第81話 あたしの方が姉なんだよ!
家出したメルムを追ってきた春太達は街外れまでやってきていた。
水売りがぽつぽついるだけの一本道を進み始める。
セリーナが仕事を終えたようにゆったり歩いているので、この先にメルムがいるのは間違いない。
チーちゃんは水売りのタンクを眺めていて、プーミンはチーちゃんの耳の動きを眺めていた。
ついさっき春太達を追い越していった水売りがいたが、いくらもしないうちに追いつく。
水売りはタンクを曳いているため、進みが遅い。
春太達が横並びになると、水売りの少年が振り向いた。
少年は下品な笑みを浮かべ話しかけてきた。
「あんたら、この先でイチャイチャすんの、やめといた方がいいよ? みんなに見られてるから」
春太もマキンリアも、唐突な内容に目を丸くしてしまう。
「へ?」「え?」
そんな二人の反応を見て、少年は追撃のように続きを語った。
「あんたらもあれだろ、この先の洞窟で二人っきりになると幸せになれるって噂を信じて来たんだろ? でもその噂流してるの、俺らなんだぜ。ああ俺らっていっても、俺はしてないからな。俺は1~2回見て、やめた。なんかやっぱ悪趣味だからな、覗きって」
全く話についていけず春太は困惑した。
この少年は何か重大な勘違いをしているのではないか。
「ちょっと待ってくれ、俺達はイチャイチャしたりなんてしない。いったい何の話だ? この先に何がある?」
「……おいおい、知らないの?」
少年が訝しむ顔で訊いてくる。
春太は頷く。
まるで知らないことが罪のように言われても、知らないものは知らない。
すると少年は半分疑いながらも、説明してくれた。
「……この先は俺ら水売りの水汲み場があるんだよ。洞窟になってて、入口付近から地下水を汲むんだ。で、その洞窟はモンスターがいないから、ちょっとした名所になってる。小部屋みたいなところがいっぱいあるし、光る泉があったりとか……まあ、雰囲気が出るからカップルに人気なんだよ。それでさあ、中にはおっぱじめちゃうカップルもいるわけ」
なるほど、と春太は乾いた笑いを漏らした後、頭の痛い思いになった。こんなの、日本にいた時だって聞いてきたような類の話だ。クラスの奴が、公園の隅に止まっていた車を通り過ぎようとした時ギシギシ揺れてたから中を覗いてみたらヤッてたとか、そんな話で盛り上がっていた。しかも女子も混じって。よくそんな話で盛り上がれるなーなんて傍から眺めていたものだ。
「とりあえず、俺達はそういうのじゃない。だって兄妹だし」
ここへ来て初めてマキンリアとの兄妹設定が役に立った。まあ兄妹設定でなくても恋愛感情が芽生えることはないが、対外的にはこの方が楽だし納得してもらえる。
「あたしの方が姉なんだよ!」
マキンリアが変なところにこだわりを見せたが、春太は無視した。ここでややこしいことになると兄妹設定が崩れる。
ここまで聞いてようやく少年の顔から疑惑を向ける空気がなくなってきた。
「あ、そうなの? ここを男女で通るなんてカップルしかいないからてっきり……じゃあさ、あんたら何しにここ来たの?」
春太は重要なことに気付いた。こんなところで長話している場合じゃなかった。
「人捜しだよ。ああそうだ、あんまり悠長にしているわけにもいかないんだった。女の子が走っていくのを見なかった?」
家を飛び出していっただけとはいえ、どんな危険があるかわからない。
急ぐに越したことはない。
「いんや見てないよ。ていうか俺、これから水汲み場に向かうところだし。戻ってきた奴に訊いた方がいいんじゃない?」
「……それもそうか。分かったよありがとう」
「ここから洞窟まで30分もかからないよ」
「ありがとう!」
重ねて礼を言い、春太は少年と別れた。
そこからは速足で道を進み、すれ違う水売りの少年に話しかけていった。
「洞窟に向かう女の子、見なかった?」
「いや見てないよ。それより、今から行くのか? 気を付けた方がいいぞモンスター出るようになったから」
モンスター? と首を傾げる春太とマキンリア。
モンスターはいないのではなかったか。
次に出会った水売りの少年も。
「女の子? いたかなあ、覚えてない。それよりモンスター出るようになったから危ないよ。まだ誰も調査してないから行かない方がいいよ」
その次の少年も。
「女の子、いたような気もするけど……こっちも急いで出てきたからさ。それよりさ、モンスター出るようになったから、危ないよ」
モンスターの情報しか出てこない。
「一体どうなってるんだ?」
「今までモンスター出なかったのが、急に出るようになったのかなー?」
春太とマキンリアは互いに漠然とした情報をどう扱っていいか決めかねていた。
メルムの向かった先はモンスターが出る場所になったため、危険要素が出てきたのは確かだ。
次に出会った水売りの少年から遂に有力な情報が得られた。
「女の子? ああいたよ。洞窟の入口で男と一緒に座ってた。あれは訳アリなのかねえ? なんか微妙な雰囲気出てたけど」
「男と一緒……?」
春太達は更に困惑することになった。
メルムは一人で行ったはずなので、男と一緒ということは別人だろうか。
それとも実はメルムには彼氏がいて……みたいな展開だろうか。それならお邪魔しては悪いし……
このまま進んでいいものかどうか。
微妙になってきた。
しかし微妙ならば引き返すわけにもいかない。
安全を確かめない限りは。
モンスターに男……予想もしていなかった情報にもやもやしながら春太達は進み、洞窟に辿り着いた。
メルムを発見した。
彼女は洞窟の入口脇で体育座りになっていた。
そしてその隣には男が座り込み、何やら話しかけているところだった。
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