幼年期~現在まで

思い返せばいつだって「そこそこ」何でも出来る子供だった。

高校生もまだ法律上・生物学的上とも子供と称されるので現在進行形で「何でもそこそこ出来る子供だ」となるだろうか。

大河内 章太郎は成績優秀で運動神経も悪くなく人付き合いもそこそこうまくやる幼年期・・・小学生時代を過ごした。敢えて『そこそこ』と付くのは「常に学年トップ」であったり「スポーツ万能で常にスタメン選手」であったり「人望が厚く常に委員長に推薦されるクラスの人気者」ではなかったからだ。

目立たない程度に優秀であった為、先生や同級生たちがのちに思い出す時、「そういえば大河内君は優秀だったね」と思い返されるだろうがそれ以外は凡庸で特に記憶には残らなかっただろう。『大河内 章太郎』と彼の名前をフルネームで言える人間も多くなく、クラスメイトを思い出してください、と問われて彼の名前を挙げる者は恐らくいないだろう。

章太郎自身、この頃の記憶はあまりない。仲が良かったであろう友人も数名いたが誰一人としてその名前を思い出せないしきっと相手だってそうだ。

しかしそんな中で鮮明に覚えているのが小学生・高学年時代に見た戦争映画だった。

学校で見せられたその古い映画は児童たちに戦争の悲惨さを教え、同じ過ちを繰り返さない未来を創造することを目的として見せられたハズだったが章太郎は全く違う視点で見て高揚していた。


「嗚呼、なんていとも簡単に人は死ぬのだろう」


ある者は敵の銃弾を浴びて、ある者は整備不良の航空機と心中してそしてある者は味方からの粛清によって命を散らしていく姿に悲惨さよりも興味が上回った。

過去を振り返り、明確に言い切れるのはあの観覧以降、殺人への異常な興味を示したということだ。

興味を持ったと同時にそのことを公言すると社会的によろしくない結果をうむことも理解していた。児童心理のスペシャリストたちは犯罪者予備軍を小学校3年、6年の時に実施する「国内一斉道徳心アンケート」と言う名の心理テストであぶり出しその予備軍たちをモニタリングしているのは知っていた。事実、同じ小学校の一つ上の学年でサイコパス予備軍とされ、小学校で飼っていたウサギ達にウサギ肉のパテを食べさせたところを現行犯で押さえられた少年がいた。数か月に一回起こるウサギの不審死も彼の犯行だろうと器物損壊の罪で児童相談所へ送られ、その後、精神病患者として国に管理されたともっぱらの噂だった。教師陣はじめ近隣の捜査機関は少年の動向を定期的にその少年を見張っていたのだろう。

章太郎は何故、その少年があんなに解りやすい炙り出しアンケートに引っかかったのか不思議で仕方なかった。

どう見ても「死」や「反社会的行動」への興味を測る設問が数多く見られそれに対し「素直」に答える事が「社会的に危険」であることが伺えたのに。

そう感じ取ることが出来たのは章太郎の両親から受けた情操教育が「至極まっとう」であり「愛情溢れる」環境で大事に育てられたからだろう。

両親・・・特に母はおおらかで同情心溢れる女性だ。

映画の哀しいシーンがあれば子供の前でも涙ぐむのを止めないし章太郎が倫理・道徳に反した行動を行えば即座に激高しその行動を正した。

父も倫理的・道徳的規範として申し分ない行動を子供に示し、その結果、章太郎は「何をしてはいけないのか」「何を見た時にどのような反応をすべきなのか」を踏まえた少年となった。

内心では持っていてもその興味を外部へ悟られてはいけない事項についてわきまえているので、章太郎に取って見え透いた「反社会性を伺おうとする設問」に引っかかることが不思議でならなかった。


天才や神童と呼ばれる程ではないものの、学業に問題なく、また通常の教育課程内では申し分ない程の運動神経を持ち合わせ、周囲より浮くことなく過ごしている章太郎へ両親や教師陣は「手のかからない良い子」として評価した。

そうなるように章太郎自身も務めた。

悪目立ちすることが一番よくない。

スパイに適しているのは「地味で灰色の髪の小男だ」とは良く言ったものでその多くは違法である諜報活動を実施するスタッフが目立っては仕事に差しさわりがある。もちろん、フィクションの世界では観客の関心を得るため、見目麗しいキャストが必要だろうが。

章太郎は常に「そこそこ」を目指し、そして彼の素材・・・外見も頭脳も・・・そこそこと評するに丁度良い程度だった。

16歳になった今、身長173cm。体型はやや痩せ型だが同世代の少年たちから特別視される程ではない。顔立ちも凡庸で決して悪くはないが奥二重の目元、薄く大きすぎも低すぎもしない鼻筋、やや薄いが整った口唇も平均的な卵型の輪郭も「よく見ると悪くない」が同時に「特徴に欠ける」と言える。

勉学においても一度読めばすべて理解したり1をもって10を知る程に天才的でもなければ複数分野で才能を開花させる神童のような素質もない。普通に学んで復習することで事柄を記憶に定着させ、それを応用してアウトプット出来る・・・常に学年では3位以内をキープしつつ、倍率8倍と言われる警察大学附属高校へ中程度の順位で入学出来る程度に優秀だった。そして入学し1年弱程経過した今もその順位は殆ど変わらずにいた。

そんな章太郎を両親はもとより祖父母は自慢の息子・孫として惜しみない愛情を注いてくれた。そして警察大学附属高校へ入学した本当の理由を思うと章太郎は少し後ろめたくも感じ、余計に「良い息子・孫」を演じるようになった。

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