第7話 己の肉体こそが、一番の鎧です
最後にフーラが初心者の行く森を教えてくれたので、行ってみることにした。
まずはその前に武具屋で装備を揃えることにする。
【武具屋ニダース】という割と大き目なお店に入ってみた。
大通りに面していて、人の出入りも多そうだったのでハズレではないのだろう。
看板に『初心者歓迎、店員が武具選びをお手伝いします』とあったので、店員に早速頼んでみることにした。
「武具屋ニダースへようこそ! コーディネートをお望みですか?」
元気の良い女性店員が声を掛けてきたので、春太は頷く。
「はい、お願いします。初めてなんで、一通り揃えたいです」
「分かりました! 予算はどれくらいです?」
「えー……10000あるので、全部使っちゃうのは怖いな……じゃあ7000で。あと、ペット達の装備も含めてコーディネートお願いします」
春太の横でセリーナやプーミン、チーちゃんがお座りして見上げると、女性店員はその可愛さにあてられたようだった。
「やーん可愛い! この子達のためにも頑張らなきゃ!」
武器や防具が所狭しと並べられた店内を、店員に連れられ歩いていく。
棚の並びは書店に近いかもしれない。
本の代わりに武器防具が飾ってあるのだ。
冒険者と思しき人があちこちで武具を手に取り、感触を試したり値段とにらめっこしている。
中には『あーこれ買いたいけど、買ったら宿代が……!』などと切実に悩んでいる人も。
元気の良い女性店員は春太を試着室の前に立たせ、あちこちから武具をかき集めてきた。
「初心者用ということでエントリーモデルを揃えてみました! ご試着をどうぞ~!」
スノーボードみたいな言い方だな……などと思いながら春太は試着室に入る。
試着して冒険者証の裏を見てみた。
春太のステータス
レベル:1 種族:ヒューマン
攻撃力:15 防御力:11 素早さ:11 魔力:2
HP:10 MP:10
スキル:なし
装備:ラトリエの弓、革の胸当て、革の腰当て、ミルスブーツ、トレンサー弓用手袋
「おお、けっこう強くなった気がする!」
殆どのステータスが一桁から二桁になったので、大幅な強化と言えるだろう。
試着室から出てきた春太が満足そうにしていると、店員がセールストークを始めた。
「わあ、お似合いですよお客様! カッコイイです!」
「え、そうかなあ?」
セールストークと気付かずニヤける少年。
チーちゃんにも店員の持ってきた装備を試着させてみた。
チーちゃんのステータス
レベル:456 種族:チワワ
攻撃力:2678 防御力:2202 素早さ:1953 魔力:3825
HP:3787 MP:4228
スキル:ファイアーボール、ファイアーウォール、インフェルノ、プロミネンス、マグマジェット、ガイアゲイザー、アポカリプスバーン、ドゥームズデイフレイム
装備:マルカン強化牙、マルカンレッドスカーフ、マルカン小さな靴下
「…………元の値なんだったっけ。全然上がった感がない。てかこれ、誤差じゃね?」
春太は率直な感想を述べた。元が強過ぎて装備の意味がねえ……いや、でも……
「可愛いからいっかー!」
そう考え直し、春太はチーちゃんを抱っこした。
プーミンとセリーナにも同じものを試着させ、ニヤニヤする。
店員は笑顔を引きつらせながら話を続けた。
「とても可愛いと思いますよぉ。ですがお客様、ペットの装備を揃えると予定金額をちょっとオーバーしてしまうんですよねー……全部で8900コロンとなりますので、これを7000にまけるのはちょおっと厳しいのでぇ……」
全部は買えないということか、と春太は理解する。
「うーん、じゃあ諦めようかな……」
「そうですね、ではペットの装備は無しと」
「……革の胸当てを」
「いうことでええっ?!」
店員が素っ頓狂な声を上げ、店内がざわついた。
春太は疑問顔をする。なに言ってんの、ペットの装備を諦めるわけがないじゃないか。
「え、足りないですか? じゃあ革の腰当ても諦めますが?」
「い、いえいえそういう問題ではなく! お客様、鎧を買わずに冒険に出るというのは聞いたことが……!」
店員があたふたしているので、春太は安心して下さいとばかりに親指を自身に向け、渋い声で言った。
「己の肉体こそが、一番の鎧です」
文字で表すなら『極太の筆で荒々しく書道用紙に書きつけたもの』だ。
それくらい春太の中ではカッコイイ決め台詞だった。そう、これぞ漢字の『漢』で『おとこ』と読むカッコよさだ。ペット愛の前に鎧など不要である!
店員は春太の貧相な肉体を見て、汗付きの笑顔(しかも引きつっている)になった。
「えー……と、ムキムキの人が言うなら分かるんですけどぉ……」
結局、革の胸当てと革の腰当てを諦め7500になり、7000にまけてもらった。
とにかくペット達が可愛くなったので春太は満足した。
装備も揃ったので初心者用の森【セーネリンガ】にやってきた。
見た目は普通に木々が生い茂る森で、街を出て徒歩五分という好立地。
入り口には『ようこそ!』の看板まであった。
その他色々説明書きもあったが読む気がしないので、さっそく冒険開始。
春太の出で立ちは弓と手袋とブーツ、後は洋服上下である。
ちょうど森から帰ろうとしている女の子二人組が不審者を見る目で通り過ぎていった。
春太は別にいいじゃないか、と心の中で女の子二人組に反論する。どうせ弓士なんて近付かれたら終わりだ。鎧なんてなくても良い。要は近付かれる前に倒せば良いんだよ。
「さあ、お散歩に行こうか!」
そうやってセリーナ達に呼びかけると、彼女達は一斉に期待の顔を春太に向けた。
『お散歩』とは魔法の言葉である。
特に犬にとっては至高の娯楽であり、この単語を聞くだけでテンションMAXになる子までいるほどだ。
森というのは最高で、セリーナもチーちゃんも、プーミンも、次々と木や草に鼻を近づけてにおいを確認していった。
やはり草木と土のある所がこの子達が一番活き活きする。人と共に暮らすようになっても、根底には自然を駆け回る血が流れているのだ。
少し歩くと、木々の間をぴょんぴょん飛び跳ねる影が見えた。
それは小型犬ほどの大きさもあるカエルだった。
「……モンスター発見! 気付かれる前に倒す」
武具屋で買った『ラトリエの弓』はこの森の木から作られていて、和弓の形をしている。
春太が弓の弦を引き始めると矢が何も無いところから出現。
この世界では矢は自動で生成され、モンスターに命中するなりミスして地面に落ちるなりすれば消えるのだ、と初期講習で教わった。
チーちゃんやプーミン、セリーナが見守る中、矢を射る。
カエルは飛び跳ねていて当てにくそうに見えたが、見事に一発で命中させた。
本来は的に当てるのも大変なハズなのだが、この世界では矢が進路を補正してくれる。
ドシュッという音と共にカエルの頭上に『10』の吹き出しが躍った。
カエルはひっくり返り、半透明の天使に姿を変え空へと昇っていった。
「おおおぉー! やればできるじゃん、俺!」
春太は顔をほころばせた。一撃で倒せるとは。初心者用とはいえ嬉しいね。
それから、春太は不思議な光に包まれた。
チープなファンファーレと共に『レベルアップ!』の文字が目の前を通り過ぎていく。
光が収まった。
レベルアップか、と春太は冒険者証の裏を確認してみた。
春太のステータス
レベル:2 種族:ヒューマン
攻撃力:24 防御力:13 素早さ:20 魔力:11
HP:18 MP:18
スキル:曲射(障害物の向こう側にいる敵に大きくカーブする矢を放つ。MP消費4)
装備:ラトリエの弓、ミルスブーツ、トレンサー弓用手袋
「強くなってる! スキルも覚えてる! やったよチーちゃん!」
春太が笑いかけるとチーちゃんは大きな耳を畳んで尻尾を振った。
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