エピローグ

「結局、あの日が最後になっちゃいましたね」

 あれから数日経った放課後のことだった。ふいにケンが口を開いた。

 別に私たちは葵のことを言うつもりはなかった。いや、ケンは言おうとしたが、私がそれをとめたのだ。でも、葵は自分で事の成り行きをすべて先生に話し、結局、学校を退学となってしまった。その代わり、本人が自主的に言ってきたこと、それと、私立とあって、汚点となっては困るとのとこから、警察沙汰にはならなかったようだ。

「まぁ、でも大丈夫だろ」

 靴を履きかえて自転車置き場へと向かう。

「何が大丈夫なんですか?」

「これから、高卒認定試験を受けるってさ」

 昨日、メールで葵からそう連絡があった。

「そうですか。でも、珍しいですね」

「何が?」

「何がって、美月様が他人を信じるなんて」

 放課後直後とあって、自転車置き場にはまだたくさんの自転車で埋め着くされていた。

「葵ちゃんは羨ましいですね、美月様に信じてもらえて。……わたくしも美月様に信じて頂きたいです」

「別に……。別に、ケンのこと信じてないわけじゃないからな。今までだって助けてくれてたし、ほら、色々とフォローしてもらったりしてるから」

 どこに自転車を置いたのか忘れてしまったケンを置いて、一人で自分の自転車へと向かう。

「今の言葉は本当ですか!」

 私に吸い付くようにケンが駆け寄る。自転車のスタンドを倒して後ろへ下がった。

「うるさい。でも、今度何かヘマしたら知らないからな」

 私と一緒に後ろへ下がっていくケンを睨んでやった。

「じゃあ、今はわたくしのこと信じて頂いているんですね」

 より一層声を大きくしたケンは歯をちらつかせながら、空を見ていた。

「置いていくぞ」

「あっ、待ってくださいよー」

 自転車に乗って、先にこぎ始めると、ケンが慌てて後を追いかけてきた。

「やっぱり、美月様はツンデレですね」

 ケンはそう小さく呟いて、笑った。

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紙者使い -魔狩り- 牧 春奈 @maki-haruna

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