第38話 ペットファースト
春太達が店に入ってすぐ目についたのはダガーやショートソードだった。
値段は激安、でもそれらを見ている人は殆どいない。
初心者用の武器なのだろう。
少し進むとダガーやショートソードでも高価な物が陳列されていた。
こちらの方には沢山の人が視線を注ぎ、手に取ってみている人もいる。
弓が置かれている一角もあった。
そろそろ弓も一段上の物を使ってみたい……そう思って春太は手を伸ばしたが、鎧の方が先だと思いとどまる。
変わった武器も置かれていた。
セーネルでは見かけなかったが、ジャマダハルがある。
普通の剣と違い、ジャマダハルは刃が拳と同じ方向を向いている(普通の剣は拳と垂直方向だ)。
柄の形状も全く普通の剣と異なるため、扱いが難しそうである。
そんなジャマダハルを熱心に見つめる者がいた。
細い目に面長の顔、尖った耳とエルフの特徴がよく出ている。
中性的な顔立ちだが、おそらく男子だろう。
見た目が当てになるかは分からないが、春太と同年代の少年という印象だ。
「メルムはこれを使ってたんだよな……俺だってこれを使えば華麗に……」
エルフ少年はぶつぶつ言いながら体を動かし始めた。
ジャマダハルを装備したつもりになって、攻撃を繰り出す。
シャドーボクシングみたいだ。
春太もマキンリアもじっとその様子を見ていたが、視線に気付いたエルフ少年はコホンと咳払いした。
「さーて、買う物買って帰るか」
わざとらしく独り言を零し、エルフ少年はジャマダハルを手に取ってレジへ向かって行った。
春太とマキンリアは珍しい武器に関心を示していただけだったが、その視線がエルフ少年を急かしてしまったようだ。
ジャマダハルでも一番高額な物を持っていってしまったようだが、大丈夫だろうか。
高額商品だから悩んでいたのだろうに。
奥に進むと鎧のコーナーがあった。
「シュンたんってさあ何で鎧着てなかったの? 着たくなかったの?」
マキンリアが疑問をぶつけてくるので春太は首を振った。
「ペット用の装備を揃えたら買えなくなっただけだよ」
「えぇーペット用の装備を先に買ったの? セリーナ達すっごく強いのに」
確かにセリーナ達は強い。
装備など誤差にしか見えなかった。
だが、そこは問題ではないのだ。
「ペットファースト……という言葉がある」
「…………何それ」
「全てにおいてペットが優先されるという考え方だよ。レディファーストみたいなのって紳士的でしょ。ペットを優先するのもとても紳士的なんだよ」
「そんなの初めて聞いたよ。それってレディファーストとペットファーストだとどっちがファーストなの?」
「ペットファーストに決まってるでしょ? 何恐れ多いこと言ってんの? 愚問でしょ? ペットがエベレストだとしたらレディは裏山だよ」
春太は物わかりの悪い子に教えるように入念に言った。ちなみに男子が平地ってのはわざわざ言わなくて良いよな?
数ある鎧の中から動きやすそうな物を探し出す。
春太のような弓士に求められるのは機動力と攻撃力だ。
全身鎧を着るような弓士は基本的にいない。
ここに陳列されている中でも胸当てを中心に見ていけば良いのだ。
一番安い物は木でできていた。
触ってみると少しだけ弾力もある。
正直、防御力はさほどなくても良いので安物で構わないのだけれど……
しかし、選び出すとデザインも気になってしまうのが春太の性格でもあった。
普段はデザインなんて……と言っているのにどうでも良い時に凝ってしまうタイプなのである。
「うーん人間用なんてどうでも良いんだけどなあ……」
そんな言葉を漏らしながら視線があちらこちらに迷う。
「じゃあシュンたん、これはどう?」
マキンリアがオススメを示してきた。
それは葉っぱだらけの全身鎧だった。
「マッキー、俺は森にカモフラージュしてスナイピングを楽しみたいわけじゃないんだ」
弓士でも着られる全身鎧というのは珍しいが、ちょっと玄人志向過ぎると思う。
全身に葉っぱが付いたこの鎧を身に着けて森で伏せていれば、なかなか気付かれることはないだろう。
しかし、そうまでして待ち伏せて撃ちたい需要が今のところ、無い。
「じゃあこれは?」
次に彼女が示したのはフリフリの可愛らしい胸当てと腰当てのセット。
「俺に女装の趣味は無いんだ。マッキーが着れば良いじゃないか」
「あたしはこれちょっとなあー……」
「自分が微妙だと思った物を人に勧めないでくれる?」
「じゃあこっちは?」
今度はプリントTシャツみたいに柄の入った鉄の胸当てだった。
ファンキーな文字で『アイラブリリョー』と書いてある。
「こういうの元いた世界でも度々見かけたやつだよ。お土産を買いに来たんじゃないんだからさ」
真面目に選んでないんじゃないのかと疑いたくなるラインナップだ。
しかし自分で選ぶのもなかなか決められない。
ピアノを演奏するように手が彷徨ってしまう。
すると、セリーナが春太の服を咥えて引っ張ってきた。
どうしたの、と春太がセリーナに目を向けると、彼女はとある商品棚の所に前足を乗せた。
『これがいい!』というようにキラキラした顔でセリーナが見てくる。
犬にも人間と同じように表情がある。
体調の良い時悪い時、気持ちがのっている時沈んでいる時。
飼育経験がある人は、ああこれは笑顔だと直感する時があるのだ。
間違いなく今のセリーナは笑顔だった。
それだけオススメの物が見付かったのだろう。
どれどれ、と春太はそれを手に取ってみた。
純白の胸当てと腰当てのセット。
ただし、腰当ての後ろからはセリーナのような純白のふさふさ尻尾が垂れ下がっていた。
「よし、買おう」
春太は一も二もなく決めた。
これでセリーナとお揃いだ。
「ねえシュンたん、それはやめた方が良いと思うよっ」
マキンリアが青ざめた様子で止めてくる。
「え、何だって?」
「それ仮装用だし、割と女の子用だしっ」
「え、何だって?」
もはや反対意見を聞く気はない。これを買うためなら難聴主人公にもなってやる。
ペットとお揃いというのはペット愛の極みだ。
こうして鎧の購入が終わった。
春太のステータス
レベル:7 種族:ヒューマン
攻撃力:48 防御力:47 素早さ:48 魔力:35
HP:58 MP:58
スキル:曲射、強撃
装備:ラトリエの弓、ミルスブーツ、トレンサー弓用手袋、エルガ胸当て、エルガ腰当て(仮装大会仕様)
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