エピローグ それがあたしの世界征服

 友達とは何か。

 親子とは何か。

 そういうことは、考え始めると終わりが無い。


 どうであれば友達なのか。

 どうであれば親子なのか。

 その線引きも難しい。


 でも、気になる。

 明確でないそれらを胸に抱え、俺達は学生生活を送る。

 同じ年齢の人間が集まると、他の人がどうなのか気になる。

 大きな不安が支配する。

 そんな時期は不安定になりやすい。

 しばしば突飛な行動や過剰な抑圧、感情の暴走などが起きる。


 実際にはマキンリアがどんな心境だったのかは分からない。

 でも、色々あったのだろう。

 色々あって、戻ってきた。

 ここに。


 春太はぽかぽか亭の看板を見上げた。

 それから玄関へ視線を落とすと、オルカおばさんが外まで出てそわそわと待っていた。

 隣のマキンリアは恐る恐るといった足取り。

「どうしよう、どうしよう……」

 生まれたての小鹿だ。

「どうもないよ。早く行きなって」

 春太が促すが、彼女の足は重くなるばかり。

 そうしていたら、オルカおばさんがマキンリアの姿を見付けた。

「マキンリア!」「……おばさん!」

 オルカおばさんが駆け寄ってマキンリアを抱き締めた。

「ごめんなさい、迷惑かけて……」

 マキンリアが怒られるのを恐れるようにぼそぼそと言う。

 だがオルカおばさんは怒るどころか、優しくこう言ったのだった。

「バカだねえ、迷惑かけない子がおるかい。迷惑かけるくらいで、ちょうどいいんだよ」

 マキンリアはしゃくりあげ、オルカおばさんは彼女の背中を優しく叩いた。


 本当の親子みたいだと春太は思った。

 いや。

 今、なったのかもしれない。

 再び、宿の看板を見上げる。

 屋号が夕陽に照らされ、温かな色味を帯びていた。


 収穫祭が終わって。

 その夜、春太はぽかぽか亭でオルカおばさんと話していた。

 結局、今回はセリーナ達のレベルは上がらなかった。

 この子達はレベルが高すぎて、ここら辺のモンスターと戦っていては殆ど経験値の足しにならないのだ。

 だから。

「もうワンランク上の狩場がある街に行きたい? そうねえ……」

 オルカおばさんは腕組しながら思案する。

「それに、トージローさんも捜さなきゃだし。すぐでなくても良いです。あと何日かはここで俺のレベル上げをして、それから出発するつもりなんで」

「それ、あたしも連れてって!」

 突然マキンリアの声が割り込んできた。

 春太やオルカおばさんだけでなく、セリーナ、チーちゃん、プーミンと次々振り向いていった。

 彼女はあでやかな民族衣装で着飾っていた。

 シーダスの母が祭に間に合わせて織ってくれたのだ。

 さわやかグラデーションの糸は全て模様が異なるため、二つとして同じ仕上がりになることはない。

 不思議な模様は彼女の元気さも、複雑さも、表しているようだった。

「…………何で?」

 春太は怪訝な顔で尋ねる。こっちの目的はペットのレベル上げが至上命題だが、言ってみれば気ままな諸国漫遊だ。他の人が付いてきても楽しいとは思えない。

 するとマキンリアは腰に手を当て、ニヤリとした。


「世界中の名物を倒す……それがあたしの世界征服なのだ!」


 食の魔王は世界征服を宣言してしまった。

 春太は肩を竦めてみせる。

 こんなに壮大な理由なら反論が思いつかない。

 ペットのレベル上げと世界征服、どちらが早く終わるのだろうか。

 セリーナ、チーちゃん、プーミンが食への期待からか目をきらきらさせるのだった。

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