第40話 勝った! 勝った! 夕飯はドン勝だ!!
NAME:Tenchi Hibino
LV:4
STR:28
AGI:32
INT:37
MP:5/34
SKILL:Seasoning,Magical cooking
(『調味料』『魔法の料理』)
NAME:Gouken Kogarashi
LV:38
STR:665
AGI:513
INT:402
MP:398/398
SKILL:Buster swing,Guard break,Hard crash,Physical strength up,Vitality up,Flame resistance,Cold resistance,Hardening,Recuperative power up,Guts,War cry
(『バスタースイング』『ガードブレイク』『ハードクラッシュ』『筋力上昇』『体力上昇』『炎耐性』『冷気耐性』『硬化』『回復力上昇』『根性』『雄叫び』)
レベル差34。
STR、AGI、INT、MP……どれを取っても比べるまでもねえ。
その上、俺には実戦向きのスキルがいくつもあるのに対して……野郎は皆無。
てんで話にならねえ。
にもかかわらず、あのガキは自信満々で宣戦布告してきやがった。
将棋部がメジャーリーガーに野球勝負を吹っかけるようなもんだ。
F1レースにセグウェイで参加するようなもんだ。
ライオンと犬っころ……いや、ケルベロスとカメムシぐらい実力がかけ離れてんだろうが。
逆にどうやったら負けられるのか、何卒ご教授願いてえくらいだぜ。
……とまあ、そんなわけで。
決闘という名の弱い者イジメを始める前まで……いや、野郎を軽くぶちのめすために笑っちまうくらい非力な射撃をあしらって接近するまで……俺は、自分の圧勝を信じて疑わなかった。
だが――――。
「てんめぇ……ずいぶんとまあ、こすズルい真似しやがるじゃねえか……嫌いじゃねえけどよ」
突如、足の裏に走った激痛。
思いっ切り踏みつけてしまった何かは今もなお深々と突き刺さり、ズキズキと痛覚を刺激する。
こいつ……戦いの前から仕掛けてやがったのか……!
ちくしょう……全く気付かなかった。
まさか、あんだけ強気な態度でカッコつけてやがった野郎が、こんなセコいことをしやがるなんて微塵も考えなかったぜ……くそっ!
己の不注意と野郎の姑息さに苛立ちながら、足を上げて異物の正体を確かめる。
ご丁寧なことに、見事なほど地面と同化する土色にわざわざ染め上げた、特徴的な形状の金属。
見たことはある。
ああ、おそらく誰もが見たことはあるだろう。
だが、実際に身を持って味わう機会があろうとは思いもしなかった……。
こいつぁ……どう見ても…………。
「そう、これが俺の秘密兵器…………『まきびし』です!!」
……………………。
………………………………………………。
………………おう………………………………。
…………まき……………びし…………………………だな……………………。
「「「わははははははははははっっ!」」」
間違いねえ……ここで暮らして何年も経つが、ベース史上初、過去に例を見ないほどの大爆笑に包まれた。
そりゃそうだ。
だって、まきびしだぜ?
剣と魔法でドンパチやらかすファンタジーなダンジョンで、何が悲しくてまきびしなんだよ?
あまりにもショボすぎんだろうが。
しかも、そんな玩具ごときに第一層最強(自分で言うのもなんだが)の俺がまんまと引っかかっちまって、挙句しっかり痛いっていうクソだせぇ始末。
あくまで真剣な顔で滑稽極まる秘密兵器を自慢げに語るガキと、まきびしにビビってガチで警戒しちまったカッコわりぃリーダー(笑)。
そりゃ笑っちまうだろうよ。
笑ってねえのは、謎の自信に満ち溢れたクソガキと、情けねえ己自身にブチギレそうな俺ぐらいなもんだぜ。
クソが……ッ!
「一応俺に一矢報いた褒美にいいことを教えてやるよ、天地ぃ……。てめえがやったことは、寿命を数分延ばす代わりに俺から遠慮と手加減をなくしちまっただけの悪手だ。これから味わう痛みで、自分がやっちまったことを死ぬほど後悔することになるぜぇぇぇ」
怒りで声を震わせながら、俺は努めて冷静に死刑宣告を下した。
しかし、相変わらず余裕の表情を崩さないクソガキは、憎たらしく肩をすくめて小馬鹿にするようにほざく。
「ふっ、ご心配なく。これから味わうのは『ずっと俺のターン』による優越感だけですから」
「てんめえ……いつまでふざ、けた……こと…………を―――――――??!」
!?!?
なん――――――?
だ――――――――?
こりゃ――――――――――!?
突然。
あまりにも、突然。
ぐらりっ――――と――――目の前が……いや、自分の脳みそが……ぐわんぐわんと回っている――そんな感覚に陥った。
気持ちわりぃ……っ!
体に……力が、入らねえ……!
目眩がするだとか、目が回るだとか、そんなレベルじゃ、ねえ……。
無重力空間でめちゃくちゃに高速回転している、よう……な…………。
「うっ……ぷ……………うおえぇぇえぇぇぇっっ!」
かすかに感じる土の感触……で、自分が四つん這いになっていることをぼんやりと悟りながら、全身の生気を吐き出すように激しく嘔吐する。
「て……めぇ…………な、何、を……しや……がった…………」
睨みつけることも叶わず、たった一言だけを何とか口にした。
おそらくはその場を動いていないクソガキの声が、やたら遠くから響く。
「ものすごく単純な話ですよ。そのまきびしにたっぷりと塗りつけておいただけです。日比野シェフが真心込めて作った……渾身の毒をね」
「毒…………だと………………!?」
「平衡感覚を狂わせるサイコスライムっているじゃないですか。あいつの体液をアホほど大量にじっくりコトコト煮込んだんですよ。多分二十キロくらい使ったかなぁ。十日間ずーっと煮続けたら五十グラムまで濃縮されたんですけど、粘性と刺激臭が日に日に強くなって……いやー大変でしたよ」
馬鹿なっ……ありえねえ!
愉快そうにペラペラと饒舌に語る憎きクソガキに突っ込む余裕もなく、吐き気に耐えて心の中で叫ぶ。
毒持ちモンスターは、そりゃもうウンザリするくらいいやがるさ。
だが、こんなちっちぇー傷にほんのちょっと入っただけだぞ?
しかも、たった十数秒足らずで死ぬほど気持ち悪くなっちまうふざけた猛毒なんざ滅多にありゃしねえ。
サイコスライムだあ?
あんなもん、仮に毒ガスを腹いっぱい吸いまくったところで、ここまで凶悪な症状は出やしねえはずだ。
「――――ぐっっ!」
ぐるぐる回り続ける頭で懸命に思考を巡らせている最中、右足にドスッという鈍い音と共に激痛が走る。
チッ、矢か……くそがっ!
こんくらい何でもねえが…………いや、待て……もしかして……………。
「さてと、後はこうして遠くから安全にチマチマ削るだけの簡単なお仕事です。そして、お気づきでしょうが……当然、それにも毒がたっぷりです。ちなみにですが、それはすり潰して乾燥させたダンジョンスズランにバジリスクの血を混ぜて煮詰めた自信作で、効果は全身の麻痺、そしてSTR低下となっておりまーす」
コイツ……!
このザマじゃあ、俺には野郎がノコノコ近づいてきたところを闇雲に攻撃することしかできねえ。
最初っから、ここまで見越した上で弓を練習してやがったのか!
「おっと、言っておきますけど、毒が切れるのを待っても無駄ですよ。長時間調理の甲斐あって、最低でも十分は効果が持続しますからね」
「なん…………だと………………っ!?」
こんだけ強力で即効性の毒にもかかわらず……効果時間がなげえ!
へっ……。
どうやら、俺はとんでもねえ勘違いをしていたみてえだ。
天地のスキル……『
だから、どうせ必死こいて作った料理を死に物狂いで食いまくって、その程度で勝てる気になって浅はかにも再戦を挑んだんだろう……としか考えてなかった。
しかし……実際は、調理という手順を踏むことで、どんな物にも魔法効果を付与するスキル、ってとこか……。
いちいち食わなきゃなんねえクソスキル。
ステータスをミジンコくれえ上げるだけのクソスキル。
そう侮っちまった。
まさか、このレベル差をひっくり返す可能性を秘めてるなんてな……。
「ふっ……ズルイと思いますか? 毒を使うのが卑怯だクズだと言うならば、凩さん……俺はその罵りを甘んじて受けましょう。必要なのは……結果だ! 結果は全てにおいて優先する! 勝つこと! 勝つことだけが全てだ! 勝たなければゴミ!! そんな勝ち方して嬉しいかって? ええ、嬉しいですとも。どんな勝ち方だろうと勝ちは勝ち。俺はただ、勝つために全力を尽くしただけのこと。とどのつまり……勝てばよかろうなのだァァァァッ!! その結果さえ得られれば、過程や……! 方法なぞ……! どうでもよいのだァーーッ!」
う、うぜーーーーーーーーっ!
どちくしょう、早くも痺れてきやがった体さえ万全なら問答無用でしばき倒してやるってのに……!
つか、別に文句なんざ一言もねえよ。
正々堂々なんつー清廉な概念を欠片も持ち合わせてねえモンスターを相手に、俺らは毎日毎日命がけで戦ってんだ。
そのドヤ顔はムカつくが、天地のなりふり構わず何が何でも勝とうとするハングリー精神を褒めこそすれ、卑怯者と罵倒するクソ野郎なんざ、ダンジョンのどこにもいやしねえ。
そのドヤ顔はムカツクが……。
「ふはははは! もはや動くこともできないでしょう……が! 俺は決して油断などしない! このまま毒のフルコースを心ゆくまで堪能してもらいますよ。シューーーート!!」
爆笑から一転、歓声に沸くギャラリー。
ぐっ……やべぇ!
これ以上もらっちまったら、完全に詰んじまう。
だが――――!
「なめんじゃ…………ねええええええええっっ!!」
毒を気合で吹き飛ばすように、猛々しい雄叫びとともに勢いよく立ち上がる。
同時に、俺の足に再び突き刺さるはずだった毒矢が、硬質な金属音を響かせて弾かれた。
終始余裕の表情を浮かべていた天地が大きく目を剥く。
「なっ!?」
瞬間的に体の硬度を鉄レベルまで高めるスキル『硬化』。
攻撃にも防御にも使える便利なスキルだが、代わりにMPをガンガン消費しちまうし、使用するためには少なからぬ集中力が必要とされる。
こんな状態じゃなけりゃあオルトロスの攻撃だって軽々防ぐ自信があるが……それでも、天地程度の攻撃なら全く問題ねえ。
「くっ、まだ硬化を使えるとは……!」
俺には、毒に対する耐性も毒を治すスキルもねえ。
正直かなり辛い。
体は超絶だりぃし、目の前は絶賛高速回転中で自分がどこにいるかもサッパリ分からねえ。
今にも倒れ込んでゲェゲェ吐きそうだ。
だが……!
劣勢であればあるほどステータスが底上げされる『根性』、疲労回復速度と自然治癒能力が上がる『体力上昇』のおかげで、現状を打破する最低限の力ならまだ残されている。
リーダーとして、一人の男として、負けるわけにはいかねえ!
「おおぉぉぉらぁぁああああああああっ!!
慌てて連射される毒矢を、半分は勘と運に助けられて硬化させた腕で弾き飛ばすことに成功した俺は、ふらふらと無様に距離を詰め――――渾身のボディブローで天地の腹をえぐった。
「ぐぁっっ!!」
「…………!」
――――チッ!
この、手に残る感触の軽さ……。
コイツ、寸前で後ろに跳んで威力を殺しやがった。
俺がこの体たらくとはいえ……レベル4の動きじゃねえな。
この野郎……おそらく毒を用意するだけじゃなく、バフ付きの料理をしこたま食ってやがる。
「いっつ……! っぶね~、死ぬかと思った……」
「へっ、わりぃが今は手加減できねえからよぉ……命が惜しけりゃ降参しやがれ」
ぶっちゃけ俺のためでもある降伏勧告をするが、天地はすぐに立ち上がりヘラヘラとした笑いを浮かべた。
「ご冗談を。凩さんこそ、相当しんどそうじゃないですか。大丈夫ですかぁ~?」
「……てめえ、弱いくせにずいぶん肝が据わってるじゃねえか。ちっとばかし見くびってたぜ」
ったく、生意気なガキだ。
ムカつくがよぉ……認めてやるよ、てめえを……それなりには、な。
だが……!
今、ここで勝つのは…………この俺だ!
「さて…………まだそれだけ動けるのは誤算でしたけど……そろそろかな?」
「ああん? 何が……――――――ッッ!??」
不意に。
予期せず。
何の前触れもなく。
俺の体は、俺の物じゃなくなったかのごとく、すぅっと魂が抜け落ちるように力を奪われ――ドサッと前のめりにぶっ倒れた。
「どう…………いう……こった…………っ!?」
間違いねえ、俺は今、少しも油断しちゃいなかった。
どんな攻撃も受けちゃいねえ。
それはたしかだ。
一体、何が…………。
「解せないって顔してますね。そりゃそうか……教えてあげましょう、俺の本当に本当の奥の手、最終兵器のカラクリを」
最終兵器……?
野郎……まだ何か隠してやがったのか……!
「と言っても、手口は単純明快。こいつを盛ったんですよ……オークすらぴくりとも動けなくする最凶にして最高の傑作――コブラソルジャーの毒をね」
「なっ――――!?」
そう言って天地は懐から小瓶を取り出し、中に入った紫がかったドス黒い液体を小さく揺らした。
「粉砕したコブラソルジャーの牙に血と唾液を混ぜて、それをひたすら炒ったんですが……これが、とんでもなく強力な筋弛緩系の神経毒になったんですよ。……ただ、効果が出るまで約三十分もかかるから実戦向きじゃないんですけどね」
盛った……だと!?
三十分前!?
んな馬鹿な……三十分前っつったら、まだ起きたばっかりじゃねえか。
そんな時に口にしたもんなんか…………。
「――――!」
「気づきましたか? そう……凩さんが寝起きに必ず飲むダンジョンコーヒーです。今日のために俺はあなたの生活パターンを徹底的に調べ上げましてね、仕込むならこれしかないと思いましたよ」
マジ…………かよ……。
たしかに、いつもと味が違った気がしないでもない……が…………。
あれに毒が?
……嘘、だろ…………。
「田辺さんにも一芝居打ってもらったんですよ。『天地がまた決闘を申し込んだ。闘技場で待ってる』と……本部の前で張って、あなたがコーヒーを飲んだ直後に伝えて欲しいって」
「っく………彰人ぉぉお…………!」
感覚のない頭を何とか動かし、目を閉じて申し訳なさそうに顔を背ける彰人を視界の端に捉えた。
多分、天地に土下座でもされて強引に頼まれたのだろう。
くそが……!
しかし、浮かれ気分でゴクゴク毒を飲み干した俺が、人が良すぎるという理由で彰人を恨むのは筋違いも甚だしい。
こいつぁ俺の失態だ。
「本当は開始直後にバタンキューしてくれると一番楽だったんですけど……いやー、なかなか難しいですねー」
そういえば……。
この野郎、戦う前にやたら挑発的にグダグダとしゃべくったり、のらりくらり長々と準備体操をしてやがったが……あれは毒が効くまでの時間稼ぎだったのか――!
「今度こそ俺の勝ちです。…………負けを認めてください」
「…………ッ」
天地の野郎……最後の最後まで搦手できやがって。
だが…………それがコイツの強さ、か。
へへ……正々堂々、真正面から……だなんて、どうして勘違いしちまったんだろうな、俺のクソ馬鹿は。
しばらく実戦から離れて、気づかない内にヌルくなっちまったもんだぜ。
ちくしょう……認めたくはねえ。
認めたくはねえが…………指一本動かせねえ、この体たらくだ。
あ゛あ゛あ゛あ゛もう……ったく、こんにゃろが。
「チッ……………………俺の……負けだ…………っ!」
その瞬間。
ドッッッ!!
――――っと、割れんばかりの歓声がベース中に響き渡り。
パァァッと顔を輝かせた天地が、弓を力強く握り締めた両手を高々と突き上げて叫んだ。
「よっ…………っしゃあああああああああっっ!!!」
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