第2話

はじめまして!」

去年の冬、僕らは出会った。彼は何十のオーディションを滑り落ち、ここに引っかかったという。やっと夢が叶うかもしれないんですと満面の笑みを見せた。にこにこして明るい彼は僕とは対照的で、すぐに皆と打ち解けた。若手がやる舞台の練習は楽しくなった。いままではひどく退屈だった演技は彼が入ってきたことで変わった。彼は決してうまくなかった。かといって下手くそな訳でもなく。だが、彼の演技を見る度に、欲しい、欲しいと喉がやたらと乾くのだ。セリフを言うのに必死な彼の表情に、時々役が乗り移って見える。彼がその舞台からいなくなる。そんな演技を、彼はした。


劇団にとって彼の抜擢は急だった。

練習を少し見ていたという偉いやつが自分の舞台に出てほしいと言ったらしい。彼はイギリスに行くことになった。イギリスの舞台は素晴らしい。小さい所から大きな所まで、そこで栄光を勝ち取った俳優は確かな演技力を認められて、映画や世界的なステージに立てる。

僕は、彼と演技がしたかった。できたら、彼の演技をずっと見ていたかった。

「僕もついて行っていいですか」

ダメ元で彼を抜擢した所に頼んだ。その偉いやつは何故か僕を気に入り、彼と共に僕も引き抜きをしてくれた。皆は便乗したと陰口を叩いたが、二度と会わないような奴らに何を言われても惜しくはない。

しらじらしいお別れ会でめそめそ泣く彼が少し面白かった。








エピローグ終わりです。次から時間がまったり進んでいきます

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