、僕の心を的確に射抜いてくる。

 まるで胸の裡を見透かされているかのような気分に陥る。

 自分よりも背の低い先輩(先輩が特別低いのでも、僕が特別高いのでもない)に、僕は確かに気圧されていた。

 何も悪いことはしていないのに。


「……いえ」ポーカーフェイスを気取って肩を竦める。「ヨミが見える人には、いつも同じことを言っているんです。『ときどきで構わないから、ヨミに会いにきてあげてほしい』――って」

 もっとも、僕はまだ一度しかその台詞を口にしたことはないが。

「会いに?」

「はい。要するに、ヨミの友達になってやってほしいんです」

 そういって僕は頭を下げた。

 先輩は、そしてヨミも、ただ黙して僕の話を聞いていた。


「……ええ。わかったわ」やがて先輩は、何か際立った反応をすることもなく静かに頷いた。「それだけ?」

「それだけです」

「そう」

 呟くと、先輩はなぜか小さな苦笑を見せた。

 反応の意味がわからず眉を顰める僕に、先輩はすぐさま向き直ると、

「こちらからも、ひとついいかしら?」

 そう問うてきた。

「……まあ、構いませんが」

「貴方たち、さっき何をしていたの?」

 単刀直入とはまさにこのことだろう。ズバッと直球で切り込まれた。

 なんだかんだで、やはり見られていたということか……いや、これはむしろ、今になって思い返せば、という感じか。

「おお、そうじゃサタロー。答えを聞かせてもらいたいのう」

「いったい何の話?」

 訝しむ先輩に、これも縁かと、僕はそれまでの経緯を説明することにした。




「――と、いうわけです」

「なんというか」僕如きでは及びもつかないポーカーフェイスで先輩は宣う。「随分と暇なのね、貴方」

「否定はしません」

「ちなみに私じゃないからね。本を出しっ放しになんて、しない」

「知ってます」

「……まさか、わかったの?」

「誰なのじゃ、サタロー」

 ふたり分の視線が刺さった。僕は頷き、

「犯人は――」

 そこで一度深呼吸する。

 とはいえ焦らすつもりはない。なぜなら今回の件は憶測を重ねることしかできず、要は確証がないからだ。自信満々に間違ったのでは恥ずかしすぎる。

 僕はひと思いに口を開いた。


「――たぶん、男子Bくんだ」


「いや……誰じゃ、それ?」

 疑問を顔に浮かべるヨミ。宙に浮いているからなのか、首を傾げようとして失敗し、身体ごと回転してしまっている。

 何それ。物理の法則はどこへ消えた。ヨミを前には、推理なんて茶番でしかなさそうだ。

「あー、ごめん。僕の脳内呼称だった」

 こっちに、と言って僕はヨミを吹き抜けの場所まで促す。階下が見えたほうが話しやすいだろう。

 なぜか先輩もついて来たけれど……まあ気にしないことにするとして。


「さて、」とヨミ。

 手すりへ器用に腰掛けて、脚を組んで僕に言う。

「説明してもらおうかの。まさか、勘とは言うまいな?」

「言わないけど……それ以前に、まずその短い着流しで脚を組むのをやめてくれ。目に毒だよ」

「ろりこ……」

「そのネタはもういいから」

 だいたい、ヨミが自分をロリキャラだと認識しているのが、なんというか詐欺的ではあるよなあ。確かに見た目は中学生か、下手したら小学生くらいにさえ見えるけど……その実年齢は数百歳とかになると本人が言っていたのだし。まあ精霊の年齢というのもまた、推し量りがたい表現じゃあるけれど。

 ていうかさ、そもそも僕は巨乳派なんだよ。言わないけど。


「ま……じゃあ、どうやって考えたのかを説明するけれど」

 とはいえ単なる消去法だ。

 元より確証はなく、ただ「普通に考えて違うだろう」という人から外していっただけ。もし誰かが気紛れに《二階に行って本だけ出して帰っていった》と考えるなら、さすがにわからないとしか言いようがないのだから。これは蓋然性のお話。

「容疑者は五人。便宜的に、直木先生を除いた生徒たちはそれぞれ、カウンターの彼が男子A、パソコンを使ってるのが男子B、文庫を読んでる人を女子Cとする」

 四倉先輩は名前がわかったから、説明する必要はないだろう。

「ではサタローは、あのぱそこんの前におる男が犯人だと思うわけじゃな」

「そういうこと」

「なぜじゃ?」

「うん。――まず、真っ先に除外できるのは、カウンターの中にいるAくんだ」

「――その心は?」

 なぜか先輩に訊かれる。僕は肩を竦めて、

「それはもちろん、犯人――と便宜的に呼称しますが――そう見るのにいちばん無理があるからです。図書委員の仕事中である彼は、基本的にカウンターから離れることができない。どうせ誰も来ない、なんて考えてうろつく可能性まで考えてもいいですけど、先輩を初めとして目の前の机に何人かの利用者がいる上、何よりすぐそばに先生がいるんですから。まず出歩かない」


「待ってくれ。それは根拠として弱いだろう」

 と、そこで先輩が異論を挟んできた。

 ……なんか、さっきと口調が違うような気がするのだが。

 そこには突っ込まずに問い返す。

「というと」

「彼は私より先にここへ来てた。ならば《放課後まず真っ先にここへ来て、本を読み、他の人が来る前にカウンターへ戻った》と考えることも可能だろう?」

 ……ふむ。その言葉で、僕は数秒の思案に入った。

 なるほど確かに、図書室へ来た順番、というのは考慮に入れていなかった。出した答えに矛盾が出るだろうか。

 しばし考えてから、僕は首を横に振った。

「……いえ、だとしても疑問は残ります。仮に読みたいのなら、カウンターの中へ持ち込めばいいだけの話なんですから」

 わざわざ人目を憚る必要などない。図書委員が、時間潰しに貸出カウンターの中で読書をしているのはまま見る光景なのだ。好きに読んでも誰も咎めない。読むための本を持ち出すために出歩くならば、置きっ放しにする理由がないのだ。そもそも図書委員は、そういった本をむしろ片づける側の人間だろう。

 他人を外見だけで判断できるとは思わないけれど。それでも、今現在Aくんがあれほど暇そうにしていながら本のひとつも読んでいない、というのは示唆に富んだ情景だと思う。

 若者の活字離れが叫ばれて久しいが、こうも環境が整えられていれば一冊くらい手に取ってみようと、そう考えるほうが一般的ではないだろうか。

 それをしないとなると、もう彼の中には《読書》という概念が欠片も存在していないとしか思えない。ましてや郷土史の資料本など。


「……なるほど。筋は通ってる」

 どうやら納得してくれたらしい。どこか楽しげに、先輩は追撃の手を緩めた。

 僕は肩を竦めてみせつつ、説明を再開する。

「本当のところ、最初に怪しんだのは直木先生か、でなければ四倉先輩なんですよ」

「……私? どうして」

「この場合、『こんな資料本を彼のような男が読むとは思えない』――なんて台詞に説得力を持たせることはできません。でも、だからといって、やっぱり普通の高校生が興味を持つような本でもないでしょう」

「……まあ、それは確かに。つまり、あの手の本を読みそうな人間は、この場には先生か――」

「もしくは、なんらかのレポートを書いているらしき先輩、しかいません」

 そう、可能性は何も《興味があるから読んだ》だけではない。

 ともすれば《興味はないが必要に駆られたので読んだ》という場合も充分にあり得る。

「でも、そう単純に考えるわけにもいかなかった」

「誰が出したにしろ、上の階に置きっ放しにされたままなのは不自然だから」

「その通りです」

 特に資料として参照したい四倉先輩の場合は、一階まで持ってこない理由がない。読む度にいちいち階段を上り下りするなんて、そんな面倒な真似まで考慮に入れたくなかった。


「そもそも私の書いていたレポート、この資料とは何の関係もないのだけれどね」

 四倉先輩は肩を竦めて言った。

「みたいですね」僕は頷き、しれっと続ける。まあそもそも、今のもやっぱり、絶対とまでは言えないですから」

 確かに全員下の階にいた。上階の老朽化してささくれ立ったボロ机よりも、一階に設置された新しくて綺麗なテーブルのほうが、本を読むには適しているだろう。

 だが絶対じゃない。

 なにせ資料が置かれていたのは、それが本来納まっているべき棚のすぐ側だった。

 ものぐさな人間ならば、わざわざ持ち歩かずその場で読んでしまうかもしれないし、そもそも本腰を入れて読むのではなく、どこか1ページだけに目を通したかったのかもしれない。

「それを考えると、やはり直木先生辺りが気紛れに読んでいたと考えるのが、いちばん妥当になってくるんでしょうが……」

「納得できなかった、というわけだ」

「ええ、まあ」

 四倉先輩は察しがいい。聞き手としては意外にも、これ以上ないほどに優秀な人だった。話しやすくて助かる。

 ていうか、やっぱり最初となんだか話し方が違っている。女性的だった口調が男性的になっている――というか。今のほうが素っぽい気はするけれど。

 まあ、いいだろう。話を続ける。


「僕にはどうしても違和感があった。けれど、その正体までは掴めなかった。――気づくきっかけをくれたのは、四倉先輩、あなたでしたよ」

「私……? 何もした覚えはないんだが」

「ヨミに気づきました」

「それが?」

「いえ、それ自体はこの件と関係がない。僕が言いたいのは、そのとき先輩が取った行動についてです」

「君たちを二階に誘ったこと?」

「その前です」

「回りくどいな……つまり何が言いたいんだ?」

「――先輩。先輩は、席を立つとき、読んでいた資料を閉じましたよね」


 その発言は予想外だったのか。

 一瞬だけ、四倉先輩は返答に詰まった。


「……普通は閉じるでしょう」

「そう!」我が意を得たりと、僕は思わず指を打ち鳴らす。「普通、読み終えた本は閉じるんですよ」

 ――けれど。

「けれど、あの本は閉じられてなかった」

「……、……」

「あの本は、途中のページを伏せられてたんですよ」


 そして、それこそが違和感の出どころだった。

 本が開いたままで出しっ放しにされていたこと。あまりに当たり前の前提条件だったため逆に見過ごしていたけれども、それこそが真っ先に気づくべき違和感の正体だったのだ。


「それに気づいたとき、間違いなく直木先生ではないだろうな、と直感しました」

 僕は言葉を続ける。

「なぜ?」

「文庫ならまだしも、これだけ背表紙の厚い図書です。あんな置き方をしたら、本が傷んでしまいかねない。――仮にも司書の先生が、蔵書に対して、そんな扱いはしないでしょう」

「それも、絶対とは言えないと思うけど」

「絶対じゃなければ駄目だと僕は思いますが……そうですね。では先輩。先輩が、本を開いたままにしておくのは、どういう場合ですか?」

「さあ。そんなことしないから」

「本が傷むとかは考えないで。たとえばの話です」

「……私は――」

 と。そこで先輩は、はっとしたような表情になった。どうやら気がついたらしい。

 やはり頭の回転が速い人だ。僕がずっと悩んでいたことに、こうも容易く辿り着くのだから。まったく立つ瀬がない。

 先輩は言う。


「……本を読んでいる最中に、途中で止めざるを得なくなった場合ね」

「その通りです。もっと言えば、置いた本の場所へまた戻ってくる場合に、です」


 意識的にしろ無意識的にしろ、本を開いたままにして置いておくという行為には、という意味合いが裏に隠れている。

 戻ってくるつもりがないのなら、普通は元の棚に戻すか、最低でも閉じはするだろう。開いたまま忘れていた、という線は、本が表紙側を上に伏せられていたことから消える。これは明確に状態保存の意図があってのことだ。

「そして、開いたまま置いておく必要があったということは、さらに裏を返せば下まで持ってはいけなかった、あるいは持っていく必要がなかったということを意味します」

 これによって直木先生、及びAくんへの疑いは完全に晴れる。

 このふたりは何もしていなかった。それはつまり、本を上に置きっ放しにしなければならない理由がなかった、ということだから。

「そして四倉先輩は、場を離れるときに本を閉じる人ですから」

 僕に声を掛けたとき、先輩の作業はまだ終わっていたわけではない。それでも本を閉じるなら、それはもう、そういう人だということだ。

 後付けだけれど。――まあヨミが見えている時点で、二階に行っていないことは証明されたに等しい。

「まあ、容疑者から外して問題ないでしょう」

「それで残るは、男子びーと女子しー、ということになるわけじゃな」

 感心したようにヨミが口を挟んでくる。

 出題した当人のくせに、元来の性格がゆえだろうか、さっきから妙に小気味いい反応をしてくれるものだと思う。

 ……これ、あくまで推測で証拠はないんだけど。


「ひとつ気づくと、連鎖的に他のことにも思い至るというか、さ」

 努めて簡単なことのように言う。

 外してしまったときの保険を考える、しょうもない僕がそこにはいた。

「ここから先は、特に迷わなかったよ」

 実際のところ、この辺り、自分を納得させられる解釈が得られるか否かは、かなりの部分を運に依存すると僕は思う。

 あるいはそこへ至るために必要な情報や、閃きを刺激してくれるような天佑を得られるか否かも。

 要は、思いつけるかつけないか。

 もちろん、自分を納得させられた解が確実に正しいとも言い切れないのだけれど。まあ今回に限っては、そうであるという蓋然性はかなり高いと思っていた。


「これは、たまたま思い出したんだけど。――着想の手助けになったのは、最初に言ったヨミの出題の仕方そのものにあった」

「出題の仕方、じゃと……?」

「そう。ヨミ、僕に最初、なんて出題したか覚えてる?」

「それは、じゃから、『あの本を読んでいたのは誰か』と――」

「違う」言葉を遮った。

 正確な台詞はそうじゃない。ヨミは、


「ヨミは僕にこう訊いた。――『あの本をのは誰か』、と」


「……、」

「無意識だったんだとは思う。でも、ヨミは確かに《読んでいた》ではなく、《出してきた》と言っていた」

「あ……」と、そこで先輩が声を上げた。

 おそらく思い至ったのだろう。その表情をあえて言葉にするなら、なぜ気づかなかったのか、とでも言いたげな風情だ。

 とはいえ無理もない。彼女も、僕と同じく読書はよくするタイプなのだろう。そういう人間では気づきにくい発想だと思う。


「今回、確認できた状況は、《開かれた本が伏せられて置いてある》ということだけだった」

 やはり僕は名探偵にはなれないな、と心中で独り言つ。

 勝手に前提を作り上げ、信じ込んでしまうのでは探偵失格だ。探偵を気取るのであれば、せめて《自分の目で見たもの以外は信じない》とか、その程度の主張は標榜できなくちゃ嘘だと思う。

 探偵役は、すべからく変わり者であるべきなのだ。

 ――僕には向かない。

「本が出てた、それはいい。開かれてた、オーケー誰かが開いたんだろう。――けれどそれは、必ずしもという証明にはなり得ない。世の中には、本を人間もいるんだから」

 そこを僕は読み違えていた。だから遠回りだった。

「あの本は大きかった。読んでいる振りをしながら、裏側に隠した別の何かに興じることも可能なくらいには」


 そう。

 たとえば、


「――たとえば、携帯ゲームとか」

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