第52話 モンスター級の可愛さだ!

 森の木々は根元が豊かで、巨大なオブジェが並んでいるようだった。

 こんな大きな木は日本では見たことがなく、チーちゃん達は興味津々で根元の臭いを嗅いで回っている。


 森を歩くとオオカミを連想する。

 イヌの祖先と言われるオオカミ。

 以前ネットで検索してみたところ、DNAの分析からイヌとオオカミは非常に近しいと分かったようだが、オオカミからイヌが分かれていったことは推測することしかできないようだった。

 ヒトの食べ残しを求めてやってきたオオカミを飼い馴らしていったのが、イヌの始まりではないかと考えられている。文献が無い以上、想像するしかない。

 ちなみにオオカミ、キツネ、タヌキといった犬顔の動物達の祖先はトマークタスというらしい。イラストで見ると、この時点で今のようなイヌ型のフォルムになっている。もっと前の祖先が森から草原に進出してこの形になったそうだが、オオカミのイメージが森(というか山)なのは変なものだ。これはニホンオオカミ=山のイメージの影響だろうか。


 ニホンオオカミは絶滅してしまったが、日本の犬にはオオカミに酷似した種がいるのをご存じだろうか。

 川上犬という種だ。

 ぜひ検索してみてほしい。写真を見ればこれオオカミじゃないの、と思うから。

 そして貴重なことに、この川上犬はニホンオオカミの血を継いでいるのだとか。イヌとオオカミの交配種なのだ。


 チーちゃんのような超小型犬を見ていると、オオカミの気配は全く想像できないなと春太は思う。

 しかしDNAを調べればなんちゃらオオカミに行き着くのではないだろうか。

「ねえシュンたん、何考え事してるの?」

 マキンリアが顔を覗き込んできたので、春太は学者ぶって応えた。

「そうだね……ツリーのこととか」

「へえ、おっきい木ばっかりだからね」

 そのツリーじゃなくて系統図のツリーだよ、と春太は思ったけど特に言うことはしなかった。

 たまにお互い違うことを思っているのに会話が成立してしまうことがある。

 でもそれをわざわざ訂正しようと思うことは少ない。

 そこまで重要なことを話しているわけではないからかもしれない。


 ポタポタ落ちてくる水滴の音に交じり、鳥の声が聴こえてくる。

 巨木の枝葉が広がる上方で小鳥がさえずっているのかもしれない。

 だがその声が下りてくると、セリーナが耳を立てて警戒を示した。

「どうしたのセリーナ?」

 春太が気になって尋ねてみるも、セリーナは耳に集中している。この時片方の耳だけ向きを変えたりするのがちょっと可愛い。

「どっかにモンスターがいるんじゃない?」

 マキンリアがそう言うので、春太は周囲を見回してみる。

 森は上空が枝葉のカーテンで光を遮っているため、薄暗い。

 モンスターがどこに潜んでいても不思議ではなかった。

 春太は担いできた弓を握り締める。

 いつでも対応できるように神経を研ぎ澄ます。


 そんな中でセリーナが動いた。

 バネを溜めたかと思うと華麗な垂直ジャンプ。

 ボルゾイは日本のハイジャンプ大会で表彰台を独占するほどのジャンプ力の持ち主だ。

 そんな彼女の背中から、更に上へ向けて何かが射出された。

 それはプーミン。

 セリーナの背中から飛び上がったのだ。


 猫は動く獲物をキャッチする習性がある。

 春太やマキンリアが見上げた上空で、プーミンは飛行物体をキャッチした。

 重力に従い落下してくるプーミンをセリーナが咥えて助ける。

 セリーナから垂れ下がったプーミン、そしてプーミンの手の先に捕獲した物体。


 それはカラスだった。

 黄色であり、普通のカラスより一回りほど小さい。


 その黄色カラスの頭上には『2760』とダメージが表示されていた。

 プーミンの頭上には『121』『125』とダメージが表示されている。これはセリーナが咥えたからで、狩場では味方からの攻撃もダメージを受ける仕様だからだ。ちなみにセリーナは二段攻撃のためプーミンは二回ダメージを受けた。

 黄色カラスは哀し気に鳴くと天使に姿を変え、空へ昇っていった。


「シュンたん、これは驚きだね……!」

 マキンリアは無警戒だった頭上にモンスターがいたことに驚愕したようだった。

 敵は周囲にいる可能性だけではなく、頭上にもいる可能性があるのだ。

 しかも小鳥のような無害そうな声で鳴くようなものでも。

 春太も信じられないものを目にしたような表情で頷いた。


「ああ、これは驚きだ。セリーナに咥えられたプーミンがこんなに可愛いなんて……!」


 春太の目にはカラスなど映ってはいなかった。

 セリーナとプーミンは親猫が子を咥えて運ぶ時の光景にそっくりだ。

 大型犬と小型猫でちょうど親子に見えるのもポイント高い。

 プーミンは安心しきっているのか、だらんとぶら下がっている。

 白いお腹がこっちに向いて、とってもキュートだった(シンガプーラは背中がセピア色でお腹は白いのだ)。

「シュンたん、そうじゃないよ! モンスターだよ!」

「ああ、これはモンスター級の可愛さだ!」

「そうじゃないって! 目を覚まして! ほらまた来るよ!」

 マキンリアが上を指差すと、そちらの方から黄色カラスが三羽やってきていた。

 空の敵は攻撃するのが大変だ。

 セリーナがジャンプしてその背中からプーミンがジャンプしてようやく届くのだから。

 いや、違った。

 春太は自分の持っている武器の特性に気付く。これなら届くじゃないか。

 弓を空に向かって構えた。

 マキンリアも弓を空へ向ける。

 二人とも遠距離射撃ができるのだ。

 同時に放たれた矢が飛来するカラスに当たる。矢はある程度軌道を補正してくれるようで、素人でも楽に当てることができるのだった。

 マキンリアの矢は『35』のダメージを与え、カラス一羽が昇天。

 春太の矢は『20』のダメージを与えたがまだ倒せない。

 カラスの残りは二羽で、春太とマキンリアでもう一射してどちらも倒した。

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