強くなるまで。
人生の旅人
第1話 旅立ちは突然に。
どうやら、俺は意識を失っていたらしい。
「医務室へ、ようこそいらっしゃっいましたね。貴方は路上で倒れていたのを運ばれてきたんですよ」
目が覚めると、そこは医務室の中だった。
そこのベットに俺は、寝っ転がっている。
そして、目の前には医務室よくある回る椅子に座った一人の女医。
なぜ女医だと、思ったのかというと。白い白衣に身を包み、且つ、透けて見える黒い下着、それに女医特有の艶やかな雰囲気を放つ美女だったからだ。
その女医の言葉を聞き、改めて自分が倒れていたことを自覚した。
倒れていたと言われて落ち着いているのは、倒れた直前の記憶があるからだ。
それはついさっきの出来事だ。
今日は霊剣配布の儀があるので、その時間まで暇だった俺は、小さい頃からの修行生活で培った剣術を遺憾なく発揮し、近所の公園でひたすら修行仲間と手合わせを行い、修行仲間たちから恨めしさと羨望の視線を浴びるという、自分の強さを誇示する行為を満喫していた。
だが、その修行仲間の中に
十八にもなって御師様にたっぷり説教を受けた俺は、御師様に軽く殺意を覚えながら、腰に携えた模擬戦用の剣をカチャカチャさせながら近所を徘徊していた。
そんな時、目の前を帯刀した男の東洋人が通り過ぎていった。
「!?」
通り過ぎざまに俺の鞘と東洋人の鞘とぶつかり合う、瞬間、俺は殺意のようなものに包まれた。
殺される。
それは、猫に飽きられて殺されるだけのネズミが感じるそれと同じのようにも思える殺意。
その明確な殺意に対して、一瞬で闘志が湧いた自分がいた。
なめんな!
俺は、腰に携えた模擬戦用の剣を東洋人に振りかぶった。
瞬間、東洋人は俺の目の前から消え、自分が空中を舞っていたことに気づいたところまでは覚えている。
その後、突然の激しい頭痛に襲われて意識が飛んだ。
「……そうっすか。えっと、一つだけ聞いても?」
俺の質問に、女医がゆっくりうなずいた。
「構いませんよ?」
「あの東洋人は……。いえ、俺の近くに男性の東洋人はいませんでしたか?腰に東洋特有の刀を携えた男なのですが……」
大切な事だった。
俺にはっきりと、見え透いた迄の殺意を向けた相手、初めての殺意を向けた相手。
俺に対して、何をしたのか、なぜ殺意を向けたのか、何をすればそんな殺意を放つことをできるのか、それがとても気になった、聞けないのはあまりに惜しい。
「男性の東洋人……。ああ、貴方を運んでくれた方ですね。彼は貴方をここまで連れて来て、医者料まで払ってくれましたよ。彼なら先ほど、貴方が起きる数分前に立ち去っていきましたよ、なんでも船に遅れるとかなんとかで」
マジか……。
どうやって俺を負かしたのかを聞きたかったぜ、チクショウ。
俺の様子を見ている、女医の顔は少し引きつっている。
「さて、次はこちらからの質問よろしいですか?」
女医の質問に、俺は女医と同じように深く頷く。
「どうしたんすか?」
「えっとですね、貴方はマチ道場の一番弟子のさんのカラドさんですよね。霊剣はもう配られたんですか?」
霊剣……?
てか、配られ?なんのことだ?
「いやその……。霊剣ってなんすか?てかそれ配られるもんなんすか?そんな大層な名前の剣なんて……あっ……」
俺はそこまで言って言葉が詰まる。
「思い出したっ!今日は霊剣配布の儀じゃん!女医さん、いま何時ですか!?」
俺は大事なことを思い出したて、頭に鈍い痛みが広がる感覚に陥る。
「え、えっと、夜中の零時です」
それを聞いて、絶望の二文字が俺の頭の中を支配する。
配布の儀は午後6時半に始まり、7時半に終わる筈だ。
全身は絶望に打ち付けられ震え出す。
「本っ当に、おばかさんだね、カラドちゃんは……。御師様、カラドちゃんを見る度に思っちゃうよ」
そんな俺に、女医さんは今までとは打って変わったかのような口調で話し始める。
ん?は?御師様……?
「あ、あんたもしかして、てかもしかしなくても御師様っすか?」
なんだろう、物凄く嫌な予感がする。
女医は、警戒する俺にニコニコしながら胸元に右手を突っ込む。
「そう、御師様だよ、カラドちゃん。今日は配布の儀に来なくてどうしたかと思ったけど、まーた、喧嘩してたんだね」
女医の姿はみるみる変わっていき、身を覚えのある巨乳年増美人の御師様に早変わり。
「……で、喧嘩の説教をしに来たと?」
御師様が、フッと鼻で笑った。
この野郎。
「まさか、幾ら何でも喧嘩だけでこんな手の込んだことはしないよ、てかそんなめんどくさい作業をカラドちゃんの為なんかに使いたくないよ、労働力の無駄だよ、全くもう」
ふうむ、ぶっ殺してぇ。
「まぁ、そんな話は千尋の谷でも突き落としてだ。さっきの話の続きなんだけどさ、カラドちゃんを騙してこうしたのには理由があってね。なんと、配布の儀をすっぽかした君に、じゃじゃーん!霊剣を届けにやってきたんだよぉ!」
そう言って、御師様はさっきから右手を突っ込んでいた胸元からひと振りの剣を取り出した。
「さて、君にこの剣を渡す前に、霊剣について説明させていただきます、理由はわかるね?霊剣についての修行をカラドちゃんがサボったからです、反省なさい」
あ、そう言えばサボったなぁ。
「その節はすいませんでした。ごめんなさい」
「よろしい、では説明に入るぞぉ」
そう言って御師様は霊剣を地面に刺して、説明を始めた。
「霊剣と言うのは、その名の通り霊の宿りし剣です。この剣に宿っているのは、剣の鬼たち、簡単に言えば生前、剣に生き、剣に死んだ者たち、人生の全てを修羅てして生きた者たちです。ある霊は世界を剣だけで変えた大英雄、またある霊は東洋で二刀流を極めた唯一無二の剣客、かの者達を宿したのがこの霊剣なのです。まぁ、一部例外も存在するけど……」
ふむふむ。
「次に、霊剣の最大の特徴、ただの剣との違いについてです。霊剣は使用者に様々な恩恵を与えます。例えば私の使う霊剣は私の魔力操作の向上と剣の筋を視覚化してくれます。これはこの霊剣に宿っている霊の生前の能力を受け継いでいます。このように、霊剣と言っても霊によっては能力は千差万別です。これがただの剣との違いです」
なるほど。
「これで、説明終わり!分かりやすい説明だったでしょ、どやぁ!」
満足そうに御師様がドヤる。
「うす、理解できました。あ、質問ですけど、俺に配布される霊剣の能力ってなんなんですか?」
説明の中で気になったのは霊剣特有の能力についてだ、やはりこれから使い手となるには能力は知っておきたい。
「そんなん知らんよ、私が使うわけじゃないし、それにこんな剣より私の愛剣の方が優秀だしー」
えぇ……。まぁ、いいか。
能力なんて使ってるうちに分かるだろ。
「はいはい、そうですね。優秀ですね、羨ましいですよ、はいはい」
御師様の優秀発言は軽く流す。
「さて、そろそろ話すのだるいからもう剣渡しちゃうね、はいよ」
そのめんどくさそうな投げやりな態度に、流石に俺もカチンとくるものがあったが無視して差し出された剣の柄を握る。
…………?
なんか、変な感じだな、妙に懐かしいというかなんというか、まぁ、剣なんてそんなんか……。
「んじゃあ、カラドちゃん。君は今をもって我が弟子からただの剣士として、生きることになりました。君がどのような実績を残して歴史に名を刻むか分からないけれど、あまり期待はしないことにするよ。さぁ、転送開始だ。まぁ、適当にここから一番遠い村にでも飛ばすよ、名前はなんだっけな……、ああ、サハラだ。君はまずそこで外の世界に触れて、修行でもするといい」
御師様の言葉と同時に俺の足元に魔法陣が現れる。
「さようなら、御師様。また会いましょう」
「ごめん、私はそこまで会いたくないかも……」
「はぁ!?なんで……」
俺は、言葉の途中で白い光に包まれた。
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