第67話 これぞ食の真髄
春太達がボスと会いやすいのは偶然ではない。
セリーナが微妙な異変を感じ取って、そこへ誘導していくためだ。
ボスを倒すことがレベルアップの近道であることをセリーナは理解している。春太がペットのレベルアップを望んでいることも理解し、レベルアップの近道を自分で見つけ出したのだ。
そんなことは露知らずの春太とマキンリアはボスの出現に驚いていた。
大広間状になっている空間を埋め尽くすような巨体が蠢いている。
薄明かりの中キラキラ輝くミミズのようなものが、蛇の如くとぐろを巻いていた。
「でかっ!」
春太が叫んだことでボス・ボールロベルテが侵入者に気付く。
ミミズそのままのぬめり気は感じられず、ピンクがかった硬質なクリスタルの身体が滑らかに動く。
ボールロベルテは上を向いて威嚇の咆哮を上げた。
するとボールロベルテの足元からわらわらと進軍を始める集団が現れた。
それは小型版のボールロベルテで、女王蜂が子供達を従えているかのようだった。
小型版達が春太の方へうねうね動いて向かってくる。
春太達は大広間の入口で後ずさりした。
「うわ、めっちゃ向かってきた!」
「シュンたん、ぼさっとしてないで早くチーちゃん達に!」
言いながらマキンリアがクロスボウを構え、矢を放つ。
小型版ボールロベルテの一匹に命中。
『10』
防御力がよほど高いのか、ダメージが少ない。
「硬ぁっ!」
「まるでフライドチキンを食べてる時軟骨だと思って噛んだら骨だったみたいに硬いね!」
「食い物で例えないでくれよ。っていうか軟骨食べてるの?」
「え、普通だよ。最後は骨も割って骨の髄までいただくんだから」
「怖い怖い!」
「これぞ食の真髄……! なんてね! それより早くしないとあたし達やられちゃうよ!」
確かにそうだ。
春太とマキンリアの力では一匹だって倒せないだろう。
こんな集団に襲われたら何もできず殺されてしまう。
春太はマキンリアに分かったと頷くと、ペット達に向き直った。
「チーちゃん、プーミン! 思い切り遊んでおいで!」
するとチーちゃんは目を輝かせ尻尾をパタパタ振った。プーミンは起き抜けのように思い切り両手を突き出し伸びをした。
あえてセリーナには何も言わなかったが、セリーナは春太の方を一瞥すると、その場にお座りした。待機しつつ、危険があればすぐにでも行動を起こすという役割だと認識してくれたようだ。さすがお姉さんである。
チーちゃんが吠えながら走って行くと、あちこちで火柱が上がった。
火柱が上がる度に小型版ボールロベルテが突き上げられ、宙を舞う。
『2015』
『1998』
『2022』
『1950』
火柱一つで一殺。
次々と小型版が昇天していく。
プーミンはチーちゃんの後ろに隠れながら雷を撃ち込んだ。
雷は幾つも枝分かれし、一気に五匹も六匹も巻き込んで倒してしまう。
チーちゃんとプーミンの前では、モンスターはひれ伏すしかない。
小型版達はあっという間に全滅してしまった。
「いつもながら素晴らしい……」
春太は愛するペット達の活躍に満足して悦に入る。集団相手では魔法攻撃が主体のチーちゃんとプーミンがもってこいだ。セリーナはフィジカルな攻撃ばかりだから一度に一匹しか倒せない。俺はちゃあんとこの子達の特性を見ていたんだぜ。個々の特性を生かした戦法を駆使するのがペットマスターだからな。
ただ、どうせならペットサーカスみたいに芸を仕込みたいものだ。
今のところ、チーちゃんとプーミンは芸ができない。セリーナだけはできるんだけど、一匹じゃサーカスにならないんだよな。
チーちゃんが大広間に入っていき、ボスの巨体を見上げる。
ボールロベルテは頭部の先をパックリと開け(これが口だ)、そのままチーちゃんにかぶりつこうと突進してきた。
両者の体格差は100倍以上。
普通ならチーちゃんはおやつにされて終わりである。
しかしこの世界はそういう風にはできていない。
チーちゃんのひと吠えで炎の渦が発生し、それがボスを呑み込んだ。
ゴウゴウと音を立て螺旋を描く炎の渦。
これが多段ヒットすれば豪快なダメージが叩き出される。
春太はどれほどのダメージが出るのか期待して見ていた。
だが。
『1421』『0』『0』『0』『0』『0』『0』『0』『0』『0』
春太は異変に気付く。
「あれ……?」
一撃目はダメージがあったものの、二撃目以降全て0だ。おかしい。
ボールロベルテにも異変があった。
奴の体色がルビーに変わっているのである。
いったい何が起こったのか?
驚いている間にボールロベルテがチーちゃんに食いついた。
地響きが起こるほどの衝撃。
『15』
チーちゃんがダメージを受け、身を竦ませる。
「チーちゃん!」
思わず春太が駆け出しそうになるが、マキンリアが制止する。
「シュンたん待って! シュンたんが行っても無駄死にするだけだよ! それにチーちゃんはあれくらいじゃ死なないでしょ?」
「そ、そうか……」
春太は思いとどまった。そうだ、チーちゃんのHPはまだまだ残っている。確かHP3000くらいあった。それに……
セリーナを振り返ると、彼女は優雅にお座りしたままだ。
本当に危険なら彼女が飛び出すはずである。
でも、どうすれば良いのか?
チーちゃんは再び炎の魔法を繰り出す。
自身の身体の何倍も膨らんだ火球がボールロベルテを襲う。
『0』
ダメージ無しだ。
そこでプーミンが助けに入る。
地面と平行に走る雷がボールロベルテに命中、スパーク音を迸らせた。
『1329』『0』『0』『0』『0』『0』
プーミンの魔法も一撃目だけダメージが出て、残りは0だった。
「げっ……これどうすれば良いんだ?!」
春太はハラハラして落ち着かなくなった。
ボールロベルテは今度は体色をトパーズに変化させ、咆哮を上げた。
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