第2話 始まりの都

 目の前に何かがいる。

 ここは何処だろう、空は白く、地面も白い。

 存在という存在が白く曖昧で、何も分からない。

 その筈なのに目の前の何かの事だけは理解できる、まるでその何かは自分の存在を曖昧な世界に証明しようとしているようだ。

 突然、その何かの動きが見える、そして、何かの口と思わしきものが動き、無機質な声が響き出す。


 ────我は、貴様の友人。前世の親友に当たる者だ。久しいな、我が友よ。貴様は今何をしている?答えよ、我が永遠の友であり永遠の使い手よ────


 頭に響く無機質で、見知らぬ声、なのにその声にある種の懐かしみを覚えた。使い手?一体何のことだろう。分からない。


 ────むっ?貴様、もしや忘れているな。これは嘆かわしい、なんと嘆かわしい事実か。まぁ、嘆くのは後にしよう。貴様と話せる時間はそう長くない。せいぜい、貴様が夢現にふけっている時だけであるからな。まぁ、今のところはだが。そんな話は後にしよう、さぁ……、は……をしよ……ないか────


 突然声が、途切れ途切れになり始め、よく聞き取れない。

 それに合わせて、目の前の何かが、ブレ始める。


 ────ふむ、時……短しかな……、また、会お……じゃないか、我が友よ────


 声は完全に途切れ、目の前の何かが煙のように消え去った。

そして、何かが消えたと同時に白く曖昧な景色が一転し黒く変わり、その黒は俺を飲み込む。俺の意識はそこで途絶えた。




「おい、起きろ」


 言葉と共に頭に激痛が走る。


「いって……、人が気持ちよく寝てるってのに、何するんだよって、あんた誰?」


 痛みから遅れてやってくる、視界情報。

 そして目の前には、紺色の西洋風の服に包まれ、腰には簡素であるが、とても使い古された警棒のようなものをぶら下げたおっさん、いわゆる警備員のような格好をしたおっさんがいた。


「あんた誰じゃないよ、君なんでこんなところで寝てるんだい?最近、ここ都で辻斬りが横行してるんだけど、まさか、君がその犯人じゃないだろうねぇ?」


 おっさんは、俺のことを犯罪者を見る目でつま先から頭のてっぺんをじっとりと見つめてくる。正直、気持ち悪いわ。しかもあらぬ疑惑を吹っかけられたし。


「ち、違いますよ!お、俺がそんなことできそうな男に見えますか!?」


 若干上擦りながら、俺はおっさんの疑惑を否定する。当然だ、俺は今ここに来たばっかりで、しかも多分だがここに転送されて、そのショックで意識を失っていたんだ。辻斬りなんて出来るわけない。


「人は見かけによらないって言うだろう?私は、常に人を見かけで判断しないようにしてるんだよ。まぁ、君は犯罪者ではないだろうけど。一応確認だけど、一つ質問いいかな?」


 俺は少し動揺しながら、答える体制に入る。


「は、はい。どうぞどうぞ」


「君はこの都のルールを知っているかい?」


「知るわけないじゃないですか、なんたって今日ここに来たばっかなんですから」


 御師様に、飛ばされたばっかでルールなんて知るか、むしろ知りたいわ。

 俺の答えを聞いた、おっさんは少し思案顔になりながら、黙り込む。


「じゃあ、しょうがないか。ちょっと、所に来て貰うことになったから、大人しく付いてきてくれる?」


 おっさんはそう言うと、俺の手に手錠を掛けて来やがった。


「は?」


 俺は、何も分からないままおっさんになすがまま、所、いわゆる、警備所に連れていかれてしまった。






 ────────────────────





 流れる作業で、俺は机と椅子が二つづつぽつんと置かれた取調室なるものに入れられてしまった。


「では、幾つか質問をさせていただきます。あ、質問は強制です、黙秘権はこの都には存在しないので悪しからず」


 目の前の黒髪ロングの女性捜査官が俺に質問を投げかける。てか、黙秘権無しかよ、マジないわー。


「では、最初の質問です。あなたの出身地とお名前は?」


 それっぽい質問きたー。


「えっと、出身地は西のミタ村です。名前は、カラド・ボルグです」


「名前はカラドさんですね、出身地はミタ村……、聞いたことのない村ですね。まぁ、西の村なら仕方ないですけど」


 捜査官さんは、俺の出身地と名前を、操作書のようなものに書き写す。


「では、次の質問です。何故あなたは、帯剣しているのですか?この都では廃剣令はいけんれいという名の法律が存在するんですよ。あなたはそんなことを知らない、旅のものだと言うことはあなたを連れてきた所員から聞いています。ですが、タイミングが悪い。最近、都では辻斬りが増えていてですね。その犯罪に用いられた凶器の切り口などが貴方の持っている剣の切り口に酷似しているのですよ」


 そう言って、女性捜査官は机の下から俺の霊剣を取り出した。

 そして、その霊剣で適当に壁を切りつけた。そして、胸元のポケットからおそらく、辻斬りの被害者であろう者の服の一部を取り出した。

 そして、それを俺に見せつける。


「どうですか?この切り口と今切った壁の切り口、瓜二つでしょう?」


 目の前に、本当に瓜二つの切り口の広がる、服と壁が存在していた。

 マジかよ……、マジでタイミング悪過ぎかよ。死ねよ辻斬り野郎。

 俺は、タイミングの悪さと、これからどうなるかわからない恐怖、そしてそんなタイミングの悪い時に送った御師様への恨み辛みを心中で唱え続けいて、何も言えずにいた。


「何も言わないということはなしですよ、黙秘権は認めないと言ったはずです。さぁ、お答えなさい」


 ちっ、クソが、何て間の悪いときに俺を送り込むんだよ、クソババア、なんだいつもいつも小さい頃から間の悪い時に俺を使いやがって、なんだわざとか?わざとなのか?舐めてるのかくそめ……。

 てかどうしよ、どうしよ、俺これから刑務所入れられるのかな、てか処刑かな。マジかよ、修行もクソもねぇよ。あぁー、まじふざけんなやクソババア、まじ全部あいつのせいだ。

 今度帰ったら、斬り伏せてやる……。


「おい!話を聞け!お前はこのまま話さないのなら、お前が辻斬りの犯人になってしまうんですよ!」


 捜査官怒鳴り声に我に返る、そして目の前に、怒りに染まった捜査官さんの顔があった。

 あ、これ、説教パターンやん。

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