第19話 俺の恐怖は今、愛によって打ち消された
春太は新たな狩場【セマレンク湖】へやってきた。
この湖周辺はプラッケ山よりも強いモンスターが出現するという。
湖は広大で、春太の記憶と照合すると、家族旅行で立ち寄ったダム湖に近かった。
水の色はスカイブルーで、穏やかな湖面は空や遠くの景色を映す鏡のようだ。
湖周辺には草原や林。
木が特徴的な姿をしていて、『?』の形みたいになっているものが並んでいた。
「さあお散歩開始だ!」
春太が宣言するとチーちゃんはテンションが上がり、そこらでマーキングを始める。
プーミンは小さな虫が跳ねる度にそれを目で追っていて、セリーナは奇妙な木々に興味を抱いているようだった。
春太は弓を握り締める。
マキンリアがいなくなった後服屋を見てみたが、民族衣装は75000と高額だった。 ここで稼いだら何とかならないだろうか……?
狩りを開始。
草原にはイノシシが見えるが、サイズがプラッケ山のものより大きい。
林の方には鹿や謎の生物が見える。
謎の生物が気になり、近付いていった。
人型をしているが、歩き方がフワフワしていて人間離れしている。
だんだん姿がはっきりしてくると、それが歩く植物だと判明した。
木の欠片や蔓が寄り集まって人型になり、フワフワと奇妙な歩き方をしていたのだ。
人間でないものが人間の真似をして歩いていることに、怖気が這い上がってくる。
「怖っ! 夜だったら逃げ出すところだよ。ホラーだろこれ、なあチーちゃん?」
春太は気を紛らわすために愛犬に問いかける。
だがチーちゃんは何とも思っていない様子で大きな目をウルウルさせながら首を傾げた。
それを見ただけで春太の恐怖は払拭された。
「俺の恐怖は今、愛によって打ち消された」
春太は華麗な手捌きで弓を構える。
その目は鋭く光り、ベテランのハンターを思わせるものだ。歩く植物がなんだ。愛犬の『愛』は『愛は勝つ』の愛である。必ず最後に愛は勝つのだ。だから俺は勝つ。
幸い、歩く植物は一匹だ。
矢の飛距離もこれまでの戦いで大体掴んできている。
林に入り、ぎりぎりの射程範囲まで近付いていった。
忍び足でも下草がガサガサうるさいが、気にしない。気にしたら負けだ。
弓を引き絞り、大体の狙いをつけて。
矢を放つ。
軽快な風切り音を残し矢は一気に敵までの距離を駆け抜け、命中した。
20のダメージ。
歩く植物は春太に気付き、ふわふわと歩き出す。
春太は手を緩めない。
既に次の攻撃モーションに入っている。
続けて二射目、18のダメージ。
三射、四射と繰り返す。
歩く植物は遅く、あと一射は安全に射ることができそうだ。あと一射したら距離をとろう。
そうして放った五射目、21のダメージ。
春太が弓を構えたまま後ろに走り出そうとした時、歩く植物がひっくり返った。
どうやら逃げる必要なく倒せたようだ。
「おー、ここでも充分やれるじゃん!」
狩場のランクを上げたからといってモンスターが劇的に強くなるわけではないようだ。
ドロップアイテムは植物モンスターらしく木の枝や果実だった。実がなっているようには見えないのに果実が落ちるのは奇妙だが、ゲームではよくあることだ。
アイテムを拾って大食い袋に入れていると、周囲から不気味な声が聴こえてきた。
「フオオオオオオオォォン……」
怪談話にでも挿入されそうな、風鳴りのような掠れた声。
それが二つも三つも聴こえてきたのだ。
春太がびっくりして周囲を見回すと、歩く植物が三方向からこちらに向かってやってきているではないか。
突然の出現だったらしく、セリーナ達も今気付いたようだ。
モンスターがちょうど出現するところに出くわしてしまったのかもしれない。
春太はすぐに弓を構え、三匹の内の一匹に狙いをつける。
今度はさっきみたいに五射もする距離が無い。三射がいいところだ。
シャンッ…………シャンッ…………シャンッ…………
断続的に矢を放つ音が耳に吸い込まれていく。
もう距離が無くなり、春太はダッシュで逃げた。
二秒ほど走って距離を稼ぎ、振り返る。
三匹の内二匹はセリーナ達が既に倒していた。
これで安心して一匹に集中できる。
そう思った時だ。
「フオオオオオオオォォン……」
不気味な声が春太のすぐ後ろで聴こえてきた。
「ヒイッ!」
春太が鳥肌を立て振り返ると、すぐそこに歩く植物がいた。
歩く植物は手を伸ばし(これは本当に伸びた)、春太の腹に張り手を見舞った。
春太は面白いようにふっ飛ばされて仰向けに倒れる。
残りHPは幾つだと確認してみると『19/34』。
どうやら歩く植物は足が遅い代わりに攻撃力が高いようだ。
起き上がると、背後には春太が最初に攻撃していた方のモンスター。
それが近くまで迫ってきていた。
前方にも後方にも敵、絶体絶命。
しかしそれは普通の場合は、だ。
春太に張り手を食らわせた方にはセリーナが飛びつき、倒した。
残るは手負いの一匹のみ。
春太はダッシュして距離を稼ぎ、振り向きざまに弓を構え、矢を放つ。
敵に命中。
また距離を稼ぐ。
その間歩く植物が更に三体増えたが、今度はセリーナ達が春太に近付かせる前に倒した。
春太は安全を確保し、矢を射る。
矢がヒットすると、モンスターはひっくり返った。
「ふぃーあぶねー。油断すると危険だなここは」
春太が安堵の息を漏らし、それと同時にレベルアップのファンファーレが鳴った。
春太のステータス
レベル:5 種族:ヒューマン
攻撃力:38 防御力:27 素早さ:34 魔力:25
HP:42 MP:42
スキル:曲射、強撃(通常より強く弦を引き、強烈な一撃を放つ。MP消費10)
装備:ラトリエの弓、ミルスブーツ、トレンサー弓用手袋
「新しいスキル覚えた!」
苦労した甲斐があり、レベルアップだけでなくスキルまで取得できた。しかも見るからにダメージアップできそうなスキルじゃないか。これで俺もいっぱしの弓士にはなったんじゃね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます