第2話    幸ちゃんの結婚式の巻

 グレーの漆喰の壁、辛子色のドア。その傍には人の背丈よりも大きな樫の木の鉢植えがあり、十二月のクリスマス時期には色とりどりの電球や白い綿で出来た雪が飾りつけられるが、今は一番高い枝の先にある大きな金の星だけが、朝日を受けて晴れ渡った夏の空に光輝いている。

 横に七棟並んだ三階建てのテラスハウスの一番端が、僕たち家族の住む家「ぼくんち」だ。この家の主、願井真一こと柱さん(大黒柱のこと)は動物学者で、今日、朝早くアフリカのスーダンに出発した。戻って来るのは九月になる。僕と透明ネコのお父さん、それに、ババァ(黄色)おこりん坊さん(小町)シマシマさん(金多)、わるものさん(喜戸)、勝つ(僕の弟)の六人(匹)と半分(お父さんは実体がないからと言ったら頭を叩かれましたよ。)のネコ組と、僕たちの育ての親のエリさん(柱さんの奥さん)と小学六年生になる娘のここの(僕たちのご主人)はお留守番。賑やかだけどちよっぴり寂しい夏の始まりだ。


「ここの。起きて!遅れるよ!」

エリさんは三階のベランダのカーテンを勢いよく開け放した。

午前五時。朝日が眩しい。三年前、ここに引っ越して来た時には背伸びしないと見えなかった小学校のポプラの木が、今では真向いの家の屋根から覗くお日様と仲良く肩を並べている。今日もいい天気で暑くなりそうだ。僕と透明ネコの大きい人は出窓に並んで座り大きな欠伸をした。ここのはベットの上で抱き枕を胸に抱え、眠い目をこすりながら枕元の時計を見る。

「えぇー早いよ!あたしよりお父さん起こさなくていいの?それに今日から夏休み なんだけど。」

「何言ってるの。お父さんはもう出かけました。あっ、夏休みの宿題、今年は手伝 えそうにないから頑張って一人でやって下さいって。お父さんからの伝言。」

「わざわざご親切にありがとうございます。」

口を尖らせ小声でブツブツ言うここのに、散らかった机の上を片付けていたエリさんが後ろを振り返る。

「何か言った?」

「いえいえなにも・・・。」

「まぁいいけど。それより今日は幸ちゃんの結婚式だからね。」

「ああっ!忘れてた。早くそれ言ってよ。」

ベットから慌てて飛び起きたここの。

「まったくもう。これなんだから。お母さんこれから着替えの荷物を詰めなきゃいけないし、朝ごはんはテーブルの上に用意してあるから食べなさい。」

エりさんはクローゼットのドアを開け、手前にあるスーツケースを動かし、ヘアーアイロンでセットした髪が乱れない様に手で押さえながら、奥にある衣装ケースの中に頭を突っ込んだ。

「ねえ、お味噌汁、ワカメじゃぁないよね!?」

「ワカメ?!・・・」

生返事のエリさんは味噌汁の中身より今日着るドレスを探すのに忙しいらしい。ここのは大きな溜息を付くと、お気に入りの映画「キックアス」のTシャツを頭から被り、カーキ色のショートパンツを履いた。今、ハマっているのは主演女優のクロエちゃんの様にヒットガールでグットガールになる事。他人のお役に立ちたい精神でもワカメは苦手ときている。

『ワカメが嫌いな人は誰ですか?おいおいおいー』

小声で言ったつもりが聞こえたみたいだ。ベットの端で毛繕いする僕はここのに睨まれた。柱さんとエリさんには秘密だけど、ここのは僕が生まれる前、あることがきっかけで僕たちの透明な姿が見える様になり言葉もわかる様になった。詳しい事は大きい人が別の機会でまたお話しするということで。

元に戻ります。

「かな!うるさいよ!」

『うるさい人は誰ですか?僕ですか?おいおい!』

「もういい!」

怒ったここのは僕を横目でジロリと睨み、後ろにいる透明ネコの大きい人に何とかしてと目配せする。もちろん大きい人は掟の通り、命以外は関わらない。

「ここの。何一人で言ってるの?早く食べて出掛けるよ。」

クローゼットから出て来たエリさんはやっと探したドレスを畳んでバックに詰め、今度は自分の部屋へと向かう。ここのは諦めて二階のキッチンに下りた。


 テーブルにはサラダに厚焼き玉子、納豆に海苔にシャケと和食の朝食が並んでいる。こんな時のお味噌汁は豆腐とネギに定番のお揚げもいいが、今日はワカメに決定なのだ。ここのは椅子に座って味噌汁の中のワカメをじっと睨み、おかっぱ頭をブルブル振ると、意を決したかの様に箸で摘まんで廊下の向こうまで聞こえるような声で怒鳴った。

「お母さん。やっぱりワカメ入ってる!!」

『ワカメ嫌いな人は誰ですか?ここのですか、どうですか?』

「もぉ!かな!三階の部屋から話すのやめて。私が嫌いなの知っているでしょ。」

『ご存知ですか。ご存知ですよ。お味噌汁はワカメですよ。』

「人の嫌がる事言うとバチが当たるよ。ごはん、今日は抜きにするから。」

『バチは当たりませんが、ごはんは抜かれますよ。』

「ごはん抜きってことはバチが当たる事なの。」

『バチは当たりませんよ。バチが当たるのは悪い人だけです。』

「もういい!もういいから。知ってる?あたしの方が年上の分、人生経験長いんだ からね。」

ここのは何処までも続く僕との押し問答に我慢が出来ず叫んだ。その時、廊下側のドアが開いてエリさんが顔を出す。

「ここの。好き嫌い言ってないで食べなさい。」

「はーい」

ここのは渋い顔をしながら鼻を摘まんでお味噌汁を飲み干した。磯の香りが口の中一杯に広がる。それを消そうと慌てて椅子から立ち上がり、サイドテーブルの上のバナナに手を伸ばす。が、熟れ過ぎて黒ずんでいる。ここのは仕方なく冷蔵庫からヨーグルトジュースの紙パックを取って口に流し込んだ。

『かわいそうに。黄色いバナナは誰にも食べられずに忘れ去られて・・・。寝たき りバナナになりましたよ。』

と、三階の部屋から話し掛ける懲りない僕。

バナナさんはその後、ここのの手で生ゴミ専用のごみ箱にポイされました。それもこれもエリさんと一緒に朝ごはんを作った僕のせい?

本当は僕が入れたんだ。ワカメ・・・。



『初めて新幹線に乗り、初めて運転した僕は初めてづくしで大満足ですか。どうで すか。おいおいおい!』

 出発前のプラットホームで、夏休み初日に集まった鉄道ファンがカメラを構えフラッシュの雨を降らせる。E5系「はやぶさ」、カッコイイ流線形の車体で色はグリーン。東京から新幹線で一時間、先頭車両「グランクラス」の指定席で、エリさんとここのはアテンダントが運んで来た軽食を食べている。

その間に僕は失礼して運転席に行ってみた。幽体の僕は壁やドアもすり抜けられるし、歩くより飛んだ方が早い。それよりももっと早いのは思っただけでどこでも瞬間移動できる。(ただし、今まで行った事があるところ。)ドラえもんの「どこでもドア」よりドアがない分すごいのだ。それに、運転したいと思えば運転手さんの頭の中に入り、すべての思考を一瞬で理解し運転する。そんな僕を危ないからと言って大きい人はいつも止めるけど・・・。ということで、僕が自慢話をしている間に、いつの間にか駅に着き、いつの間にかタクシーに乗り、結婚式場のホテルにいつの間にか着いていた。

 エリさんとここのは一般控室でドレスに着替え、挨拶のため花嫁の控え室に向かう。ドアを開けると、壁際の大きな鏡の前に、ウエディングドレスを着て椅子に座る幸ちゃんの後ろ姿が見えた。美容師さんはセットした髪の白いベールの上にゴールドのティアラを乗せピンで留める。鏡の中の幸ちゃんはとても綺麗だ。鏡越しに目が合うと、どこかの国のプリンセスの様に、シルクのロング手袋をした手を小さく振り、最高に幸せそうな顔で微笑む。

幸ちゃんはエリさんのお姉さんの娘で今年二十二歳。ここのにとっては年の離れた従妹。年に一、二度しか会わないが、幸ちゃんはここのに色々と気を遣い話を合わせてくれる。

「幸ちゃん、おめでとう。すごく綺麗よ。」

エリさんが幸ちゃんに近づいて声を掛ける。

「本日は、おっ、お日柄も良く、おめでとうございます。」

直立不動のここのはやっとそれだけ言うとペコリと頭を下げた。

「ここの?!」

エリさんはここのの大人びた挨拶に戸惑い、そんな言葉が何処から出て来たのか分からないここのは、恥ずかしさの余りエリさんの後ろに隠れた。その様子を微笑ましく見守りながら、幸ちゃんは椅子から立ち上がり、ゆっくりと振り向くと頭を下げ二人に挨拶をする。

「ありがとうございます。エリさん。今日はわざわざ遠い所から来て頂いて。ここのもありがとうね。」

「はい。どういたしまして。」

ちぐはぐなここのの返事を聞いたエリさんと幸ちゃんは思わず顔を見合わせ吹き出した。ここのは訳が分からず二人の顔を交互に見ている。僕は慌てて幸ちゃんのドレスの裾に隠れた。昨夜、エリさんが読んでいた冠婚葬祭の本の中で、どうしても言ってみたかった挨拶の言葉を、僕がここのの口を借りて言ったらこういう事になっちゃったのです。

「かな、あたしの頭の中に入って何したの?」

おかしいと気づいたここのは心の中で僕に聞いてきた。大きい人は足元で僕を睨んでいる。何も知らないエリさんと幸ちゃんはもう次の話題の人物、お婿さんの話で盛り上がっている。

『犯人は誰でしょう。誰でもありません。僕ですよ。』

ヘビに睨まれたカエルの様に、目の前には大きく開いた口が待っている。先手必勝、大きい人に噛まれる前に謝った方が得なので僕は素直に頭を差し出した。

『わかった。正直に言ったから今回は許してあげる。だから、もう二度としないで よ。』

ここのはそう言うと近くのテーブルにあったオレンジジュースを一気に飲み干し、残った氷を口に入れてバリバリと奥場で噛み砕いた。

やっぱり・・・。

まだ怒ってますか?怒ってますよ。大当たり!


 幸ちゃんの結婚式は予定時刻を過ぎても始まらなかった。

ここだけの話。実は、アメリカ人の牧師さんが二日酔いで寝坊したのだ。そんな事とはつゆ知らず、親族控室のソファに座ったエリさんは久しぶりに会った親戚たちと世間話で盛り上がり、大人に囲まれて退屈そうにしているここのに誰かが気づくとお決まりの質問をして、ここのがお決まりの答えを返す。大きい人は姿が見えないことをいいことに、ここのの膝の上で丸くなり、ウトウトしながら皆の話に耳を傾けている。そんな中で、ここののせっかちなお祖父さん(ジィジ)だけは時間を気にして腕時計を見ている。ジィジは昔、小学校の校長先生をしていたそうだ。その頃、エリさんの妹さんが体調を崩し病気がちだったので、心配したエリさんは皆で神社にお払いに行こうと言い出した。が、ジィジだけは頑として行こうとしない。元々理数系のジィジは神頼みなんていう非科学的なものは一切信じない。その上、予約した先の神社の神主さんはジィジの教え子。

「あんな未熟者に拝んでもらったら治るもんも治らなくなる。神頼みするなら医者 を探した方が余程ましだ。」

とえらい剣幕で怒り出す始末。そんなジィジに、一人でも欠けたら御利益が無くなると押し切ったエリさんは無理やりジィジを車に乗せ、奉納する日本酒を買って神社に向かった。

 お払いの儀式は粛々と進み、終わっていざ立ち上がろうとすると、家族全員足が痺れて動けない。神主さんがいつもより長く念入りに拝んでくれたらしい。帰り際には、神社所縁の神様のお姿が描かれた掛け軸とお菓子を渡され有り難く頂いて帰って来た。ジィジだけは一人ありがた迷惑だと怒っていたが、その掛け軸は今でも妹さんの家の床の間に大事に掛けてあるそうだ。

 そんなジィジだから何をするかわからない。背中に回した手を組み部屋の中をウロウロ。それだけでは物足りず廊下をウロウロ。退屈していた僕もつられてその後をウロウロ。好奇心で建物中の部屋のドアを開け、中を覗いては慌てて閉めて、その挙句に、帰り道が分からず迷子になって・・・。ジィジは僕が連れて帰って来ました。

そんなジィジの姉、今年で九十歳になる千代婆ちゃんは車椅子に乗せられて誰にも相手にされず、手持ち無沙汰にテーブルの上にあるクッキーを食べようと手を伸ばしたが、出掛けに入れ歯を忘れたことに気づき、仕方なく手を引っ込めた。そんな婆ちゃんでもエリさんに会った途端、挨拶もそこそこに

「お祝いは幾ら包んだの?」

と聞いて来る。入れ歯は忘れてもお金に関する事は忘れない。

しっかり者かうっかり者か、どうでしょう?!

僕はと言えば、いつもの癖で、座っている人の端から順番に頭の中を覗いてみた。

『あいつの所の長男は一流企業に就職したんだって。』

『どうやら大学落ちたみたいだ。』

『誰かいい人家の娘に世話してくれんかね。』

『花婿さんはどんな人なの?』

・・・・。

『人生は良くも悪くも前に進む。

あとは野となれ山となれ。

出たとこ勝負だ。頑張ろう!

           かなう。』

人生格言。自画自賛。

「皆様、大変お待たせしました。これから式場にご案内致します。」

話のネタも尽きた頃、ホテルの係員が呼びに来て、参列者はそれぞれ連れ立って控室を後にした。


 常夏の国ハワイをイメージしたヤシの木にブーゲンビリアの花が咲き乱れ、ステンドグラスから夏の太陽の光が降り注ぐ。教会にパイプオルガンの調べが響き渡り厳かな式が始まる。

入り口のドアが開き、花婿の待つ祭壇へバージンロードを歩く花嫁と花婿の父。ステップが合わず戸惑う親子。それが面白くて僕は足の間をグルグル回る。やがて、花嫁は花嫁の父から花婿に手渡され、幸ちゃんは花婿の隣に。

花婿よりちよっぴり背が高い幸ちゃん。ノミの夫婦はピョーン、ピョン。

「・・・祝福を与えたまえ。アーメン。」

神妙な顔で説教台に立ったアメリカ訛りの日本語を話す牧師のマイケルさんは、胸の前で十字を切り、神に祈りを捧げ式の始まりを告げる。

『アーメンではないですよ。二日酔いでまだお酒が抜けない人は誰ですか!おいお い!』

マイケルさんはお酒が好きだ。昨日も朝までお酒を飲み、家の玄関のドアノブに手を掛け、うつ伏せで寝ていた所を、ゲートボール帰りの近所のジジイの人に、死んでいるのかもしれないと棒で体を突かれた。

酒を飲んでも酒に呑まれるな。というが呑まれちゃうのは誰ですか。溺れますよ。溺れますよ。マイケルさんの頭の中から出て来た僕は、説教台の上でマイケルさんと幸ちゃんと花婿さんに囲まれた。僕の頭の上で誓いの言葉が交わされる。

『お酒臭いですよ!もしもし。息さわやかをたくさん飲んでも臭いは取れません  か、取れませんね。おいおいおい!お願いですからお酒臭い息で頭の上からしゃ べらないでください。』

僕はマイケルさんを見上げ真剣にお願いしてみた。

花嫁側の前から二列目の席に、エリさんとここのが座っている。ここのは笑いを堪えきれずに俯き、エリさんはその様子をしきりに気にしてる。お葬式と結婚式、式と付くものは、笑うなと言われれば言われる程、笑っちゃうのが人生です。パイプオルガンの上にいる大きい人も鼻を鳴らして笑いながらこっちを見ている。

『笑うなんて、人の弱みに付け込んで。笑ってないで助けてください!ですよ。』

式は指輪の交換に進み、牧師のマイケルさんは僕の足元にある指輪のケースを取るのに更に近づいて来る。

『もしもし、聞こえますか?お願いだからそばに来ないでください。臭いです   よ!おいおいおい!』

ここのと大きい人の笑い声がさらに大きくなった。



 教会の式が無事に終わり、別棟の披露宴会場に移った。

花嫁側の丸いテーブルには、主催者のお姉さん夫婦、ここのにエリさん、ジイジにバアバと千代婆ちゃん。エリさんの妹さんと無口な旦那さんの夫婦。それと、大きい人はテーブルの下で退屈なのか大きな伸びをしている。僕はさっそく大好きな調理場に行き一通り見回した。今回の僕の仕事は配膳人です。頃合いを見計らって、滞りなく料理を運ぶ指示を出す人のことですよ。ここで出される料理の全ては、出来合いの物を本部から運んできました。後は、熱い物は熱く、冷たい物は冷たくするだけです。

『ここのチーフは誰ですか?チーフはいないですよ。コックに毛が生えたアシスタ ントがいますよ。後は皆アルバイトで~す。あまり料理は美味しくないですけ  ど。どうでしょう?』

コース料理の前菜が終わり、メインは神戸牛のヒレステーキ。千代婆ちゃんはエリさんにステーキ肉をナイフで小さく切ってもらい、入れ歯の無い口で一生懸命食べている。

披露宴は花婿、花嫁のお色直しになり、二人が着替えている間、花婿さんの妹さんがお祝いの歌を歌い始めた。千代婆ちゃんの隣で、料理を黙々と食べながら、会場の音楽が気になっているジイジは、突然顔を上げ目の前にいるここのに聞く。

「音楽がうるさいな。こんなに大きな音で歌うのか?」

「ジイジ、これ普通だよ。」

「これが?・・・。普通か・・・。」

ジイジは納得のいかない顔でしばらく考えていたが、また料理に戻り黙って食べ始めた。

ジイジにしてみれば、日頃から音楽などというものには縁遠い。耳が大きな音についていけないのだ。その反対に、耳が遠くなっている千代婆ちゃんは、そんな事にお構いなくステーキ肉をほおばっているが、一切れ食べるのにも時間が掛かり、半分は口から飛び出てテーブルの下にいる大きい人の頭の上に落ちた。それに驚いた大きい人はシッポをまいて一目散に逃げ出し、天井の梁の上でステーキソースが掛かった体中を舐め捲った。いくら幽体で透明だから大丈夫と言っても、ソースで汚れることに変わりはない。

笑ったら怒られますよ。クックック・・。

僕がそんな事で気を取られている間に、ジイジはやっぱり大きい音が我慢できず席を立ち、向こう隣りのバアバの制止も振り切り音響係に文句を言いに行く。音響係は詰め寄るジイジに怯んで後ずさる。クックック・・。

『ジイジというものは年を取る程手に負えません。おいおいおい~』



 後片付けもできたし、本当に今日は楽しい一日でした。

エリさんは、お礼の挨拶で忙しいお姉さんを掴まえて、姉妹で骨休めの温泉旅行に行く約束をした。隣で挨拶をしていた義兄さんとその息子(幸ちゃんの5歳上のお兄さん)は並んだ姿が瓜二つ。遠目で見るとどっちが年上なのかわからない。メガネを掛けて、額の生え際が会うたびに後退する。真面目が取り柄の甥に嫁の来てがないことぐらい誰が見てもはっきりわかる。エリさんの妹さんと無口な旦那さんは、間が悪いのか、お姉さんに別れの挨拶をしようとする度に、誰かに先を越されてばかりいる。

正面玄関では、ここのがタクシーのドアを開け、イライラしながらエリさんと僕を待っている。大きい人は先に乗り込み、エリさんが社交辞令の愛想笑いで皆に手を振り、ドアを閉めようとした寸前、僕は中に乗り込んだ。

セーフ!

「かな、遅い!ここは東京から遠いんだからね。わかってる?」

怒った時のエリさんにそっくりなここのの大人びた言い方。

『ハイハイ。僕はドアを開ければすぐにお家に帰れますけどー。と言っても、どう せ電車で一緒に帰るんだから、遅く帰ろうと早く帰ろうと僕には同じことで   す。』

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