第23話 俺に変人コンビが舞い降りた!
「ウェーイ! マユー、ヒサしぶーりデース! ゲンキしてたデスかー?」
「ふふ、君は本当に神出鬼没な子だね。まさか二層で会えるとは思わなかったよ」
「にゃっはははぁあぁあゲぇぇぇンキぃゲンキぃぃいぃだあよぉぉおおぉ」
青い瞳に高い鼻、金の短髪、百九十センチを超える長身痩躯の、やけにハイテンションな二十代後半の外国人男性。
切れ長の目に色白の肌、茶髪のおさげ、百五十センチ程度で小柄の、ミステリアスな雰囲気を漂わせる二十代前半の日本人女性。
すごい……。
この二人……共通点が面白いほど見当たらない。
そんな、あまりにもミスマッチな珍コンビが、まるで警戒せずに並んでスタスタと近づいてくる。
「お前が言うな」ってツッコミを覚悟の上で、あえて言わせてもらおう。
何だ、この変な二人組は。
今まで出会った囚人連中とは、完全に一線を画する。
まず、安全な拠点勤務ならともかく、魔物と対峙する探索班や防衛班は普通、屈強な男が大半を占める。
その点、この二人はどうだ。
眼鏡女の方は言わずもがなだが……外人男の方も、俺以上に筋肉とは無縁の、細っちょろいマッチ棒じゃないか。
服装も布と革だけで金属の類は一切身につけておらず、無防備の一言に尽きる。
……まあ、それこそ「囚人服のお前が言うな」って感じだけどさ。
じゃあ、魔法使いタイプなのかと言えば、それも怪しい。
なぜならば、コイツらは防具どうこう以前に武器すら持ってない。
完全に手ぶらだ。
俺が鉈を肌身離さず握り締めているように、どんな理由があれ武器くらい持つのが魔物への礼儀(?)というものだろう。
それをコイツらは、武装している方がむしろ頭おかしいと言わんばかりだ。
ここまでくると、何かこう……いっそ清々しい。
一周回って天晴れだよ。
「ム……! ムムムッ! よくミーたらー、マユにツレがいるんじゃアーリませんかー! ワーオ、アンビリーバボー! シンじられなーい!」
ようやく俺の存在に気がついた外人男が、身振り手振りを交えて大げさに驚く。
マユと行動を共にしていて驚かれるのは、もはやデフォなリアクションだ。
ただ……いつもと違って、言葉に親しみや嬉しさの感情が含まれているように感じる。
「へぇ……もしかして、君が日比野天地君、かな? 噂には聞いていたけど、実に興味深い存在だね。これは素晴らしい記事が書けそうな予感がするよ」
「オー! テンチ・ヒビーノデシタかー! スバらしいー、アいたかたデース。これはシャッターチャーンスデスねー!」
え、俺のこと知ってんの?
俺みたいな、ダンジョン歴がメチャクチャ浅いカス新人の若造を?
「うにゅぅぅうぅうぅぅてぇんちゃぁぁんゆうぅぅめぇぇじぃぃいぃん……?」
いや……もちろん、ちゃんと分かってるさ。
有名なのはお前の方だよ、マユ。
今まで出会った先輩方がマユを見たときの反応たるや……人気絶頂のアイドルや若手実力派の俳優もかくや! って感じだった。
残念なことに、感情のベクトルは真逆の方向だけど。
俺はきっと、最近なぜかマユの隣にいる腰巾着の冴えないモブ野郎として認識されているのだろう。
「イヤー、『キチガイKにベッターリでアタマがクレイジーなヘンジンのクソガキ』スゴーくタノしみにしてマーシタ! ……デモ、イガイとフツーなカンジデースね! クソツマンネーでしたデスヨー!」
……うん。
想像以上に、ボロカスに言われてました。
俺が一体何をしたっつーんだ。
ろくに知りもしない人間のことを、よくもまーそこまで悪く言えたもんだな。
よろしい、ならば
っていうか、KってのはキチガイのKだったのか。
けしからん蔑称だ。
考案したやつが分かり次第ぶっ殺してやる。
マユは、キチガイはキチガイでもキチかわいいキチガイなんだ。
「ふふ、君が悪い意味で個性的すぎるから、大抵の人間が平凡に見えてしまうだけだよ。日比野君、無遠慮で失礼な発言を許してやってくれ。彼に悪意はないんだ。ただ馬鹿なだけでね」
「オーーゥ、ヒドいイわれようデースねー!」
「にゃはははははははぁぁぁあぁぁあぁあぁぁ」
オーバーリアクションなボケ担当の外人男。
冷静沈着なツッコミ担当の眼鏡女。
楽しそうにケタケタと笑うマユ。
いつ魔物が襲って来るか分からないダンジョンで、どうして俺は安い漫才を見せられているのだろう。
呆気に取られて口をポカンと開けたまま固まっていると、眼鏡女は「おっと」とつぶやいて咳払いをした。
「そういえば、自己紹介が遅れてしまったね。私は
「ボクはローニン・フロックハートとイイマース。こうミえてフォトグラファーデース。ハジメマシテー、テンチー!」
「あ、ど……どうも。日比野天地……高校生、です……」
胸に手を当てて会釈をする雨柳……さんと、俺の手を勝手に掴んでぶんぶん握手するローニン……さんに釣られて、俺は半ば自動的に、もはや周知となっている名前を名乗った。
ていうか……え?
「え……っと……情報屋? フォトグラファー? このダンジョンで……ですか? それは、つまり……どういうことなんですか?」
「読んで字の如く、だよ。モンスターの攻撃パターンや特性、習性、生態、可食部分から、ダンジョンの構造、ギミック、マップ、自生している植物の特徴、有効活用法に至るまで、あらゆる情報を仕入れて普及する仕事さ」
「な、なるほど……」
そういう仕事があるとは全く存じ上げなかった。
まあ、よく考えたら俺がベースに滞在していたのはわずか一時間弱。
その後は、ひたすらマユとダンジョン生活。
ベース内の風景すらうろ覚えなのに、どんな仕事があるかなど知っていようはずもない。
「オーマイガー! テンチはフォトグラフをシらないデシタかー。ソレはジンセイのハンブンをソンしてるとオナじデスヨー!」
「……いや……そもそも、ダンジョンにカメラとかないじゃないですか」
これまた勝手に俺の肩を掴んでぶんぶん揺らしながら、ローニンさんが悲痛な叫びを上げる。
う、うるせえ……。
テンションもノリも正反対な二人と同時に会話するのってすげー疲れる。
「ナルホード、テンチはゼンゼンなーにもシらないデシタねー! なら、イッツショーターイム! ゴランいただきマショー、ボクたちのスーパースキルを!」
「ふふ、君の指示に従うのは癪だが、それが一番手っ取り早いね」
そう言うと、突然ローニンさんは戦隊ヒーローの変身の時みたいなポーズをドヤ顔で披露しながら、高々と叫んだ。
おそらく……いや、間違いなく、そのポーズに意味はない。
イタい……イタすぎるよ、この人……。
「
「やれやれ、騒々しい男だ。では、私も……
すると、二人の手元を淡い光が包み……一瞬の内に、ローニンさんの手には大口径レンズの一眼レフカメラが、雨柳さんの手には中世ヨーロッパを思わせる羽ペンと羊皮紙が握られていた。
「おお……!」
「どうデースか、テンチー! ハンパねーじゃないデスかー?」
何度見ても魔法には驚かされるな……。
カメラと……紙とペンを出す魔法か……。
なるほど、それで
いいなぁ。
ちょうど、マユとの記念写真でも撮れればなぁと思っていたし、マユとの思い出を綴った日記をしたためておきたいなぁと思っていた。
俺が欲しい物をピンポイントに狙い撃ちしたかのようだ。
『次のレベルアップで覚えたい魔法ランキング』の一位と二位と言っても過言ではない。
「さて、私達の魔法をご披露したところで……ついでに、お互いのステータスを公開するのはどうかな? 本当は無闇に相手のステータスを見るものじゃないが、君のデータを取りた……コホン、親睦を深めるためにも合理的な提案だと思うんだが、どうだろうか」
「…………はあ、別に構いませんけど……めっちゃ弱いですよ、俺」
この人、今何か不穏なことを言いかけなかったか?
別に隠すようなもんじゃないからいいけどさ。
この二人のステータスも気になるっちゃ気になるし。
「オー! イイデスネー、ソレ! すごくすごーくキョーミありマース! ヒサしぶーりにマユのもミたいデース!」
「にゃははははぁぁあぁあぁぁイイぃぃよぉおぉぉぉお」
人のを見るのは久しぶりだな。
どれどれ……。
NAME:Meguru Amayagi
LV:14
STR:84
AGI:104
INT:286
MP:134/192
SKILL:Writer,Scanning,Bookmark,Hearing ability up
NAME:Ronin Flockhart
LV:13
STR:127
AGI:169
INT:159
MP:108/146
SKILL:Photographer,Flash,Dynamic visual acuity up,Luck up
うおぉっ……!
思ったよりレベルたっかいな。
どっからどう見ても全然強くなさそうだったのに……人は見かけによらないにもほどがあるだろ。
けっこうなベテランさんなのだろうか。
とはいえ、この二人にステータスで負けてるっていうのは、何というか解せぬ。
レベルって非情すぎるだろ。
ちなみに、マユは……。
NAME:Mayu Kogarashi
LV:72
STR:1164
AGI:1396
INT:575
MP:864/979
SKILL:Vacuum slash,Auto counterattack,Weapon generation,Reflexes up,
Physical ability up,Poison resistance,Magic power absorption,etc.
うん、やっぱり俺のマユは最強だぜ。
でも、一週間前と変わりなし……か。
きっとマユくらいのレベルになると、次のレベルアップまでの必要経験値量も膨大なんだろうな。
最後に、俺はと言うと……。
NAME:Tenchi Hibino
LV:3
STR:21
AGI:24
INT:30
MP:6/21
SKILL:Seasoning
まるで成長していない……。
そろそろレベル上がってもいいんじゃないかなぁ。
ほとんど戦ってない分際で偉そうに言うのも何だけどさ……。
「ワーオ! マジでカスデスねーテンチ! チョーウケマース、ハハハハハッ!」
「へぇ……珍しいタイプだ。スキルは……うん、なるほどね」
「ムムム……シーズニング! ナンデスかーコレ、オモシロそーデース。ミせてクーダさいテンチー、オネガイしマース!」
「にゃっハハハぁぁあぁぁあぁてぇんちゃぁあぁんサぁぁトぉおぉオぉぉサぁぁぁトぉぉオぉぉぉおぉ♪」
雨柳さんは、何が面白いのか俺のステータスをじっくり見つめてブツブツ呟く。
一方、ローニンさんとマユは、ギャーギャーと喚きながら二人して俺の体を執拗に揺さぶりやがる。
愛しのマユはともかく、頭一つ高い外人のあんちゃんにお願いされて、素直にスキルを見せる義務もなければ義理もない。
……ないのだが、あまりにしつこいので仕方ないから使ってやることにした。
「…………
俺は、手で拳銃の形を作って、大きく口を開けるマユに五グラムの角砂糖を直接食らわせた。
にへらーっと至福の笑みを浮かべるマユ(かわいいなチクショー)。
一言も断りなく、カシャカシャと遠慮なくフラッシュをたくローニンさん(やっぱうざい)。
目はこちらへ釘付けになりながら、目にも止まらぬ高速でペンを走らせる雨柳さん(ちょっと怖い)。
「ふふふふふふふふ、実に面白いね。同じスキルの使い手がいないわけではないが、君のような高校生男子は前例がない。習得するスキルの法則性を解明するためにも、可能なら君の趣味嗜好から過去までじっくりと調査したいところだ」
「オー……メグルのワルいクセがでまーした。ブッチャケ、ちょとキモチワルーいデース」
「にゃははははははははぁあぁぁぁあ」
うへぇ……。
薄々感づいてはいたけど、だんだんと確信へと変わってきた。
この二人は関わり合いになっちゃいけないタイプの人種だ。
マユが他の人と楽しそうに会話するなんて滅多にないことだから心苦しいけれど、ここは早期離脱と決め込んだ方が無難なんじゃなかろうか……。
「じゃ、じゃあ、俺達はそろ――――」
「オーーウ、そいえばテンチアーンドマユー! ボクたちをニソウベースまでオクっててくーださいヨー。さっきゴエーともオサラバしちゃいまーしたし、このトーリデース!」
「ああ、私としたことが大事なことを失念していた。今回は武器を持ってきてないから私達だけじゃ心許なくてね……もちろん礼は弾むから、よろしく頼むよ」
「にゃっはははぁぁあぁもっちろんイイぃぃいぃいヨぉぉぉおぉぉお♪」
「そろ………………」
あるぇーー……。
なんてこったい……。
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